名簿/510441
- ――2。 --
- ……結局、合計で二時間くらい歩いた気がするんですけど……。
(目標地点、ルアマース遺跡らしき場所に着いたようで、棒のようになった足の膝に手をついて大きく息を吐く) (らしき、というのは、予想をしていたように大きな遺跡が迎えてくれたわけではなく、各国の旗が立ち並ぶだけの異様な場所で風越先輩が止まったからだ) (旗の中には本国であるベルゴルデの物や南方のシゼリアの物ももちろんある) -- 雑務
- ほぼ迷うことなく到着出来たことを祝おう。雨季、この場合雪季っていうのかな、吹雪くと地元の人間でも方向感覚失うらしいし。
……気になる? 旗。 (適当に足元を蹴り固めながら尋ねる) -- 優理
- あ、はい。ベルゴルデとシゼリアの物は国境付近なので分かるんですけど……。
なんで色んな国の旗が立ってるんですか……? ここの地点って条約批准の地だったりするんですか? -- 雑務
- 簡単に説明するとね。
このベルゴルデって国は、このルアマース遺跡の『採掘権』を他国に貸し出して利益を得てるんだよ。 -- 優理
- えっ、貸し出し……?
採掘権ってことは、掘る権利ってことですよね? ルアマース遺跡をですか? -- 雑務
- 本気で何も聞かされてないんだな……。結構今回の採掘の要的な情報になるのに。
(地面を固め終わってそこにテントを張り始める。割りと慣れた手つきだ) ルアマースの遺跡は、今から70年くらい前に見つかった自然遺跡でさ。 中にはそこに住んでた原住民の遺産が保管されてる、いわば保管庫か何かだって言われてる。 歴史的な発見とまでは行かないけど、それなりに見るべき宝も発見されてる大型の遺跡でね。そこを採掘する権利が他国に売りだされるくらいに価値のある場所なんだよ。 -- 優理
- 随分大層な代物だな。肝心の遺跡がどこにあんのかわかんねーけど。 -- ヴィル
- あ、そう、それです。ヴィル先輩と同レベルっていうのは腹立たしいですけど、その遺跡ってどこにあるんですか? -- 雑務
- この地域は雪季と乾燥季に分かれるって言ったよな。
季節の変化は、気温の変化となって舗装していない地面を徐々に緩くしていく。 だから、肝心の遺跡は……。(言いながら、テントを結び、指で下を指す) -- 優理
- ああ、なるほど……それで『探索』じゃなくて『採掘』ってわけか。面倒クセェ。 -- ヴィル
- ここは大陸の中心部で、断層の境にあったっていうのも大きな理由だろうけどな。
お陰で70年前に好事家が超音波で掘り当てるまでここに金脈が眠っているって誰も知れなかった。 結果的にある程度遺跡の上に国家が形成されるくらいの間眠りについていたせいで失われなかった財宝も多かったらしいから良し悪しだよね。 -- 優理
- じゃあ、私達がこうやって掘って大丈夫なんですか……?
さっき言ってた採掘権がどうとかいうのに関係してくるんですかね。 -- 雑務
- 八割くらい正解。俺達は某国からの依頼で掘りに来た下請けって立場。
その某国、簡単にいえば南部のシゼリア先央国なんだけど、そこが今年の採掘権をベルゴルデ北方連合から買い取ってる。 半年単位だったかな。その辺は俺もうろ覚えだけど。 《大法典》としては、ルアマース遺跡に焚書が眠っているという情報を前もって得てたから、何らかの交渉があるんだと思う。 その辺は上の人が上手くやってくれるだろうし、俺達が考えることじゃないけどな。 -- 優理
- シゼールの時よりゃわかりやすくてオレはありがてぇけどな。
要は遺跡の中にある焚書を回収してくりゃいいんだろ。ガキの使いじゃねえか。 -- ヴィル
- 半年単位で採掘出来る国が変わるような遺跡で、見つかってない焚書を探すって時点で難易度高くないですか……。
じゃあ、その辺に立ってる旗って、今まで採掘を行った国が立てていったものなんですね。 -- 雑務
- 記念。ってわけじゃないだろうけどな。
多分、我が国ここにあり、みたいな威圧を込めたものだと思う。 ただ掘れる権利ってだけじゃなく、ここ一帯が期間中は契約国の自由に使っていいみたいだから。 ……さっきの地図で、この一帯だけ国境が丸く歪んでたろ。 -- 優理
