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- 総会決戦 - |
事実を歪ませるある種の数式の下に、世界の隙間に形作れられた、歪みの地 空間ならざる空間にして世界ならざる世界。 |
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- 隆起した岸壁が役目を終え、徐々に元の大地へと縮小してゆく。
二人が齎した破壊の爪痕も、不思議と時を撒き戻したかのように修正されていた。 地下洞窟は2つの異物が去ったことにより、再び平穏を取り戻している。 --
- 黒の魔人が二人、再び対峙する
今度こそ、総てを終わらせる為に --
- (虚空を移ろっていた瞳。もう何もかも終わってしまったはずだった。それなのに)
(轟く怒声。その心中を察することはできずとも、自身への拒絶という一点だけは理解していた) (それがどういった意味を持つのかは、見出すこともできずに計りかねていたのだが)
……良かった、なんて口に出すのもおこがましいけれど今は正直安堵もしているよ。 でも、おかしいな……どうしてまだ立ち上がろうとするの? あんなに多くの傷を付けたのに、それでも戦うの? ……そんなにも私が嫌いだったの?
(返答を待つのが怖かった。指先を翳し、誘ったのは二人を遮る灼熱の壁) (それは幾重にも吹き上がり怒濤となってグリゼアへ押し寄せる) -- 鈴蘭
- そうじゃねぇよ。そうじゃねぇんだオオサキ
(掌に、一片の金属片を握り込む。あかがね色の金属。お伽話を叶える希望)
目を逸らして、耳を塞いで、快い関係のままで居ようとしたのは確かに俺だ。
本当のお前から逃げてたのは確かに俺だ。
(紅焔が迫る。それはまるで、答えを恐れる彼女の心情のよう) (構わない)
(不規則に脈動するかのように、握りこんだ右腕に赤い光が帯となって点滅する。今や青年の神経回路は総て、鋼玉で編まれた光ファイバーとなり──意志は人智を超えた力を発現させる) (氷の結晶が育つように、無骨な刀身が、握った右手から生まれる。あかがね色の剣)
だけど、それを受け入れて俺たちだけが逃げる事は絶対にしちゃあなんねぇんだ。 俺が傷つけたお前の為にも、お前が傷つけた人の為にも
(ヒヒイロカネの剣を振るう。それはまるで、指揮棒のように。殺到する壁を引き寄せ、背後へと受け流していく)
何より、何よりも、だこの馬鹿女。 お前まだ3年だろ。卒業どうするつもりだよ
(拒絶の意志を風と流し、一歩を歩む)
戻ってアマミヤや他の皆にも詫び入れて、キッチリ卒業まで俺の友人やってくれねぇと困るんだよ馬ァ鹿……!!
(走る。最早理屈では無い) (だが、嘘偽ることはない。そうしたいから、そうする為に)
(目を覚まさせる為に、拳を握りしめ、グリゼアは鈴蘭へと迫る……!) -- ”鋼玉の” グリゼア
- (灼熱の世界においてただ一つ流麗な輝きを持つ緋色の軌跡)
(しかし剣撃は硬質的な感触に阻まれる。彼女の握り締めた漆黒の戦斧によって) (超高圧によって鍛え上げられた巨大な凶器は、グリゼアの掴んだ希望にも匹敵する)
何よ言われなくてもわかっているよそれぐらい……。
(振り下ろす一撃。刃は彼には届かない)
何よ友達って……! そんなにハッキリ言わなくてもいいでしょ!?
(薙ぎ払う一撃。獲物同士の荒々しい衝突)
こんな格好悪いフラれ方ってないよ、ほんとに……デリカシーないんだから!
(猛然たる連撃。それでも致命傷は与えられず、代償に外骨格が幾らか砕かれる) (語調を強く支配していた悲哀の動きは、緩やかであるが薄れていく)
いいよそれでも、私があなたを愛しているという事実には変わりないもの……!
