HMK/0015
- ■■■■■!!(男が剣の名を告げた瞬間、獣は即座に折れた剣を捨て、即座に新たな剣を生み出し斬りつける)
(振るわれた剣は報復剣アザミ、剣と使用者が受けたダメージを任意のタイミングで纏めて返す魔剣) (それを躊躇いもせず男が持つ青い魔剣へと振り下ろし…青い魔剣の力に耐え切れず、アザミの刀身に砕け散る) (獣が、策に嵌ったとでも言わんばかりに口元を歪める…アザミの呪いは絶対、例え相手がどれほど強くとも) (どれほど頑丈でも関係なく、自身が受けた傷を相手に返す、無論折れれば、それは相手の剣にとって確実な破壊を意味する…その筈だった) ふっ! (男が、剣を振るえば、アザミから漏れ出た呪いが一刀の元に切り裂かれる…苦もなく、まるで紙でも切るかのように) -- マサギ
- ■■■■…!!(獣が不愉快さを隠そうともせず、唸り声を上げる)
(対して男は、大した事でも無いように剣を再び構える) お前も俺と同じ存在だというなら知っているだろう… この魔剣は不可能を斬る魔剣、使いこなせば時も、空間も、因果すらも切り裂く…あの程度の魔剣の呪い、切ることなど造作もない… さあ、次はどの剣でくる? (男らしからぬ、挑発的な笑みを浮かべ獣を煽る…青い魔剣もまた) (主と同じくかかってこいとでも言うように、淡く発光をくりかえす…) ■■■■■■■〜!!!!!!! (獣が吼える、溢れ出る憎悪の感情は、嘲られたことへの憤怒と交じり合い、ぶつけられただけで命を奪われそうなほどの殺意となり) (そして、それに呼応するように獣から無数の魔剣が生み出され、その全てを駆使し男へと襲い掛かる!) (だが、それでも男は微塵も動揺せず、獣へと肉薄する!) -- マサギ
- (そして、始まる、青き魔剣と数多の魔剣の応酬…)
天星剣バンテイシ 撃墜
禍毒剣トリカブト 浄化
増殖剣ミント 殲滅
華水剣サンゴ 枯渇
雷葬剣リコリス 霧散
剛殻剣ヒイラギ 破損
焦滅剣ナデシコ 焼失
(何れ劣らぬ強力無比な筈の魔剣、その悉くが青い魔剣に折られ、斬られ、破壊される) (獣が忌々しげに歯軋りをする、何故だと、自分と同じ存在のはずの自分が、何故その剣を振るえるのだと) -- マサギ
- それは…俺がかつて魔剣であった誰かでもなく、魔剣でもなく
「俺」という一人の存在だからだろう… (再び振るわれる魔剣…薄刃剣ゲッカビジンの刀身を折りながら、男は獣の疑問に答える) 魔剣である事を…お前と同一である事を受け入れていたら、きっとこいつは俺に手を貸す事は、なかっただろうな… (静かに、両手に持った剣を正眼に構える、既に獣が、男が持つ全ての魔剣は、青い魔剣の前に敗れ去った) かつて俺であった獣よ…見当違いの憎しみで暴れるお前は、この世界にとって厄災でしかない… お前の抱くそれは、既に終わり、過去となった者がかつて抱いたものだ…この世界に、持ち込むべきものではない 俺が…今、終わらせてやる (宣言すると同時に、今までで最も早い速度で男が駆ける…己であり、かつての男であった獣を斬るために) 「…ナ、フザルナ、オレハ!!オレハァァァアアアア!!!!!」 (男と分かれて、初めて獣が声を放つ、まだ終われぬと、仇を取るまでは止まれぬと…そして、己が持つ全ての魔剣を無理やり一つに纏めた) (最早剣の形をしただけの力の奔流とでもいうべきそれを力の限り男へ向け振りぬき―――)
(刹那、男が振りぬいた青き魔剣が、まるで憎しみを、未練そのものを断つかのように…青く光る軌跡を残し、獣ごと両断した)
-- マサギ
- 「ア…アァ…」
(無念の色を乗せた、短い呻き声を発し、獣の体が塵と化す…復活する様子はない) (そして、獣の塵がまるで操られるかのように、男の中へと取り込まれていく…) …眠れ、かつての俺であった、獣よ… (短く、一言だけ告げると、黙祷を捧げ…それも直ぐに終え、青い魔剣を己が内にしまい込む)
(そして己の手を見れば、その手は微かに、透けており…)
…完全に元に合一を果たした今、俺も、あるべき姿へと戻る、というわけか… であるならば、残された時間、俺は… (少しの間、考え込む様子を見せた後、男は激闘の跡が残る明治神宮を後にした…) -- マサギ
- --
- (明治神宮にて二つの影が戦闘を開始してから二週間、剣と剣、炎と水、風と大地、光と闇…無数の魔剣と魔剣がぶつかり合い)
(力の奔流の中心となったそこは、最早かつての面影が思い出せないほど荒れ果てており) … (そしてそこに変わらず立つ、黒いコートの男…手に持つのは淡い桜色の刀…斬ったものの命を散り逝く華の如く断つ、男の持つ魔剣の中でもトップクラスの強力な魔剣) (名を、散華剣サクラ) ■■■■■■… (相対するは二つの足で立つ鉄の獣、手に持つ魔剣は反転剣プラム、攻撃に対し因果を捻じ曲げ、確実に受け流し一撃を与える魔剣…) ォォオオオオ!!! (男が声をあげ、鉄の獣へと一気に接近、触れたもの全ての命を絶つ魔剣の一撃を鋼の獣へ放つ!) ■■■■■!!! (その一撃に合わせる様に獣が剣を振るい、男の魔剣と獣の魔剣がぶつかり合えば…強烈な魔力が二人の剣から放たれ) (次の瞬間、絶殺の魔剣たるサクラは因果を超えて放たれた一撃を受け砕け、対するプラムもまた、サクラの魔力に蝕まれ、砂のように崩れ落ちる) -- マサギ
- 「「殺ィアッ!!」」
(互いに魔剣を失ったにも関わらず、全く同時に、鏡合わせの様に同じ姿勢で掌を突き出せば、そこから生えた新たな綿がぶつかり合い、再びガラスのように砕け散る) ■■■■■■ー!! (直後に獣が吼える、すると声に反応するかのように獣の影が広がり、そこから串刺しにせんと無数の魔剣が突き出される) ちっ…!!(咄嗟に体から取り出した柄から何本もの鋼線が生えた鞭のような剣を振るえば、男へ向け突き出された魔剣が悉く切断され) (更に男が柄を振ると、軌道上の魔剣や大地、あらゆるものを引き裂きながら鋼線が獣へ迫っていく!) ■■■■■■! (が、それも獣の体から無数の魔剣が突き出せば、鋼線は容易に断たれ力なく地面へと落ちていく) -- マサギ
- ■■■■!!!