- あ、歪んでました、歪んでました。
何か遺跡の分だけベルゴルデが得してるような気持ち悪い感じに。 じゃあ、その円状の土地をそのまま採掘のために使用していいような感じになるんですね? -- 雑務
- 普通国を上げた採掘ってなったら、それなりに装備も必要になるし、大規模にもなれば工事みたいなものも必要になるかもしれない。
そのために周囲の土地も併せて、一定期間貸し出せるようになってる。 国境線は元々真っ直ぐだったんだけど、ルアマース遺跡が見つかったときに、そういう運用方法をするってことでベルゴルデがシゼリアから買い上げたらしい。 -- 優理
- 位置的に、丁度国境またぐような感じでしたもんね。 -- 雑務
- 実際に国境を跨いでたらしいよ。それくらい大きな遺跡だったし、もしかしたら今でも国境の下まで続いてるかもしれないって言われてる。
その遺跡と周辺を「貸与」という形で運営した時にどのくらいのペイバックがあるか試算を重ねた上で、二カ国が協議した結果らしい。 ベルゴルデからシゼリアに大きな金が動いたとも聞いてる。 -- 優理
- じゃあ、今回シゼリアから依頼があったってことは、目的の焚書が手に入ったらシゼリア大儲けですね。
二重取りじゃないですか。国を売って焚書を売って。 -- 雑務
- なんでテメエが嬉しそうなんだよ。テメエの懐にゃ1Gも入ってこねーぞ。 -- ヴィル
- い、いいじゃないですか別に。 -- 雑務
- そういう背景もあって、この二カ国は今協調国家として歩んでるから。
あんまりシゼリアもベルゴルデから搾り取ろうとかは思ってないんじゃないか。勝手な予測だけど。 密偵とかの立場で密入国してこそこそ掘るよりはよっぽどマシだが、マシと思う時点で毒されつつあるのかもしれない。 -- 優理
- 成層圏から降下するのにパラシュートを備品の中に入れねえ連中だからな。
どう考えても頭数を個数で数えてるとしか思えねえ。 -- ヴィル
- え、それってどうやって着地したんですか。 -- 雑務
- 聞くんじゃねえ、殺すぞ。 -- ヴィル
- なんでいきなりブチキレなんですか!? そんなに気に障ること聞いてないでしょう!?
もういいですよパラシュートない話は。でもそしたら今回は荒事にならないでいいかもしれないですね。 -- 雑務
- だといいけどな。
実際遺跡の中に何が潜んでるかは分かんないし、採掘に関しては死亡しても訴えないっていう宣誓書を書かされる。 ということで頼んだぞヴィル。お前が頼りだ。宣誓書は二人分書いておいた。 -- 優理
- おう、気が利くな。そういう面倒なことはお前に任すぜ。 -- ヴィル
- ヴィル先輩はそれでいいんですか……?
っていうか、私も書いてないんですけど宣誓書。大丈夫なんですかね。 -- 雑務
- この採掘で死んだ場合、訴える権利だけは保証されるね。
まあ現場に存在しない人間なので死んだこと自体受理されるか分かんないけど。 -- 優理
- なんでそんな報告がないから事故率0%みたいなことになってるんです私!?
正式にそういう文書交わす必要があるなら言ってくださいよリリィさんも風越先輩も!! -- 雑務
- 組織の人間でもねぇやつにそんな契約みてーなこと出来るわけねーだろ。 -- ヴィル
- 組織の人間でもあるのにそんな契約結んでない人に言われたくないですよ!! -- 雑務
- まあ、だからさ。
雑務ちゃんここで待っててくれていいよ。そのためにテント張ったんだし。乾燥季だから埋まりはしないでしょ。 ここまではまあ、少し遠い遠足だったってことで。(膝を払いながら言う) -- 優理
- ああ、そうだな。文句ばっかり言ってねえでここにいろよ。
それか来た道戻って帰ってりゃいいだろ。正式な依頼受けたわけでもねえんだし。 -- ヴィル
- えっ、何ですかそれ。……急に突き放されても困るんですけど。
先輩達、もしかしてすぐ潜るんですか? その、ルアマースの遺跡に。 -- 雑務
- 早めに潜って早めに帰りたいというのは本音。