(追撃を避けるようにして彼女は大地へと沈み込んだ) (対するグリゼアの足場は滑らかに彼を沈み込ませると同時に、足首を飲み込み凝固してゆく) (そして策を講じるよりも速く、背後に鈴蘭は現れた) (焔の帯を引きながら赤熱化し大斧を大仰に構え、力任せに振り下ろす) -- 鈴蘭
- (長剣一刀を以て戦斧をいなす。刃鳴が散り星の塵骸を蹴散らして、二柱の魔人──否、二人の男女は言葉と威を交わす)
何がデリカシーだこの野郎、リアクションしづれーシモネタばっか振って来やがって、アレで気付けとか俺はエスパーじゃねーよ馬鹿女!!
(こちらもまた、無傷では居られない。辺りに衝撃波が撒き散らされる程の剣戟は、徐々に鎧装を割り砕いていく) (血潮が溢れ、赤光が傷口から漏れ出しながらも、あかがねの剣を振るい、想いを届かせようと)
(そうして何合目か、刃は空を切る)
(策を講じる暇は無かった)
(だが)
オオサキ、大崎鈴蘭! お前は勝手に、世界総てを理解したような気になって絶望してるだけだろうが!! 手前勝手に周りは誰も理解してくれないと泣いているだけだろうが!!!
(加速された思考が反応する)
敵よ、敵よ!! お前に世界の価値を見せてやる!!!
(ヒヒイロカネの剣を無造作に投げ捨てる。高速で錬成されるは、紅く透き通る刀身の、数多の長剣)
(足首まで埋まった大地から生え出るそれは、視線を合わせる事なく業火の断頭手を押し留めた)
だから──アホな男にフラれた位で、拗ねてんじゃねーよ
(振り向き、握り締めた拳を)
(今度こそしっかり視線を合わせ、彼女の頬へと)
(叩き付けた) -- ”鋼玉の” グリゼア
- (歪な地面へと放り出され三転し、彼女の纏う外骨格を粉々に崩れ落ちた)
傷口は塞がっていくが、以前に流れ出た血潮が彼女の銀髪を染め上げる) (傍らに突き立った戦斧も、今では振るうことも叶わない。最早抗う術もない)
……しょうがないじゃない。 それだけ好きだったんだから……。
(僅かに自由の利く右腕で視界を覆いながら、彼女は人知れず涙を拭う) (やがて指の隙間からグリゼアを覗き、口を開いた)
本当に行くの? 何もかもが手遅れかもしれないよ? いや、そもそも行ったって何ができるかもわからないのに……? -- 鈴蘭
- (拳を振るった直後、鈴蘭と同様に鎧装が砕け散る。残ったのは、肩で息をする傷だらけの青年)
(流血を拭い、その場で止血を始める。問題無い。と自己診断して)
俺より良い男なんざ幾らでも居るっつーの。もっと世間を見て、男を見る目を養いやがれ
(多少の照れは無いでは無いのだろう。だが、今はそれよりも)
それこそ、俺の知ったことじゃねえ。 後輩が頑張ってんだからな。先輩としちゃ任せっぱなしってな格好悪ィんだよ……それに、ハザマ先輩……いや。 ヤツには聞いておきたい事もあるからな
(さて、と肩を回す。倒れ込んだ鈴蘭へと、右手を差し出して)
とりあえず、帰んぞ。……スズランよ。 -- グリゼア
- (引き上げられた身体は、自らの足で支えること叶わずグリゼアの胸の中へ倒れ込む)
どうせ私の力が無ければ帰れないんだから、今はこれぐらい許してくれるよね……。
あとちょっと。3秒だけ。
(僅かな時間が流れる。有無を言わさず顔を埋めて、彼女は泣き出しそうな心を必死で押さえ付けた) (どれ程待ち望んだのかもわからないこの瞬間が、二度と来ないものであると理解していたのだから) (……貴重な今が、終わりを迎える)
焦げ臭いし汗臭いし、血生臭いし。 最後にしては散々だったかも。 (グリゼアが見下ろすその表情は、以前のように朗らかなものであった) -- 鈴蘭
- 火焔の宴
拒絶の下に分かたれた二人は、朱い炎の照り返しを受けて --
- (涙は炎となり、二人の距離を隔てた)
(最早言葉は無い。両の手に抜いたナイフは、取り返しがつかぬと告げるように鈍く煌めく)
──発動、《変質》