(再び獣が吼え、体から無数の魔剣が産み出される…が、それを獣が持つ事は無く) (代わりに、獣が手を掲げれば、それに集うように円状に剣が集まると回転をはじめ…) ■■■!!! (獣がそれを投げつけるような動作で腕を振れば、高速回転する円状に並んだ魔剣が男へ向け襲い掛かる!) なっ!そこまで魔剣を支配しきっているのか…!! (今獣が生み出した魔剣は何れもが強力…であるが故に、他の魔剣と同列に扱われる事を嫌い、反発するほどに気難しい魔剣ばかり) (それらをああまで完璧に操りきってみせるのは、偏に魔剣の自我すら抑え込む獣の強烈な憎悪故だろう) くっ!カランコエ、多重展開! (咄嗟に守護の魔剣を多数展開するも、それ等を容易に切り裂き死の円輪と化した魔剣達が襲い掛かる…最早避けれぬと男は悟り) ぐ、うぉぉおおおお!!! (咄嗟に体から魔剣を体から突き出し、襲い来る円輪へぶつけ勢いを削ぐと同時に、魔剣を鎧代わりに受けきる事に成功する、だが) -- マサギ
- くぅ…ダメか…
(肩口を浅く切られた男が傷口を抑え、獣を睨む) (この2週間の間、男は身体能力と魔剣への支配の強さで劣る獣相手に、魔剣の相性差と技術で勝負を仕掛けてきた、が、同じ存在から生まれたものである以上手に持つ札はやはり同じであり) (そうである場合、やはり単純な力と魔剣の完全な支配ができる獣相手には、技術で何とか喰らいつけるものの、押され続ける状況が続いていた) ハァ…ハァ…(かつて魔剣を託した少女の事をふと思い出し、折角だからあの時に自分も剣を習いなおすべきだったかと、ふと暢気な考えが頭を過ぎる) …ふ、三厳あたりなら、いい師匠になってくれたかもしれないな…惜しい事をした…な! (自身に向かい獣が無数の魔剣を矢のように放ってくる…それはかつて、中央区地下にて男も襲撃者相手に使った技) (だが、今回放たれる魔剣の強さはあの時マサギが放った魔剣の比ではなく、現に打ち合うように放たれた男の魔剣が一方的に砕かれ、逆に獣の放つ剣は男の体に傷をつけていく) このままでは…!何か… (共に同じ存在、同じ魔剣から生まれたのにも拘らず、一人と一匹の間にある絶対的な実力差…歯を食いしばり獣の猛攻を耐えながら) (男は逆転の一手を探す…最後の最後まで足掻き続けて見せると、友人の言葉に応えたいがため) -- マサギ
- (だがしかし、有効な手は見つからず、そうこうしてる内に一瞬の隙をつかれ)
(魔剣をフェイントにつかった、獣の一撃が男のわき腹を直撃、吹き飛ばされた男は木々を薙ぎ倒しながら、建物にぶつかり倒れ込む) ぐっは!く、ぅ…何、か…何かこの場を打開する手は… (ふと、瓦礫となった建物の中にあった花…それを見たとき、男の脳裏にとある一本の剣が思い当たる、この状況を打開しうる力を持つ、ただ一振りの剣を) …だが、扱えるのか…今の状態となった俺に、あの剣が…? (男が思い当たったのは、とある一本の剣…単純に魔剣として比類なき力を持ち、ありとあらゆるものを切り裂き不可能すら可能にする奇跡の魔剣…) (そして、その魔剣を振る条件は…人である事、その魔剣は神や悪魔ではなく、無限の可能性を持つ人にしか扱えない魔剣) 魔剣となった俺に、道を踏み外し人をやめた俺に…あの剣が扱えるだろうか… (かつて魔剣となる前、復讐のために人をやめてから振るうことが叶わなくなった魔剣…今では魔剣となってしまった自分に) (あの魔剣が扱えるだろうか…だが、悩んでる間にも獣は手を緩める事は無く…徐々に、徐々に反撃の回数は減り、遂には防戦一方になるまで追い込まれ) やるしか…ないな…! (覚悟を決め、男は一本の魔剣を体から取り出す、かつて男にとって最強の一振りであったそれを…) -- マサギ
- ■■■■ー!
(獣が、弱った男へ向けトドメを刺すべく、先ほど男が浸かったものと同じ魔剣…散華剣サクラを生み出し、振り下ろす!、が) 「!!?」 (獣が、明確な動揺を見せる…サクラは攻撃に於いて持っている魔剣のなかでも最強と呼ぶに相応しい一振り…例え神代の盾だろうと防いだ物ごと容易く切り裂く代物だ) (それが防がれた…魔剣とはいえ、たった一本の剣に、必殺の魔剣が傷一つ負わせることができず) …手を貸してくれるのか… (久々に握る感触を確かめるように、一振りする、青い光の軌跡を残しながら振るわれるそれは、見るものが見れば) (恐ろしいほどの力を秘めているのがわかるだろう…) では…久々に共に戦うとしようか
(男が持つその武器の名は、「不可能」と「夢は叶う」を意味する花言葉の名をつけられたそれは)
《星断剣・蒼い月》
-- マサギ
- --
- 憎い
憎い
憎い
真の自分を取り戻した最初はそれだけだった、全てを焼き尽くした灰すらも焼くような憎悪 枯れた涙の代わりに血を流すような悲哀…男は、それを受け入れていた、己はただかつて存在した誰かの残骸に過ぎず そして、己というものはそれ以上でもそれ以下でもない…ただ壊れたレコードのようにかつての彼の怨讐を繰り返し続ける存在でしかないと -- マサギ
- 『だが…』
(刀匠は言った…気に食わない、と、己が己である限り、足掻けと…諦めず前を向けと男を激励した)
(剣士は問うた…その過去は不要かと、歪な記憶に覆われ曇った中、微かに輝く思い出は…この都心での記憶は、男にとって既にかけがえのないものとなっていた)
『ふっ…思った以上に、ここでの俺は恵まれていたようだ…』 (鉄の獣と化した際に失ってしまった四肢の感触が、徐々に取り戻されていく…) (霞がかった様な頭の中は、徐々に鮮明になっていき、五感が知覚を再開する) 『そうだ、俺は誰かの残した影法師に過ぎない…それでも、俺は…俺だ!』 (完全に己を取り戻した男は、全力で体に眠る魔剣を解放し、自身が纏う鉄の獣としての殻を内から粉々に砕き、突き破る!) -- マサギ
- 「!!?」(鉄の獣の内から突如刃が無数に突き出したと思った瞬間、彼を鎧っていた殻が粉々に砕ける…そして、中から現れたのはあの黒いコートを着た、男の姿)
