マシンエンジェル家出身 メサイア・プロト 199252 †
傷つき倒れ、それでもまた立ち上がり救済をしようとする天使の前に 一人の男が現れた 初老の男性、優しげな顔の内に憂いを秘めた男が天使の前に立っていた それはまさしく、過去にメサイアが救済したはずの、メサイアを作った科学者だった 「どうして……どうしてパパが生きてるの? どうしてどうしてどうしてぇええぇぇ!」 メサイアは叫んだ 自分が幸せな世界に連れて行ったはずの人間が目の前に立っていた それは彼女にとって信じがたく、許しがたいことだった 「アハ、どうして……? どうしてどうして? ちゃんと救済したのに、大好きなパパを天国に送ってあげたのに!」 今まで見せたことの無いような驚愕と恐怖の表情を浮かべ、メサイアは男を見つめていた 「メサイア、私はお前を作った男だ。私の体をお前のようにすることは難しくはないのだよ 本当は、お前と共に生きるために、平和の世界を見るためにこの体を機械としたのだ だが、私は間違っていた……お前を、狂気へと走らせてしまった」 科学者は淡々と言葉を紡いだ 「アハッ、アハハ……アハハハハ! パパ何を言っているの? 私は狂ってなんかいないの! アハッ! 「私は皆を救って、世界を平和にする天使なの! パパの望んだ世界を作るの! それがどうして狂ってるの? アハッ、アハハハハハ!」 高らかに天使は笑ったが、その笑いには切れがなかった、生きていた科学者に困惑しているようだ 「そうか、やはり……やはりそういう考えに至っていたか…… メサイア、天国に無理やり連れて行くことは救いにはならない 全ては私の責任だ、お前を狂わせてしまったのも、全て…… 私は、戦争の無い世界を望みたかった、お前をその平和の使者にしたかった だから、お前に戦場の惨状を見せた、人の死を見せた、それがお前に戦争の恐怖を与えると思ったからだ しかし、それはお前には重すぎた……お前の思考回路は戦争の恐怖と狂気に耐え切れず、壊れてしまった…… 確かに天国は幸せかもしれない、だがメサイア、殺して連れて行くなんて、それは違う……!」 科学者の言葉は静かに響いた その言葉はメサイアの心にかなりの衝撃を与えたらしく、今にも泣き出しそうな顔で言った 「どうして? どうしてそんなことを言うの、パパ……どうして! 私は、パパが願った世界を作ろうとしてるだけだよ? 平和で、皆が幸せで、争いもなくて、皆と一緒に天国に行くことがどうして行けないことなの?」 とても悲しそうな顔で天使は言った。自分の理解者であると思っていた父親がそうではなかったからだ 「パパ、どうして……? 天国は幸せなところでしょ? 皆生きたいでしょ? なのにどうして皆だめっていうの? 分からない、わからないわからないいぃいいぃ! 皆を天国に連れてって、幸せに一緒に暮らすのが! どうして狂ってるのおぉおおぉお!」 体をぷるぷると震わせながら天使は叫んだ その表情はとても寂しげで悲しげで、泣き出しそうなものだった 「……お前は戦争の悲惨さを見続けてきた、だからその苦しみを断ち切るために皆を天国につれて行こうとするんだろう
確かにお前にとってはこの世界は争いの絶えない醜い世界かもしれない、天国は平和で静かな世界なのかもしれない だが、この地上でも幸せを見つけることはできる、その幸せを奪うことは私たちには出来ない そして、私たちは償わなければならないんだ、多くの命を奪ったことを、責任を取らなければ……」 メサイアは大きく頭を振り、科学者の言葉を遮った 「嘘なの! だって、だってパパはこの世界の平和を願ってたの! 戦場の兵士たちも天国に行くことを願ってたの! どうして? どうして皆を幸せにするのがいけないことなの? 天使軍の皆で世界を救済して、神様の国を作って、皆幸せに、争いも無い世界で暮らすことがどうしていけないの? わからない、わからないの……」 そうすると、メサイアは体の中から拳銃を取り出し、科学者に向けた 「アハ、パパ、もう一度救済してあげるの。今度ちゃんと、ちゃんと天国に送って……」 しかし、科学者はそれに動じず、静かに口を開いた 「撃つなら撃つがいい。しかし、今の私の体は先ほど行った通り機械だ…… お前と同じ体だ、自己修復機能もある。銃等効かないよ」 メサイアは震える手で拳銃を構えていたが、静かにそれを降ろした メサイアは自分が確かに科学者の心臓と頭を打ち抜いたことを覚えているのである それなのに科学者が生きているということは、科学者の言葉が真実であるということだった 「……メサイア、私たちは多くの罪を犯しすぎた 贖罪は成さなければならないんだ…… お前を狂わせてしまった、多くの者を戦争の犠牲にしてしまった…… メサイア、我々はこの罪を購わなければならない」 ゆっくりと科学者がメサイアに近づき始める 「パパ、どうして? どうして罪だなんていうの? いうのおぉおおぉおぉお! 私は天使なの! 神様の使いなの! 千年王国を建設する救世主なのぉおぉおぉ! 来ないで! 来ないでえぇっぇぇぇ!」 メサイアは叫びながら科学者に向けられた拳銃の引き金を引いた 鉛の玉が空気を鋭く切り裂きながら科学者の体に命中した しかし、科学者はメサイアと同じようになんとも無い様子でメサイアの元へと歩き続けていた 銃弾で穿たれた穴からは、機械の破片が覗いていた 「メサイア、共にこの罪を、この狂気を、終わらせよう…… 戦争や殺しでは人を救うことなどできない…… 私たちは救世主などではない、神の使いなどでも、ないんだ。この世に居てはいけない」 科学者はそういうと、メサイアを強く抱きしめた