(以前と同じ、重金属と炭素を基礎とした魔人は、黒衣の魔人へと無造作にナイフを投じる) (効かぬ事は承知。だが、それは言葉よりも雄弁な意志表示であった) (矢継ぎ早に抜かれた銀光が飛翔する殺意となり、大崎鈴蘭へと殺到する) -- グリゼア
- (それはごく当たり前のように、彼女の元へは届かない。どろりと液化した刃は、そのまま地面とひとつになった)
(しかしそれでも、明確な敵意という形で彼女の心を引き裂き、烏の群れのように啄ばんでゆく) (今にも崩れそうな膝を奮い立たせて、彼女は腕を振るい上げた。大地を亀裂が駆け巡る) (次々に隙間から溶岩流が噴出し、降り注ぐ緋色の雨。着弾点となった岩盤が、次々に黒煙を上げる) (足元は瞬時にして泥濘。脅威に晒されたグリゼアを眺めながら、彼女はプラズマ火球の精製を始めた) -- 鈴蘭
- (裂ける大地は彼女の心か。数多の人を塵芥として一顧だにしなかった少女を傲慢と言うならば、それを否定する自身も傲慢であるのだろう)
(カーボンナノチューブの筋肉を軋らせ、人の動きで人を凌駕しつつ頭の片隅で思う)
(溶岩流を避け、或いは腕を振るって叩き落とす。回避ではなく、最短距離で征く為に) (タングステンの融点は摂氏3380度。星の息吹をもってしても、魔人の行軍を止めるには能わない)
オオサキィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!!
(吼える。水蒸気の尾を曳きながら、黒銀の青年は握り締めた拳を、届かせようと)
(そうして、気付いた。大崎鈴蘭の異能の片鱗。如何様な法則で、攻撃を為してきたのかを) ……分子操作……ッ!!
(だが、それは今更であった。拳は発射される) (万象を気化させる、轟熱の火球へ向かって)
(音も光も無く。肩口から、右腕が消失した) -- グリゼア
- (有機組織を飲み込み通過した先、岩盤の山にて火球は爆裂し、盛大な土石流を彼方で生み出した)
(濛々と渦巻く黒煙を他所に、彼女は淡々と言葉を残す) どうしてあなたは他の誰かも知らない相手を思えるの? どうして義憤を得られるの? どうしてそれを正当であるかのように、私にぶつけることができるの? どうしてそれなのに……私を見ようともしてくれないの? 私はあなたの、大きな手が好きだった。ごつごつしてた指先も。 もうそれも、半分になってしまったけれど。
……そろそろ諦めて。 次はもう腕だけじゃ済まない。
(急上昇する熱気とは裏腹に、凍土のように威圧的な語調) (両の指先で形成されるのは、更に大きなプラズマ火球) (規模、温度は止め処なく膨張し、周囲の視界を不規則に歪ませる程) -- 鈴蘭
- (構造を無機としようとも、その腕は確かにグリゼア・クロムドロスと呼ばれた青年の腕であり)
(痛みも喪失感も存在する。重心の崩れた肉体は、無様に大崎鈴蘭の眼前で這いつくばった)
失った事があるからだ。 奪った事があるからだ。 そうして、その重みを知ったから。
(唯一の色彩の琥珀の瞳。折れぬ光を宿した視線は、傲然たる居住まいの魔人を射抜く)
本当のお前を見ているからこそ、俺は立ち止まるなんて出来ねェんだ
(苦しげに、しかし力強く立ち上がる。左の腕を振りかぶり、地獄のように熱い大気を切り裂いて) (言葉を真実とする為に。届かぬと知って尚、叩き付ける) -- グリゼア
- (その灯火は彼の言葉を受け、急速に熱を失った。反論する間もなく、彼女の身体に一撃が加えられる)
(強固な外骨格は一部であるが大きく破砕され、彼女が踏み締める大地を叩き割った) (それでもまだ、彼女はここに立っている)
あなたが言う本当の私は、本当に私なの? 本当にあなたは、私を知っているの? じゃあなんで臨海学校のとき、暗に抜け出そうって言ったのに理解してくれなかったの? ずっと隣にいたのに、手を取って踊ってくれなかったの?