(久々に完全に覚醒した状態で、元の姿で感じる風は年明けという事もあり肌寒く…だが、男にとってはそれが何よりも心地よかった) (見回せば、そこは都心の新宿区、全ての始まりの地にして覇の魔剣が支配する地…その端、明治神宮と呼ばれる場所) (かつては多くの人に親しまれた銀杏並木も、競技場や絵画館も魔剣使い同士のぶつかり合いでも合ったのか、無惨な有様と化している) さて…何時まで死んだ振りを続けているつもりだ? (男が砕け散った鉄の欠片に声をかければ、どす黒い瘴気が噴き出し、砕けた鉄の欠片を飲み込むと収縮していき…) ■■■■■−!!!(その瘴を引き裂き、生まれ出でるように鉄の獣が姿を現す) やはり…あの程度では倒せないか… (静かに、男が剣を構える…目の前のもう一人の自分、己の憎しみの化身にして災厄をばら撒く魔剣…八十禍津に相対する) (大して、獣の方も唸るような声をあげ、姿勢を低くする…その顔は表情などないが、半身たる男だけは獣の考えは想像できた) (何故だ、お前も俺ならば、恨みを晴らしたいと思わないのかと) -- マサギ
- そうだな…確かに、俺の中にはお前と同じものが燃え盛っている…だがな
短い間だが…この都心で得た思い出の数々が、友の言葉が…憎悪の残滓だった俺に、それ以外の意味を与えてくれた…記憶を取り戻し、魔剣となって尚諦めずに声をかけてくれた… …俺は、彼等のために…証明したい、俺が俺である事を…ただの影法師として、歪んだ憎悪に屈しない事を… ■■■■■ー!(獣が吼える、お前は俺だと、何も代わりはしない…「■■」の残骸だと言う様に) やってみせるさ…それと、我ながら物覚えが悪いので訂正させてもらうぞ 俺の名は『正義』ではない…異界の剣士マサギだ、覚えておけ! (その言葉を合図に両者が駆け寄り、互いが生み出した魔剣同士がぶつかり合う…かつて『正義』の名を持った魔剣士の影と、彼の憎悪の化身たるもう一つの影、八十禍津…その戦いが、今始まったのだ) -- マサギ
- --
- (新宿区…覇剣ヴァンファルドを筆頭とした一大勢力の根城にして、かつて数多くの魔剣を封印した百剣爺の)
(コレクションルームがある、此度の災禍…その始まりの場所) (その新宿区にまさに今、踏み込まんとする一団がある) (彼等は他の区の魔剣使いや、魔剣を求めてこの地へ訪れた腕に覚えのある者達…百剣爺のコレクションルームに残る強力な魔剣の噂を聞き) (とある人物によって一時的に手を組み、この覇剣が支配する都心で最も危険な地へと訪れたのだ) -- マサギ
- 「はっはっは、さあ諸君!今こそ我々の力を魔剣共に見せつけてやろうじゃないか!
魔剣といえど所詮は道具、我等使い手に使われてこそだということを思い出させてやろう!」 (その中にあって異彩を放つ黒服の一団…そのうちのリーダーらしき男が、音頭を取る) (彼の名はゴトウ、剣過対においては戦闘要員でありながら実力は低く…仲間内でも軽んじられがちな男であった) (だが、彼の運命はとある魔剣とであった際に大きく変わる…彼が出会った魔剣の名はサイレン、能力は「遠くまで声がよく聞こえる」程度の何てことはない低級の魔剣) (だが、そこに彼の持つ異能、心象操作が加わる事により広範囲の集団に対し、一種の催眠や暗示を仕掛ける事ができる) (非常に強力な能力へと変貌を遂げた、いまや男は剣過対を抜け、能力を利用し魔剣持ちや強者達を洗脳し一大勢力を築き) (その規模は都内でも有数の危険勢力として警戒されるほどにまで膨れ上がっていた) -- マサギ
- 「ああそうさ、ここで新宿を制してヴァンファルドや強力な魔剣を手に入れれば
一気に俺の勢力がトップに躍り出る!そうなれば俺を阻むものは誰もいない…!俺をコケにした剣過対の連中も! 妙なローブの集団も!他の魔剣も!全部支配して俺こそが最強だという事を認めさせてやる!」 (心象操作により剣過対の一部の者を内通者として取り込んだ男は、いち早くヴァンファルドの塒と思われる居場所を特定) (奇襲を仕掛け数の暴力で制圧、自身の能力で魔剣の使い手達から剣を奪い取り) (新たな使い手として連力の増強を図るつもりであった) (無論魔剣の中には持ち手に害を及ぼすもの、一筋縄ではいかぬものもある…だがそのための使い捨てや候補も十分に揃えた) 「…あの小賢しい鞘木が強力な魔剣を手に入れて、俺が認められないなんてありえない…! 俺こそが認められて然るべきなんだ…!」 -- マサギ
- 「ゴトウさん、そろそろ…」
(黒服の剣過対の者らしき女性が、ゴトウへ突入の準備が完了した事を告げれば、男は先ほどまでが嘘のように) (にこやかな顔で女性に頷き、魔剣使い達の先頭へ立ち) 「さあ、時間だ!ゆくz (彼の声は最後まで言い切るよりも前に、突如響いた爆音にかき消された) 「…くそ!一体なんだ、剣獣か何かの襲撃か!おい、無事な奴等は俺の側へ来て俺を守れ!」 (土煙の中でも声ならば関係はない、命令をすれば近くにいた者達が集まり、ゴトウを守るように前へと立つ) (やがて、土煙が晴れ、起こった出来事の様子が視認できるようになった時) 「…は?」 (ゴトウは思わず呆けた声を上げ、唖然とした様子でその光景を見ていた) -- マサギ
- (煙が晴れた先に見えた光景は、巨大なクレーター)
(爆心地の近くにいたであろう者達の残骸が、煙が晴れると同時に血と肉片の雨となって降り注ぐ…その中心には一本の剣が突き立ち) 「何だよあれ…まさか、アレ一本であそこまでやったってのか!?ふざけんな、ミサイルじゃねえんだぞ!」 (気が動転したゴトウがわめき散らす、と同時に再びの爆音、今度は巻き込まれる者こそいなかったものの) (地面は大きく抉れ、そこには前進が鋼で覆われた、奇妙な生き物が佇んでおり) 「な、なんだありゃあ…新手の剣獣か?まあいい、おい!あの魔剣は回収、剣獣の方は中身毎でもいいから殺っちまえ!」 (およそ元とはいえ人を護る機関に所属していたものとは思えない命令を部下達に下す) (ゴトウが持つ魔剣の力で増幅された声は、部下達を深い催眠状態へと誘い) (弾かれた様に獣へと向かい…その全てが、次の瞬間には獣から生えた無数の魔剣に刻まれ、血煙と化していた) -- マサギ