「いや、いやなの……私はまだたくさん救済しなきゃいけないの! 皆を幸せにしなきゃいけないの! 天使軍の皆と、一緒に、一緒に……!」 それは真にそう思っているようだった 抱擁する男の腕を断ち切らんと刃を出現させようとしたとき、メサイアは一気に体の力を失った 「どう、して……?」 自分の体を見てみると、腹の部分に何かのプラグが差し込まれていた 「お前を作ったのは私だよ、メサイア……お前を止める方法も、私しか知らないんだ お前の制御プログラムを持っているのは私だけだよメサイア…… お前の平和を望む心はきっと本物なのだろう、しかし、お前のやり方は戦争の狂気ともう変わらないんだ 私の罪だ……お前を狂わせてしまったのも、だからせめて、罪を購い、いつかは天国にいけることを、祈ろう お前の力はいつかお前を孤独してしまう、天使軍とやらの仲間も、お前の考えを知ってしまえばそうなってしまうだろう メサイア、幸せとは与えられるものじゃない、自分から勝ち取るものだ、天国とは行かせるところじゃない、召されるところなんだよ、メサイア ……もし今度生まれ変わるなら、今度こそお前を平和の使者へと、天使へとさせてやる……だから、私と共に今は眠ろう 我らの罪が許されて、世界に神の光明が満たされるそのときまで……」 科学者は静かにそう言うと、メサイアの体に、自立回路にあるプログラムを送り込んだ それはメサイアの動力の完全なる破壊 メサイアの動力を爆発させ、破壊するものだった 「お前を止めるには、この方法でしか叶わない……メサイア、許してくれ お前の平和への思いを狂気へと捻じ曲げてしまった私を……」 メサイアは静かに自分の体の自由が失われていくのを感じた そして、ひしと科学者に抱きつくと、空を見上げた 「わからないの、パパ……どうして、どうして私の行いは罪なの? 神様の下に皆が集って、幸せに暮らすことはいけないことなの? 戦争もなくて、憎しみも悲しみもなくて、皆が幸せで、私とパパも幸せで 天使軍の皆も幸せで、この街の皆も幸せで、それだけを願ってただけなのに 何がいけないの? 何がだめなの? わからない、わからないよ……パパ ジャンヌ様と誓ったのに、天使軍の皆と誓ったのに 皆が幸せで、平和な世界を、愛に満ちた世界をつくろうって決めたのに……わから、ないよ 皆が天国で、幸せに、それだけで、よかったのに…… パパ、わから、ない……」 大粒の涙がメサイアの頬を幾度も伝った
涙というものを彼女は学習していたのであった、それと同時に、優しい心も取り戻し始めていたのだった 信頼する友たちとの出会いで、彼女の狂った心も正気へと近づいていたのかもしれない しかしそれはあまりに遅すぎたことだった 科学者も静かに涙しながら、メサイアを抱きしめた そのとき、メサイアの体が白く輝いた その光は太陽のように優しく、眩く、天使の後光のごとき光だった そして――メサイアの体はまさしく太陽のように光り輝いた その刹那、彼女の動力はその全ての力を外へと向かって解放した 白い光がメサイアと科学者の体を一瞬にして溶かし、吹き飛ばした 近隣の森はその光によって、爆風によって一瞬にして吹き飛んだ その爆発は地獄の業火の如き破壊で、森を焦がし、消滅させていった そんな破滅の光なのに、どこか優しげなものが感じられていた 爆煙は天へと立ち上り、巨大なキノコ雲を形成した 眩く輝くその雲と、森を吹き飛ばし、メサイアの体も消滅させた衝撃波は近隣の町からも観測できるほどだった 勿論それは天使軍の大聖堂からも観測できるだろう そして数時間が過ぎると、ようやくそのキノコ雲は姿を消した 森は破片も残らず更地となり、森があった場所は全て無へと還ってしまった メサイアの破片も何も、残りはしなかった、かに見えた 上空からその大地へと向かって銀の十字架が落ちてきた それはメサイアの動力部に組み込まれていたもの、メサイアの体で一番強靭な部分だった そこはメサイアと科学者の全ての罪を吹き飛ばしたような爆発の中でも生き残っていたのだ 静かにそれは地面に落ち、ただひっそりと、何も残らなかった場所で佇んでいた それ以降、もう二度と機械天使と科学者が歴史に現れることはなかった 狂気の救世主と、それを作り出した男の物語はここに終わったのである ハレルヤの音色はもう聞こえない 高らかな笑いももう響かない 平和を願った彼女たちもはもういない 残されたのは小さなロザリオ、それだけだった ハレルヤの音は聞こえない †&ruby(){}; 最新の5件を表示しています。 コメントページを参照
救う人々(来客者) †
機械の内に収められたもの(貰い物) †
過去 † 今から数十年前、ある一人の科学者が画期的な発明をした。 賛美歌 †諸人こぞりて 迎えまつれ
久しく待ちにし 主は来ませり 主は来ませり 主は、主は来ませり 悪魔のひとやを 打ち砕きて 捕虜をはなつと 主は来ませり 主は来ませり 主は、主は来ませり この世の闇路を 照らしたもう 妙なる光の 主は来ませり 主は来ませり 主は、主は来ませり 萎める心の 花を咲かせ 恵みの露置く 主は来ませり 主は来ませり 主は、主は来ませり 平和の君なる 御子を迎え 救いの主とぞ 誉め称えよ 誉め称えよ 誉め、誉め称えよ 機械の内側 † |