どうして私が知らない女と、あなたは楽しそうに踊っていたの……?
(鋭利な刃にも似た爪が、グリゼアの腕に深く深く食い込んだ) (傷跡を中心にして、彼の体内に流れる血流に変化を与える。それは基礎体温から40、50と上がり続け) (灼熱の世界へと瞬く間に誘っていく) -- 鈴蘭
- (喝采は無い)
(サラマンドラを呑み込んで尚も哀れな少女の言葉は、黒銀の魔人の心を穿つ)
(何故)
(問いかけが内から身を焚いていく)
(だがこれこそが、本当の彼女であった)
(目を逸らし続けていた)
( 彼女の)
( 声)
(沸騰した長身が痙攣する)
(目を逸らし耳を塞いでいた代償が膝を折る)
(跪くように、青年は膝を突いた)
(それは、呆気無い幕切れ)
- どれだけ今悔い改めても、過去はこうして牙を剥くんだね。
本当に必要なものは手に入らないのか。ままならないなあ……人生って。 ねえ室長……本当に、これで良かったのかなあ? (魔人は一人、自嘲気味に天を仰ぐ。問いに答える者はここにはいない) (それでも、聞かずにはいられなかった。自分自身では導き出せなかったから) (取り返しの付かない行為をしてしまったのだから) (グリゼアは転がって動かない。反応を見せる素振りもない。心の中に、背負いきれない程の感情が去来する) (彼女は今となって膝を突き、ただ一人震えていた) -- 鈴蘭
(──本当に?)
(グリゼア・クロムドロスという学生に異能は無い) (彼に在ったのは幼少期からの苛烈なまでの戦闘経験と、平穏を享受する心根と、そして)
ばきん
(そして、名も知らぬ両親への繋がりと推測される特異な体質である)
ばきん、ばきん
(それは、鉱物を己が身体とするもの──否。己が身を、鉱物として再構成する、と言った方が正鵠を射たものであろう)
(傷口から、赤光が溢れだす。蛇口を塞がれたホースのように不規則に) (失われた腕から、ぞろりと……剣山のような紅い結晶が生え出ずる)
(その身は、結晶に覆われて行く。赤く、紅く、朱く。星の息吹のマグマよりも)
(赤は次第に黒銀色に変じ、鎧装となってグリゼアの顔を覆う)
(それは、結晶。酸化アルミニウムと僅かなクロムが創り出す天然の奇跡)
(唯一変わらぬ琥珀の瞳が、仮面のような鎧装の奥から、大崎鈴蘭と言う少女を見据える) (グリゼア・クロムドロス。否──”鋼玉の” グリゼアは再生する) (誰知らず是非を唱える少女に、応える為に)
良い訳ねェだろうが、この大馬鹿野郎が……!! -- ”鋼玉の” グリゼア
- 地中深くの地下空洞。原初の星の息吹が近く息づく場所で、少女と青年は対峙する --
- ……ああ、久しぶりだ。久しぶりだよ大崎
(この空間へと誘われた時の違和感。こんな事が可能なのは、過去対峙した魔人だけだろう) (そう。雨宮千尋により倒された魔人──大崎鈴蘭)
(銀の髪の少女は、姿をくらませる前と変わらぬ所作で立っている) (だが……)
何故だ、オオサキ。
(総会本部のテーブルで、海空へと問いかけたのと同じ問いを向ける。その意味合いは、大きく異るものであったが──) -- グリゼア
- 「何故」? それはどういう意味で聞いているのかな。