- 「ひっ!何だあいつ…ただの剣獣じゃないぞ!?お、おい!誰か早くあいつを始末しろ!」
(それはゴトウの命令ではなく恐怖から思わず口走った言葉だが、魔剣は構わずゴトウの言葉を増幅し 部下達へと向ける…そして、皮肉な事に感情が篭っているからこそ、普段よりも命令として強く作用したそれは 部下達をあの獣を倒すという目的のため、従順な戦闘人形へと変え一斉に殺到させる…) (しかし、獣は倒れるどころか暴れまわり、襲い掛かる者達を悉く殺し尽くしていく…その様は死体が残ればまだましな方で) (ある者は焼き尽くされ、ある者は急速に風化し塵になり、ある物は体が生きたまま腐敗、溶け落ち肉の染みと化した) 「あ…そ、そんな…何だよアレ…」 (この都心において数で言えば随一といえる自分の手勢が、まるで蟻の群れの如く蹴散らされていく…それは、ゴトウにとって悪夢のような光景) 「ゴトウさん撤退しましょう!アレは普通じゃない!もしかして、あれが例の新しく出現した魔剣…」 (言い切るより前に、先ほどゴトウと話していた女の首が斬り飛ばされ、ゴトウの元にボールのように転がってくる) (その顔は死の恐怖に歪んでおり、そして、その顔を見た瞬間…ゴトウの中で、何かが崩れ落ちた) -- マサギ
- [ひ、ひぃぃぃあああアアアアアアア!!!!!!」
(恐怖に耐え切れなくなった男が、自らの部下たちを見捨ててその場から逃げ出す) (後日、別の剣過対に都心の安全な区域でホームレス同然のような生活をしていたゴトウを確保するが) (その様子は別人のようにやつれ、髪は恐怖で白くなっていた…特に剣を見たときに引き起こすパニックがひどく) (彼に事情聴取をする際刃物は勿論剣や刀、それに近い形のもの…ペンや鉛筆ですら持ち込みを禁止されたという) -- マサギ
- --
- 何とか、伝えきれたか…
(三厳に中央区地下での事を伝えた後、一人都心のどこか、ベンチに座り呟く) (三厳に伝えた事は嘘ではない、記憶を取り戻した…思い出したのだ、全てを) -- マサギ
- (そう、思い出した…自分がこことは違う世界から来たこと、かつて魔剣士として無数の魔剣を蒐集した事)
(大事な人を殺され、復讐のために大勢の人間を殺し、傷つけ仇へ挑み…) (敗れ、大事な人と仇の記憶だけ記憶を消され、歪な憎悪を永遠に抱き続ける魔剣へと変えられた事) (そして…何も無い虚無の中で呪詛を吐き続けてたところを百剣爺に拾われた事) -- マサギ
- 分かれば何てことは無い、俺の記憶は失われていたわけではなく…元から無かったのだ
(自嘲気味に笑いながら、顔を覆う) とんだ笑い話だ…元から持ってないものを取り戻すも無いだろうに (全てを思い出した今、封印されていた仇への憎悪も完全に解放される…仇を、仇の味方を憎み、憎み続け道を踏み外し…その果てに全てを憎むようになった自らの心の成れの果てが) (恐らく自分が強迫されるかのように失った記憶を求めたのも、これが原因だろう…) 最早顔も覚えていない大事な人のため、姿も生きているかも分からない仇へ憎悪を滾らせる魔剣、か… (男の心を表すかのように、その姿は徐々に異形へと変わっていき) 哀れ、だな…(やがてその姿が体中から剣を生やした、鎧と獣の混ぜ物のような姿になると、遠吠えを上げ姿を消した…) -- マサギ
- (中央区、住吉三神を倒したとはいえ今だこの区には強力な魔剣が多くあり、男は記憶 三厳を取り戻すため、それ等を打倒し取り込む日々を送っていた)
ここは… (そこは中央区の地下、前に出会った三厳という男が言った魔剣の領域) この、臭いは… (この都心では最早馴染み深い嗅ぎ慣れた死の臭い…血臭を辿り中央区の地下へと潜っていく) -- マサギ
- (地下へ降りていくほどに濃くなっていく匂い…漂う血臭の強さから恐らく事が起きた直後か
(そしてたどり着いた場所は、恐らく逃げ遅れたまま閉じ込められた中央区の人達が築いたであろう小規模なコロニー…の残骸) これは…!(そこはまさに惨劇の場と呼ぶに相応しい有様であった) (生きているものは一人もおらず、老若男女等しく命を刈り取られており、そしてその太刀筋は、男も見覚えのあるそれに非常によく似ており) まさか、これがあの男のいっていた… (そう思った直後、奥から響く女の悲鳴…どこか冷静であった男がその瞬間、血相を変えて声の方へ走り出す) -- マサギ
- (そうして声のする方に辿り着けば…そこには血を流し倒れる女性…袈裟懸けに骨すら断ち割られ)
(半ば切断されたその姿は、どう見ても既に事切れている…そして、その生気を失った虚ろな目が男と合い) あ、ああ…!! (途端、男が怯えたように蹲り…震え始める、その目はここではないどこかを見ており) (故に…己へ迫る凶刃が今まさに、首を切り落とそうとしている事になど、微塵も気づく様子は無く) -- マサギ
- 「!!」(その凶刃が、首から生えた魔剣に阻まれる、流石の襲撃者も面食らったのか距離をとる)
…えか(直後に、地の底から響くかのような声が、黒コートの男から聞こえる、襲撃者はその言葉に答えることなく、刀を構える) お前が、やったのか?(地獄の鬼もかくやという表情の男が、襲撃者を睨み剣を構える) (真っ赤に血走った目は、敵を通して別の誰かを見ているようであり、行くあての無かった憎しみは今、襲撃者へ向け一心に注がれている) (そして…その憎悪をぶつけるように体から魔剣を無数に突き出し、矢の様に撃ちだす!) -- マサギ
- (無数の魔剣が絶え間なく撃ち出される悪夢のような状況を、襲撃者は焦る様子も無く避け…それどころか距離を詰め…ついには男に接近し目にも止まらぬ一閃を男めがけ放つ!)