少なくとも、ヴィルが俺の魔力を吸い続けてるこの状況でのんびりするわけにはいかないから。 -- 優理
- ちゃちゃっと終わらせて帰って飯にしてーんだよオレは。なんか鍋とかが美味いらしいからな。
足手まといになるくらいならここで膝抱えて待ってろよ。何しに来たのかは知らないけどよ。 で、風越、入り口どこだ。なんとかの遺跡の。 -- ヴィル
- クレバスの間から入るらしい。正規ルートだったらな。
そのための装備は持ってきてないからぶっつけ本番で飛び移ろう。 -- 優理
- 出たとこ勝負ってやつだな。オレはその方が気が楽でいい。段取り決まってるよりよっぽど楽だ。
しかも、多分そんなに焚書までの距離離れてねえな、これは。直線でいったらあっと言う間に終わるぜ。 (斜め下の地面を見ながら、どこか愉しげに呟く) -- ヴィル
- え……ヴィル先輩、焚書の位置が分かるんですか……? -- 雑務
- さあな。もしかしたら勘かもしれねえ。気のせいかもしれねえけど。
なんとなく、そんな気がして、そんな気以外しないだけだ。 ……もしかしたら、同類だと分かるのかもしれねえな。焚書同士。 -- ヴィル
- (焚書。焚書十篇。『貪欲のブランクノーツ』。ヴィルの正体)
(風越先輩の言う通り、人間ではない存在であることが本人の口から証明されて、少しだけ息を飲む) (人と変わらない、人と同じ姿をしていながら、人間ではない存在) (……何故か、人間扱いされていないことに、自分が少しだけ心を痛めた) ……行きます。着いていきます。 足手まといにはなりません。なったら、置いていっていいです。 -- 雑務
- 勝手にしろよ。オレはどっちでもいいんだ。
……禁書じゃなくて焚書を狩るのは初めてだからな。ちっとは楽しみになってきて機嫌がいいからな。 -- ヴィル
- 寝覚めが悪いからなるべく侵入と脱出を同じ人数で行いたいな。
打ち上げの飯は男二人じゃ味気ないからな。 -- 優理
【つづく】 --
- ――1。 --
- (コク。コク。と足の下で踏み固められる雪の感触を楽しめたのは、三歩目までだった)
(かれこれ、もう電車を降りてから一時間はこの雪の中を歩いているので、膝が疲れでガクガクと震えている) (もちろん寒さもあるのだが、脛辺りまで降り積もった雪を掻き分けながらの行軍は、慣れていない身には余りに辛かった) (それでも、私達が居る雪原は今夏季も過ぎた乾燥期であるらしく、吹雪いていないだけマシだったが、マシというだけで楽ではなかった) ……風越先輩……後、どれくらいなんですか……。 (我ながら情けない声が出た。前を行く先輩に尋ねると、先輩は振り返ってこちらを見る) -- 雑務
- ……どうだろうな。
真っ直ぐ歩いてたらもうすぐ着いてもおかしくないんだけどな。 (言いながら立ち止まり、地図を広げる) -- 優理
- ………。えっ。
迷った可能性あるんですか? こんな目印もない雪原で? 足あと辿って帰ることすら出来ないような場所で? ちょっと、自信満々に進んでるので何か作戦あるんだと思ってたら風越先輩!? -- 雑務
まあ、多分山脈にぶち当たってないから方向はそれほど間違ってないだろう。 南のシゼリアに抜けたとも思えないし、何より国境を跨いだら雪原関門に引っかかる。 国として北方からの入国がそんなにザルにはしておかないだろうしな。 何より、要点で国境がひん曲がってる部分だ。他の国境よりも意識は向いてるだろうから。 -- 優理
- 山脈って……この地図縮尺どのくらいだと思ってるんです……。
山脈にぶち当たるまで進んでたら完全に迷子じゃないですか。 一晩こんなところで過ごさなきゃいけないのはきつくないですか……? (はぁ、と息を吐く。氷点下の気温で呼吸が真っ白い) (足と手を擦り合わせて暖を取るが、それでもまだ寒い) -- 雑務
- 俺達は滞在する予定だけど……。あれ、雑務ちゃんその連絡ってしてなかった?
少なくとも絶対に一泊はする予定だったんだけど。 -- 優理
- 聞いてませんよ!? えっ、先輩方ここで一泊するつもりなんです!?