私が素性を偽っていたこと? それとも友達を深く傷つけたこと? もしくはいきなり姿を消したこと? 他にもあるのだろうね、私への疑念は。 さあ、どれから確かめる? 私はよく出来た女だから、その何れにも答えよう。 まさか気が動転して頭が回らないだなんて言わないよね? そこまで下に見てないよ、私は。 (わざとらしいため息に芝居がかったポーズ。何処か懐かしさすら覚える久方ぶりの姿) (しかし元々饒舌ではあったが、彼の知る彼女の雰囲気とは違っていた) ……さて、改めよう。 あなたが私に聞きたいのは、一体何? (偽らぬ彼女との、初めての対面である) -- 鈴蘭
- (常のように/或いは、常ならぬ饒舌さで青年の疑念を並べ立てる鈴蘭)
(そのどれもが今や自分にとってはどうでもいい。皮相など、今はどうだっていい)
──何故、お前なんだ。オオサキ……!!
(聞きたかったのはただ一つの不条理) (総てが偽りであったとしても、この不条理だけは、どうしても認めるわけにはいかなかった)
(「何故、大崎鈴蘭と言う少女が黒の魔人であったのか」) (それは、綺麗な願いしか知らぬ子供のような問いで) -- グリゼア
- ……あのね、いいかな? 質問は短く簡潔に。そう誰もが習ってきたはずなのだれど。
まず相手に尋ねたい事柄を主語に……いや、止めておくね。 ここに来るまで、この手の問答で多くに嫌われたのを思い出すから。 (言葉を濁すようにして哀しげな笑みを浮かべる。作り話ではなく、それは確かな事実だったから) 大方何時ぞやのあの日、私があなたを襲った、あの時の光景が浮かんでいるのかな。 全て推測だけれど、今のあなたは激しい興奮状態にあるだろうから此方で大筋を組み立てておくよ。 (飄々と言葉を並べながら、彼女は視線を落とし、脇に迫り出してきた岩盤に腰を掛ける) (彼と衝突したあの日よりも、更に異能の力は増していた。事実上今この空間における物質の多くは、彼女の支配下にある) では私が何故あのような行いをしてきたか……という話からでいい? それとも、今すぐ衝動に任せたまま私を殴り付けたい……? 理不尽なのはわかってる。 どれだけ多くの人たちからヘイトをかき集めていたのかも。それにあなたが含まれていることも。まあ、口だけに思われるかもしれないけれどね。 でもね、もしも願いが叶うなら、少しだけあなたと話がしたいの。 -- 鈴蘭
- ……。
(出来の悪い生徒を窘めるような物言いに、何を返す訳でもない) (彼女の思考は正しく、そして間違えている。語りたい事があるというのならば聞くべきだろう) (その上で)
……いいぜオオサキ。俺もお前と話をすべきだと思っていた。 だから、本当のオオサキスズランは一体誰なのか。
それを、教えてくれ -- グリゼア
- 私は私だよ。ただ生きやすいように別の私を演じていただけ。
でもそれって、誰だって無意識の内に行っている訳だよね。 個は個として生きるには、他の個と衝突してしまう。そうしないために角を丸く削る必要がある訳で。 私はね、元々こうして理屈屋だから酷く嫌われたり避けられたりしてきたの。 だからもっと親しみやすいように、気軽に話し掛けられるようにって別のペルソナを用意したんだ。 それがいつもの私。……おかしいよね、本質とはかけ離れているのに、それが日常になるなんて。 ……ああごめん、話を戻すね。
本質とはかけ離れれば離れるほど人は精神に過負荷を覚えるもので、言わばストレスが蓄積していく。 それを私は、異能犯罪として発散してたんだ。総会がそういう方針になっていたから。 気がつけば加担してた。大方発端は総会長だと思うのだけれど、私にはその記憶がない。 ……けど、進んで愉しんでいたのは事実だから、切欠はどうあれ続けたのは私の判断だよ