効かん!(再び男の体から魔剣が生え、その一撃を…) っ!?(総毛立つような気配に、直感的に体を捩る、一撃目を敢えて魔剣で受けさせ、油断した一瞬を斬らんとする二撃必殺の技) フーッ!!フーッ!!(相手の見せた脅威の即応性も、その技も男は認識していない) (ただひたすら獣のように、襲撃者を睨みつけ襲い掛かるタイミングを伺っている…) (大して襲撃者の方は、弱いものなら対峙しただけで命を失いそうなプレッシャーをものともせず) (再び構えを取る) -- マサギ
- (今度は襲撃者の方から仕掛ける、先ほどとは打って変わって、激流を思わせるような激しい斬撃)
(待ちに徹すれば魔剣を乱射され不利になると感じたのだろうか、相手を抑え込むように振られる刀は) (しかしそのどれもが迂闊に受ければ致命傷足り得る一撃であり) ぐっ、ぬぅ!! (そのため本来ではその体質もあり単純な攻防において勝るはずの男は、襲撃者相手に防戦一方を強いられていた) こい、つ!俺の起こりを…!(動作を完全に読み切り徹底して動きを潰し続け、気持ちを急かせた末に生じる隙を狙った先の先狙いの一撃) (攻撃を仕掛けながら相手の動きをコントロールする、それは敵の驚異的な技術、胆力と憎しみに呑まれた男の隙故になせる事) …(それを分かっていながら、男は止まらない、止まろうともしない、その心は憎悪、ただそれのみが燃え盛っており…最早他の何も見えてはいない) -- マサギ
- (そして、遂にその瞬間が訪れる…男が決定的な隙を晒した瞬間、襲撃者の一撃がその首を…)
「っ!?」(初めて襲撃者が驚愕する、確実に首を捉えた筈の一撃が、硬質な…剣のような何かに弾かれる) 残念…だった、な゛ぁ!(切り裂かれた男の皮膚の下には、肉の代わりに金属が覗く…男は、自分の体内に魔剣を生やし致命の一撃を防ぎきったのだ) ぉ、ォォオオオオオオ!!!(己が内に生やした剣に喉の肉を割かれながら、男は構わず絶叫し己の体の魔剣を全方位に解放する!) (全力で解放された魔剣は、炎を、雷を、氷を放ち、刀身を大蛇のようにうねり狂わせ、どこまでも伸び、触れるもの全てを微塵に刻む殺意と暴虐の嵐となりコロニーを、地下エリアを切り刻み、崩壊させる) -- マサギ
- (やがて解放された魔剣が静まり、嵐が収まる頃…地下エリアは完全に崩壊し、崩れた天井からは雨が降り注ぐ)
(襲撃者の姿はもうない、血痕が残っている事から手傷は負わせられたようだが、それを確かめる術は無い) … (男は、しばしの間呆然としていたが、やがてふらふらとその場を去っていった) -- マサギ
- --
- (東京都中央区のとある一角、かつては常連で賑わっていたであろう飲み屋、多くの会社員が勤めていたビル、都心の要たる道路…それ等は今、その場所だけが区切られたように海に没しており)
(そのかつての面影を水底に移す海面を、三つ頭を持つ長大な龍が己が領域を主張するように泳いでいる…) (この領域の主もまた魔剣、名を『住吉三神』…かつてとある神が穢れを禊いだ際に生まれた、三神の名を持つ三振りで一つの刀…その力が溢れ出し形を成したもの) (航海を守護する神の名を肖ったその魔剣が持つ力は、『海流の操作』…海そのものを操り、天候すら操る神の名に恥じない強力な魔剣) (その力はまさしく強大で、今まで幾人もの人間が、目的は違えどその魔剣を求め海の藻屑と化していった) (その魔剣は正しく、中央区で最も強力な魔剣の一つといっていい程に) -- マサギ
- (その魔剣…住吉三神には自我があった)
(最初にあの翁の忌まわしい束縛から解き放たれた時、魔剣は歓喜した、これでようやく自らを振るって貰えると) (神刀として奉納され奉られる日々も、あの翁に美術品のように飾られる日々も魔剣にとってはどちらも変わらぬ退屈な日々であった) (刀でありながら飾り物のように扱われる日々は、多少の優越感こそあったものの、それ以上に虚無感を感じていた) (そんな日々がようやく終わる、血で血を洗う魔剣同士の争いの中で相応しき主の下、存分に力を振るえる日々に魔剣は期待で胸を焦がした) -- マサギ
- (結果を言えば、その夢は叶わなかった…己を狙うのは己を振るうに値しない、金や欲望に目が眩んだ下種か再び封印し、無為の日々を送らせようとしてくる連中ばかり)
(それでも最初は、憧れた外の世界、そして強者との戦いのため我慢して振られていた) (だが、神の如き力を持つ住吉三神に対し、余りにも他の魔剣は弱過ぎ、脆過ぎた…それは使い手も例外ではなく) (何時しか使い手すら食い潰す凶悪な魔剣として、住吉三神は持つ事すら憚られる呪いの魔剣として打ち捨てられた) -- マサギ
- (魔剣は失望し、怒り狂った…己を閉じ込めた翁に、弱すぎる他の魔剣に、脆過ぎる己の使い手に)
(やがて中央区に自分を振るうに値するものはないと見切りをつけた魔剣は、力を使い巨大な龍へと変化し中央区の一部を沈めた) (暴走したふりをすることで、己を振るうに相応しい気概の者が、戦うに値する魔剣が他の区から挑んでくるように…
(そして時は流れ、今まさに魔剣の願いは叶えられ…三頭を持つ水龍は歓喜の方向を上げていた) -- マサギ
- ふむ、ハイドランシアではダメか…?(魔剣の力で凍った海面に立ちながら、黒コートの男が呟く)
(男の名はマサギ…失った記憶を求め都心を彷徨う魔剣使いの男、男はとある縁で知り合った青年が探す魔剣と) (自身の記憶を取り戻す力のある魔剣を探すため、中央区まで来ていた。そしてそこで自らが呼ばれるような不思議な気配に招かれるまま足を運べば) (気づけば三つの頭を持つ奇怪な龍が支配する、水没した区画へとたどり着いた) さて、急に襲われたからついやり返してしまったが…これも魔剣、なのか? (どう見ても生き物にしか見えない目の前の龍に首を傾げながらも、再び凍土剣ハイドランシアを振るう) (氷の力を持つ魔剣を振るえば、その剣の軌跡に沿って海面が急速に凍りついていく) -- マサギ
- (住吉三神が咆哮と共に、長い尾を振るい凍った海面ごとマサギが放った斬撃を打ち払う)
(魔剣の一撃に正面からぶつかったにも拘らずその体は勿論、鱗にも毛ほども傷ついた様子は無く、鱗の堅さを如実に物語ってくる) 成る程、今までの連中とは一味違うというわけか…面白い (知らず、笑みが毀れる…それがこの魔剣の強さに対してなのか、戦える事に対してかはわからないが) (以前はしなかったことから、これも記憶を取り戻して着たことの影響なのだろう …) 以前の自分は、かなりの戦闘狂だったのかもな… (一人ごちる男の下に、再び振るわれた龍の尾が鞭のようにしなり、風を切る轟音と水しぶきを撒き散らしながら迫る!) -- マサギ
- (男のいた氷塊は、龍の尾の一撃でたやすく砕け散り、水飛沫と共に海底へと消えていく…)
(だが龍は捉えていた、今まさに尾が氷塊に当たらんとする瞬間、何かが空へと飛び立ったのを…それぞれの頭が中央区の空を見上げれば) (そこには鋼で出来た怪鳥の背に乗った、男の姿が) 翼刃剣バルーンバイン…初めて使ったが…中々に便利そうだ(バルーンバイン…かつての名をエイシズハイと名づけられていた魔剣が、金属が軋む様な声を上げる) さて、氷がダメなら…次は雷と…!? (男が新たな剣を掴み出そうとした時、突如稲光が天から放たれた槍のように男へと向け迫ってくる!) -- マサギ
- (鋼の怪鳥は予め感知していたのか、寸でのところで雷光を回避する…持ち手とは別に機械的に思考し、持ち手をサポートする機能に今回は救われた男は、冷や汗を拭う)
あの魔剣…まさか海水だけでなく海流そのものを弄って、間接的に天気も操作できるのか…! (男の推測の正しさを示すように、龍が天へ向け咆哮をあげれば急速に天候は悪化し豪雨と強風、雷が降り注ぎ…その様はまるで嵐の只中にいきなり放り出されたかのようで) -- マサギ
- まったく、とんだ魔剣もあったものだな…!