どこで……!? カマクラとか作るんですか!? 着替えとかなんにも持ってきてないですけど、私大丈夫なんですか!? -- 雑務
- 雪中泊かな。ビバークっていうらしい。
雪原も砂漠と同じで何が起こるか分からないからな。念のためっていうのもある。 もちろん順調に行けば日帰りで帰ってベルゴルデで一泊して観光を楽しんで帰るっていうのもアリだと思うけど、そう上手くいけばいいね。 -- 優理
- 文句あんなら帰れよ。
それか北方なんとか国で待ってろっつったろうが。ギャーギャーギャーギャー、うるせえな。 -- ヴィル
- (後ろから追い付いてきたもう一人の先輩を横目でチラリと見てすぐに視線を逸らす)
……嫌ですよそんなの、ここまで来て。それに、一人で迷ったらそれこそ死んじゃうじゃないですか。 -- 雑務
- ……テメエでケツも拭けねえのに着いてきやがって。
足手まといになったらその辺に埋めてくぞ雑務テメエ。 何回も言うけどこっちは遊びで来てんじゃねーんだよ。 -- ヴィル
- それを言うなら……私だってリリィさんから直接の、『お願い』はされています。
ヴィル先輩達に同行してサポートしてやって欲しいって……。なんか、そういう。 -- 雑務
- 雑務ちゃん、多分シゼールの一件で気に入られちゃったよね。不幸なことに。
尚更直接のお願いが来たならこっちの依頼の内容伝えてくれればいいのに。いつも片手落ちだなあの上司。 -- 優理
- 俺なんて依頼の内容すら教えてもらえなかったぞ。
風越に着いて行けとしか言われなかった。 -- ヴィル
- いつものことだろ。信頼されてるんだよ、ある意味。(適当) -- 優理
- そうか。
流石のオレも電車から降りたら雪国でビビったけどな。 -- ヴィル
- いや……そこまで教えてもらってないならちょっと自信なくなってきた。
出来れば凍死して欲しいって願いが割りと多めに含まれてるかもしれない。 -- 優理
- ………。
ていうか、この国に入ってからずーーーーっと聞きたかったんですけど、ヴィル先輩。
……寒くないんですか。 見てるだけでこっちが寒いんですけど。(こいつ馬鹿じゃないのという目で見る) -- 雑務
- 鍛え方が違ぇんだよ。
軟弱なテメエらと一緒にすんじゃねえ。 -- ヴィル
- 調整が効くんだよ。俺からの魔力供給で。
戦闘要員だからな。動きの邪魔になりそうなものは極力装備させずに行きたい。 -- 優理
- (そういえばヴィルは人間ではなかったのだと思い)
へぇ……。便利ですねぇ……。 私もう限界に近いくらい寒くて耐えられないんですけど……。 -- 雑務
- 一応、ヴィルの周囲の空気を温める方向で体温調節させてるから、触れてみれば?
多分それなりに暖かいと思うけど。 -- 優理
- え、本当ですか?
(暖を取ろうとヴィルの身体に抱きつこうとする) -- 雑務
- (無言で避けて足を払う) -- ヴィル
- って、えっ!?
(何もない空中を掴んで体勢が崩れて雪の中にダイブする) (首元から雪が入り込んで悲鳴があがった)ひきゃあー!!? 冷たっ、冷っ、ヴィル、ヴィル先輩!? なんで避けた!? 寒っ!? あっ…!! 死……!! -- 雑務
- いや……避けるだろ。 -- ヴィル
- 俺も避けると思った。 -- 優理
- 優しくない!? この先輩達、後輩に優しくない!?
……え、演技とは言え砂漠で倒れてる後輩を足蹴にするし……女の子扱いどころか人間扱いもされてない気が。 (首元から入った雪を掻き出しながら) ……あれ、砂漠で思い出しましたけど……。 ヴィル先輩、体温調節出来るのにあの時遮光フード被ってましたよね? -- 雑務
- あん時ゃ風越のアホが魔力供給遮断してたからな。お陰で初日に偉い目にあった。 -- ヴィル
- (少しだけ視線を細めて)
あの時は相手が『人間』で、行うべきは『交渉』だったからな。 灼熱の大地にあって遮光フードも装備してない人間は嫌でも目立つ。 不審がられたら困るので、人間の振りをする必要があったのさ。 -- 優理
- (人間の振り、とあっさり口にする風越先輩に少しだけドキリとする)
(そういう性格だということはここ二ヶ月程のやりとりの中で理解出来ていたが、それにしても物言いが率直過ぎる) (ヴィル先輩の過去について全てを知っているわけではないけれど、人間の形をして人間の思考をしている者が人間扱いされないというのは、辛いことなのではないかと思ってしまった) (過去に自分がそうであったことも原因なのだろうが) (恐る恐るヴィル先輩の方を見ると、目が合って慌てて逸らしてしまう) じゃあ、今回は……。人間を相手にしないっていうことですか。 それと、戦闘要員としてヴィル先輩を連れてきたっていうなら、荒事になる可能性もあるってことですよね。 -- 雑務
- ……というより、正確に言えば何が起こるか分からないってだけだよ。
今回は国を相手取るんじゃなく、遺跡の探索だから。 -- 優理
- 遺跡、ですか……?
それが、ベルゴルデ北方連合とシゼリア先央国の国境にある……『要所』、なんです……? -- 雑務
- ……ほんとに何にも聞かされてないんだね。
今回の依頼は、ベルゴルデ北方連合南部、国境線沿いにある遺跡での『焚書の回収』。 ……ルアマース遺跡の中にある、焚書が一つ、『カシン・イ』の回収だよ。 -- 優理
【つづく】 --
|