私には出来ないことはなかったから、酷くつまらなく思えてたんだ。全てのものがね。 何れこうして煽っていれば被害者に殺されるのかななんて思っていたけれど、そんなこともなかった。 私の力も強まっていったからね。誰にも負ける気がしなかった。事実、今こうして私が生きている訳だしね。 ……じゃあ、ここまでの話で何か聞きたいことはある? -- 鈴蘭
- (淡々と。事実のみを述べるような──否、これは総て、事実なのだろう──鈴蘭の言葉を静かに聞く)
(世界に飽いて、自分に飽いて、ひたすらに自らを震わせる物を求めた少女の物語) (自分には、理解出来ない悲哀の供述)
それで、お前は。 お前が求めた物を、見い出せたのか?
(求める物は何だったのか) (欲した物は手に入ったのか) (今しがた海空に……否、世界を観る悪意に資格無しと定義された男は) (可能性の総てを手にした少女に、問いかける) -- グリゼア
- ううん、全然だめ。だってその人は私のことを歯牙にも掛けてくれなかったし……。
私が消えても、探す素振りすらしてくれなかったんだもの。 憤りは感じても、喪失感は無かったのかも。そうだよね、私"たち"はただの友達だったんだから。 (そう、彼女がただ一つ欲したのは特定個人ただ一人。それは今、彼女の目の前に立っている)
……ねえ、気付いてないの? それとも見ない振りをしているの? 私がここへあなたを引き摺り下ろしたのは、単純に死んでほしくなかったからなんだよ……? 今ならまだ間に合うよ、一緒に逃げよう!? 誰も責める事なんてしやしないから! (グリゼアの腕を握り締め、感情に任せて言葉を並び立てる) (開く瞳孔、伝う動悸。まるで別人のような素振りで、彼女は感情を発露させた) -- 鈴蘭
- (そうして、そんな彼女を見て)
(遅まきながらに) (本当に、遅まきながらに) (グリゼア・クロムドロスと呼ばれた青年は、理解した)
(大崎鈴蘭が求めたもの。大崎鈴蘭という少女が、本当に欲しかったものを)
(だから)
それでも、オオサキ。 それでもお前は、俺の敵だ。
(決然と)
”ソレ”が本当だと言うのなら。
”ソレ”だけが本当だと言うのなら!!
(拳を握り締める。幕を引く為に。これから始める為に)
お前がお前で在る為と言って傷つけた総ての為に、俺が此処で退く訳には行かねェんだ……!!
其処をどけよ、大崎鈴蘭。 退かねえならば、俺を殺して止めてみろ -- グリゼア
- (彼女は呆然とした。この身を射抜いた彼の言葉に。最初からわかっていたはずなのに)
(それでも賭けるに値すると思っていた僅かな願いは、愛しき彼そのものに、一息に砕かれた)
……うん、きっとそういうだろうとは思っていた。 思っていたのだけれど……やっぱり、酷く哀しいね。
(彼女が不意に溢した大粒の涙は、大地へと染み込む前に霧散した) (方々で呼応するかのように噴出するマグマの柱。川の様に流れる溶岩) (吹き上がる炎が開ければ、硬質化した外骨格による異形の出で立ちが顕現する) (かつて魔人と呼ばれたそれは、再びグリゼアの前に立ち塞がった) -- 鈴蘭
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Last-modified: 2013-05-13 Mon 01:14:30 JST (4025d)