(余りに強力なその力にさっきとはまた違った種類の笑いがこみ上げてくる) …仕方が無い、まだ余り試せていないが…アレをやるか…! (いかな魔剣の力を持つ怪鳥といえど、この嵐の中では何れは堕ちる…何より自分がもたない) (そう判断した男は、とある賭けに出ることにした) 断絶剣カレンデュラ!大望剣カルミア! (二つの剣を取り出し念じれば、その剣が混ざり合い、黒い刀身の新たな魔剣へと変わり) うおおおおおお!!! (再び男が念じれば、それはカルミアの特性である剣身の長大化を起こし、瞬時に男の数倍はあろうサイズへと変化し) (更に男がその剣を振るえば、断絶剣カレンデュラの能力である空間の切断を起こし…それ等の能力を組み合わせ、怪鳥で飛ぶ男が高速で剣を振るえば) (龍の周りの空間が断絶され、天候の操作は意味を成さず、操る海水も皆無に) (龍は本能的に察知する、次に男の繰り出す攻撃は自身を打倒するに値すると) (三つ首が今までで一際強烈な咆哮をあげ、マサギへ向け口を開く) (龍の口内では大量の水がその力で圧縮されている…三つ首それぞれから放たれる超高圧縮された水のブレス、それこそが龍の奥の手であった) -- マサギ
- (そして圧縮された水流のブレスが、男へ向け放たれる…だが)
それほどの力を持つ魔剣だ、それぐらいは当然あるとは思っていたさ… 無論、その備えもな! (男の体から無数の守護剣カランコエが突き出し、結界を何重にも張る…それだけではない) (本来カランコエが持たない、結界同士を結合させる力をカランコエに付与し力を融合、それぞれの結界の力の繋がりが強化され、更に結界は堅くなり) (そして次の瞬間水のブレスが直撃する、轟音と共に目の前を瀑布の根元のような激しい水飛沫が埋める) (だが、結界は壊れるどころか罅一つ入らない、本来なら魔剣ですら真っ二つにしかねない力を持つそれは男と怪鳥に届くことは無く) (そうして、結界は見事に水のブレスを防ぎきる…龍が驚愕の唸りを上げ、僅かに慄き首を引いたのを男は見逃さなかった) --
- …勝機!
(一瞬の隙を見逃さず、先ほどの裂帛の気合を込め、先ほどの合成魔剣を振るう!) (男と怪鳥が三つ首の龍を通り抜ける…そして一瞬の静寂の後、龍の体に無数の線が入り、次の瞬間バラバラに切り刻まれ、崩れ落ちる) (龍が倒されるのと同時、区画を満たしていた海水はまるで潮が引くように海へと戻っていき、それと同時に沈んでいた区画が浮上する) …これで終わりか?(龍の屍の元へと怪鳥が降りる…そして男が切り刻まれた龍の元へ寄れば、それを待っていたかのように龍の体が光の粒子となって消え、そこには三本の刀が残っていた) …これが先ほどの龍の、本体か(その剣を手に持てば、己の中へとしまう…何故かしまう瞬間、刀から若干不満そうな意思を感じ取った気がした) …っ!(が、それも即座に吹き飛ぶ) (刀を取り込んだ瞬間、本当にその一瞬だけだが、あの暴走したとき以来思い出せなかった記憶の断片が、不意に浮かび上がった) 今の、は… -- マサギ
- (今まで記憶を取り戻す魔剣を探して来たが、近いものはあれど取り戻す能力を持った物は無く)
(また、自分の力で付与させる事もできなかった…だが) もしかして、魔剣を取り込むことがかつての俺の記憶を刺激している…? (夢で見た一連の過去の断片が呼び水となり、今の自分はかつてより記憶を取り戻しやすくなっているのかもしれない) (そしてそれは、かつての自分に近い行動をとる事で記憶が刺激され、記憶を引き出しやすくなっているとすれば) 試す価値は、あるな… (魔剣を倒し取り込めば記憶が戻る…それが分かった今、男のすべき事は決まった) 記憶を取り戻したら…取り込んだ魔剣はあの魔剣を封印してる奴等に渡せばいいか… (成すべき事が決まった今、もはや用は無いとばかりにその場を後にする…その足取りは、心なしか以前より軽く見えた) -- マサギ
- --
- 東京タワーか…中々、面白いところだった…(千代田区から港区までの暴走後、男は一先ず情報を得るべく一際目立っていた赤塗りの鉄塔へと向かった)
(結果としては目ぼしい情報は無く、人も不思議な雰囲気の少女がいるだけであったが) (展望デッキから見た都心の姿は、自然豊かな場とはまた違った趣のある見事なものであった、思わず見とれてしまうほどに) まさしく人の文化が作り上げた、人工物の森のようだった…あの人にも…!? -- マサギ
- ぐ、うおおおおお!!?(ふと、断片的に思い出した記憶の中の女性…それを思い出した瞬間)
(身の内を突き破らんばかりに、原因不明の憎悪が心の奥底から溢れ出してくる) く、待て…!静まれ…!!(男の感情に反応するかのように、その体から無数の魔剣が突き出し、かつて都心を飛ぶ魔女が言ったとおりハリネズミかヤマアラシのような有様に) …ぐ、はあ、はあ…(何とか落ち着きを取り戻すと、全身汗まみれでその場にへたり込む) -- マサギ
- (千代田区で歌仙眠院により眠らされた後、男は夢を元にかつての記憶をいくらか取り戻したものの)
(その時に抱いていた何かへの深い憎悪までも思い出してしまい、ぶつける先のない憎しみを抱えそのまま暴走してしまった) (そして意識が無いまま男は千代田区から港区までを無軌道に彷徨い、その間襲って着た者達を皆殺しにし) (魔剣があれば取り込んでいった…結果として強化にはなったが、その反動か以前より己の内で蠢く何かが強くなっている事に、強い不安を覚えていた) (それだけではない、あの時の原因不明の暗い感情は、今も己の内で燃え続けている…ふとしたきっかけで暴走しそうな程に…しかもそれは、日に日に強くなって行く一方で) -- マサギ
- あの時の記憶の女性…焼け落ちた町…それが鍵なのだろうが…早く記憶を取り戻さねば
(そうでなければ…自分は元の自分の憎しみに呑み込まれ消えてしまうのではないか…そんな気持ちが拭えない) 俺は…一体何者なんだ…? (過去もわからない、何かを憎んでいてもその何かが分からない、そもそも自分が誰かも分からない) (いい様の無い気持ちを抱えたまま、男は再び情報を集めるべく、その場を後にした) -- マサギ
- --
- 『俺は…そうだ、確か魔剣にやられて!…ここ、は?』
(胡乱した意識が徐々に覚醒していけば、そこはあの怪異と魔剣が跋扈する人外魔境ではなく、見覚えのない場所) (そこはコンクリートで舗装された冷たい地面と、聳え立つビルが木々のように密集する都会ではなく、土と草の香りと) (暖かい日差しが降り注ぐ、長閑な田舎の風景が広がっていた) -- マサギ
- (行き交う人々はスーツではなく、麻や綿でできているであろう素朴な服装、露店が並び、子供達がはしゃぎ回り、家畜の鳴き声が聞こえるそこはもはや中世の田舎町といった風であり)
(男が見た事も聞いたこともない場所…だというのに、自分の中にはどうしようもない郷愁の念と、後悔とも狂喜ともつかぬ感情が溢れ出てくる) これは…俺の記憶、いや…夢なのか? (正国から聞き及んだ例の魔剣、歌仙眠院により眠りに落ちた男は、今この状況を理解すべく頭を働かせる) (今の自分は夢を通して自分の過去を見ているようだろうか、全体的にはっきりとせずぼんやりしているが) (少なくとも東京ではこのような景色は一度も見たことはない、何よりも文明のレベルが違いすぎる) 一体、ここは… -- マサギ
- 「…」
(男がこの状況から何と書置きを取り戻そうと必死に手がかりを探していると、不意にどこからか声が聞こえる) (どこの誰かも分からない、恐らく女性であろうその声を聞いた途端、抑えていた感情が突如堰を切り) (涙が止め処なく溢れ出す…まるで、奇跡の再会だとでも言わんばかりに) !?…なんだ、一体何が起きている…この声の主は、思い出せない…思い出せないが… わかる、理屈ではなく…俺の魂とでもいうべき部分が、この声の主との再会に、喜んでいる…! あんたは一体…(声の主へ声をかけた瞬間、視界が砂嵐で埋まり画面が切り替わるように次の場面へ) -- マサギ
- (視界を取り戻せば、そこはどこかの家の中だろうか)
(先ほどの声の主…頭、特に顔の部分がぼやけてよく見えないが…恐らく体つきからして女性だろう) (その彼女が此方へ向いて何かを語りかける…再び胸のうちに強い感情が湧く、だが先ほどとは違い) (喜びと平穏を感じる胸の内に微かに、寂しさのようなものも感じ) 教えてくれ!あんたは一体誰なんだ!?俺は一体誰なんだ! 頼む、せめて手掛かりだけでも…(自分の知らない記憶…その不安に押しつぶされそうになった男は、普段の様子が嘘の様に声を荒げ、顔の無い女性に掴みかかろうとし) 「…」 (不意に、彼女が困ったような様子で胸の辺りで抱えた何かをあやす) (途端、男の頭に割れるような痛みが走り、意識が遠のく) ぐ!…ま、待ってくれ…頼む、どうか答えを… (そして視界が、再び砂嵐に覆われていく…) -- マサギ
- (視界を取り戻せば、そこはどこかの家の中だろうか)
(先ほどの声の主…頭、特に顔の部分がぼやけてよく見えないが…恐らく体つきからして女性だろう) (その彼女が此方へ向いて何かを語りかける…再び胸のうちに強い感情が湧く、だが先ほどとは違い) (喜びと平穏を感じる胸の内に微かに、寂しさのようなものも感じ) 教えてくれ!あんたは一体誰なんだ!?俺は一体誰なんだ! 頼む、せめて手掛かりだけでも…(自分の知らない記憶…その不安に押しつぶされそうになった男は、普段の様子が嘘の様に声を荒げ、顔の無い女性に掴みかかろうとし) 「…」 (不意に、彼女が困ったような様子で胸の辺りで抱えた何かをあやす) (途端、男の頭に割れるような痛みが走り、意識が遠のく) ぐ!…ま、待ってくれ…頼む、どうか答えを… (そして視界が、再び砂嵐に覆われていく…) -- マサギ
- (そうして再び視界を取り戻せば、そこは最初に見た光景と同じ町、ただ違うのは)
(町中が燃え盛り、あちこちに人の死体が散らばっていること、血と炎の臭いが充満する様はもはやかつての平穏は完全に失われ) (さながら地獄のようであり・・・) これは…そうだ、俺は夢の中でいつもここに… (そこは、いつも見る悪夢の光景…夢の中で見慣れた景色はやはり自分の過去と繋がっていたのだと合点がいった瞬間、一瞬の砂嵐の後) (景色が変わる…そこは、焼け落ちた一軒の家の前) -- マサギ
- ここは…
(頭が、自分の中の知らない自分が必死に警鐘を鳴らす、これ以上思い出してはいけない、これ以上進んではいけないと) (ここから先のものを見てはいけない、いや、見たくないと) ・・・ (男は、頭痛すらする脳内の警告を無視し、焼け落ちる家へと歩を進める)
(そこで)
(男が)
(見たものは)
あ、ああ…ぁぁぁぁぁぁぁあああああああああアアアアアアアaaaaaa!!!!!!!!! -- マサギ
- (例のホームセンターの件から少しして、黒コートの男は千代田区へとたどり着く)
(かつてはこの国の象徴たる天皇、その住まいがあった地区ということもあり霊的な力も強力だったのだろう…区内に入った瞬間) (この地の霊力が目当てであろう、強力な魔剣達の気配に総毛立つような感覚を覚える、だがそれは、裏を返せばその分強力な魔剣の情報…あわよくば魔剣そのものと出会える可能性が高いことも意味し) (故に男は、区内の各所から発せられる魔剣の気配に圧倒されると同時に、期待を抱いてもいた) -- マサギ
- この地に目当てのモノ…或いはせめて手がかりがあればいいが…む?
(例の青年から聞いた白鞘の刀…記憶を取り戻す魔剣と同じくこの地ならば或いはと早速聞き込みを行おうとしたとき) (こちらへ向けて走ってくる人影が複数目に入る…一人は女性、半ば襤褸布と化した服を手で押さえながら、必死の表情で此方へ向け走ってきている) (その影に追い縋ろうとするかのように続くのは複数の男達 (服装も年齢もばらつきがあるが、共通しているのはその顔に浮かべた下卑た表情と、腰に低級の魔剣らしき微弱な気配を感じる刀剣を佩いている) (よく見れば女は、破れた服の胸元を押さえるその手で刀らしきものも同時に抱えてる) 大方…偶々拾った魔剣と体を目当てに襲われた、といったところか… (それはこの街を彷徨い始めてから幾度となく目にした光景…おそらく、ここでは既に日常となったのであろう様子を特に感慨も無く見つめる) -- マサギ
- (泣きそうな顔で走っていた女は、しかし黒コートの男を見つけた瞬間、絶望に曇った顔に光が差す)
「た、助けてください!悪い奴等に追われてるんです!」 (息も絶え絶えといった様子の女がマサギの腕にしがみつき懇願する、思案する間もなくその後を追いかけてきた悪漢達がマサギ達の前に) 「よおかっこいい兄ちゃん!突然だけどその女とそいつの持っている魔剣はなかなかのレア物でなあ…こっちに譲っちゃくれねえか?」 (さてどうしたものかと思案する、この女を見捨てればあの面倒な連中に絡まれることも無く行動を開始できるだろう) (…だが) -- マサギ
- …悪いが断る、この剣が厄介な能力を持っていれば、知り合いに迷惑がかかるかもしれん
何より、お前らでは彼女の持つ魔剣を扱いきれるとは思えんからな (女性を背に隠すように前に出ると、剣を構える) (決まってこうだ、男は別段自分が優しいとは思わない…縁のできた人間ならともかく赤の他人をいちいち助けるほどの正義感は持っていない) (だが、目の前で人が…特に女性が襲われている光景が、どうにも我慢がならない…記憶を失い感情が若干希薄な自分が、自分で驚くほどに怒りが烈火の如く湧いてくるのだ) -- マサギ
- (もしかしたら、元の自分は非常に正義感が強かったのか、或いは…これも自分が失った記憶と何か関係があるのだろうか等と)
(勿体もない事をつい考えてしまう、これから雑魚とはいえ敵と戦うのに我ながら暢気だと頭の中で自戒する) やれやれ…それもこんな場違いな音色が…音…? (あの褐色の青年の言葉を思い出す…刀、音色、蛭巻拵えの鞘…あの刀の鞘の部分は) しまっ…(その言葉が口に出るより早く、男の意識は闇に沈んでいった) -- マサギ
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- (若者の街渋谷、かつてはそう呼ばれたこの高層ビルが立ち並ぶ渋谷駅周辺も今は破落戸の者達の巣窟と化していた)
(だがばら撒かれた魔剣に適合した者が多いこの渋谷区にあっても、禁忌とされているルールがある)
(曰く、渋谷区で生き残りたければ決して高層ビルの上層階には近づくな…と) -- マサギ
- (高層ビルの屋上で、一人の男が巨大な怪鳥と対峙している)
(白髪に黒コートという特徴的な姿に、腕から何本もの刃を生やし怪鳥を睨む男の名はマサギ) (体中から魔剣を生やす事のできる特異な性質を持ち、失った記憶を求め都心を彷徨う青年) -- マサギ
- キィィィィイイイアアアアアアアアア!!!
(青年に相対するのは、刃で作られた翼と、嘴を持つ鋼の怪鳥) (渋谷区を根城にしているこの怪鳥は、普段は空を飛び回るだけだが、ある一定の高さ以上まで生物が到達すると瞬時に獲物と判断し) (全身を形作る魔剣で瞬時に獲物を切り刻む、渋谷区の空の番人にして死神) (名を『魔剣エイシズハイ』、百魔剣禍において流出した数多の魔剣の一つである) (鋼の怪鳥は、己が領域に踏み込んだ不届き者を頭部の目のような穴から睨むように、赤い光を放っている) -- マサギ
- さて、ここならば何か手がかりがあるかもしれないと言われてきたが…
(渋谷区に来て記憶を探し始めてすぐ、とある青年からここに手がかりがあるかもしれないと聞きやってくれば) (いきなりの化け物による襲撃である、ここ数ヶ月で更新し続ける探索開始からの襲撃最短記録に男はうんざりしつつあった) その姿…おそらく魔剣の一種なのだろうが、持ち手は…(ふと目を胸部に見やれば、怪鳥の肋骨に囚われるように白骨となった死体) となると持ち手を何とかするのは無理か、ならば’(腕から生やした剣の一本を引き抜き構える) 叩きのめすしかないか -- マサギ
- (怪鳥が再び声を上げると、まるでそれが死合の合図だとばかりに同時に跳躍、飛翔)
(人体にとって死角となる頭上から、刃で形作られた足の鉤爪で引き裂かんと迫る!…だが) 甘い (カルミアの特性、剣身の巨大化を使い鉤爪を防ぐと即座に横薙ぎで反撃するも) (相手もわかっていたのだろう、再び飛んで回避すると串刺しにするべく) (刃を束ね剣山のようになった嘴で、今度は背後から剣を振り切った男へ迫る!) -- マサギ
- やるな…!(カルミアを地面に突き刺し、剣身を広げると盾のようにして再び防ぐ)
(その鳥の骸骨に似たシルエットからは想像もつかない重量と速度の怪鳥にぶつかった剣からは、火花と悲鳴のような音が上がる) ぐ、おおおおお!!(屋上の端ギリギリまで後退させられるも何とか耐え切る、が、代償としてカルミアには亀裂が無数に走り、次の瞬間砕け散る) -- マサギ
- (砕けた剣身を気にも留めず剣の柄を手放せば、待っていたかのように突っ込んできた怪鳥が、止めを刺すべく)
(嘴での連続突きを放つ!、既に防ぐ武器を手になく防具すらも持っていない男は、諦めたかのように自然体で立つ…このままいけば後数瞬でその体は穴だらけになる) (不意に、変わるはずの無い怪鳥の金属の頭部の目元が…嘲笑に歪んだように見えた) -- マサギ
- (だが次の瞬間、突き刺さる筈だった嘴は相手に届くことはなく)
(代わりに男の体から無数に生えた長大な魔剣が、怪鳥の体を貫いていた) 同じような能力の魔剣やより長大な魔剣を持ってないと思っていかたか?ならばその油断がお前の敗因だ (そのまま駆け寄ると、生やした剣の一本…刀状の魔剣タチアオイを抜き取ると、刀身を延ばし怪鳥の体を真っ二つに両断する!) (一瞬の静寂の後、体がずれると左右に倒れる怪鳥…その残骸は一際眩しく光ったかと思うと) (一振りの長剣へと姿を変えた…それはこの魔剣が、敗北を認めた証) -- マサギ
- 勝った、か(魔剣を拾い上げると、暫く観察した後…突然その剣を己の掌へ突き刺す!)
(元々剣としても優秀だったのであろう魔剣エイシズハイは、男の掌を苦もなく貫く…筈であった) (だが不思議な事に、剣は掌を貫くことなくまるで吸い込まれるかのように男の掌へと沈み込んでいき…やがて完全に取り込まれた) 流石にこれがまた他人の手に渡れば厄介だからな、何よりその力は魅力的だ、少し俺の中で大人しくしてもらおうか(そう口にする男の目は、どこか普段と違う様子で) -- マサギ
- …!?俺は今、何を…(一瞬の後正気に戻った男が動揺を隠せない様子で独りごちる)
(あんなことは今まで試したことはなかったし、そもそも自分がそんな力を持っていたこと自体今まで知らなかった) …まあ、分からないことを悩んでもしょうがない…帰るか(その後、エイシズハイの元持ち手であろう白骨死体を簡単に弔うと渋谷区を後にした) -- マサギ
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