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過去の日記とその月に出会った人 Edit

黄金暦89年6月 Edit

◎◎◎◎○ 950G オーク討伐 …成功

僕の最後の冒険は、皮肉にも、
僕が初めて仲間を死なせてしまった、北西の遺跡だった。

遺跡の入り口を潜ると、其処は相変わらず、黴臭くて湿った空気を湛えていた。
僅かな吐き気。 奥歯を噛み締めながら、僕は先頭に立って進んだ。
迷い無く進む僕に驚いたのか、戸惑いながら僕を呼ぶ仲間に、
一言、「此処はよく知っているから」と伝えた。

途中、狼の群れとすれ違った。
ベティがそれを見つけ、先を歩く僕に伝える。
…もしや、あの手練れ狼の群れがまだ…?
少し回り道になるが、僕達は、狼を狩って行く事にした。

…弱い。 手練れどころか、まだ若い狼ばかりの群れ。
その中には成狼は一匹も居ず、戦いにも慣れていない様子だった。
…僕がこの遺跡に着てから、まだ一年。
あの時、僕達が倒した狼達は皆、手練れの成狼。

…ああ、と僕は声を漏らす。
それに気付いた仲間が不思議そうにこっちを見たので、僕は苦笑と共に首を振った。

きっと、あの狼達の子供だ。



その後、僕が前に来た時には無かった罠に一度かかったくらいで、
特に問題も無く遺跡の奥に到着した。
腐り落ちたドアの向こうで、ふてぶてしく酒盛りをしている豚頭達。
僕達は、視線を交わし、声も出さずに部屋に突入した。

戦いには快勝。 殆ど傷も負わなかった。
ただ、治り掛けの傷が僅かに疼く。

…ああ、これだけの力が、一年前の僕にあったのなら。

そんな考えを、首を振って追い出す。


過去はなくならない、
どれだけ進んでも僕の脚に絡み付いてはなれないだろう。
でも、今の僕には、重い足を引き摺る僕の手を引いてくれる人達が居る。

前に進もう。
その為に、強くなったんだ。


イムタットの冒険

黄金暦89年6月 Edit

◎◎◎○○ 1,300G 人型の怪物討伐 …成功

一人前、と呼ばれるようになった。
次は、騎士としての一人前になる。
(メモ、走り書き)

ハンニバルさんと戦った。
まだ、まだだ。
でも、気持ちは晴れやかなのは、きっと、
自分が誰よりも幸福なものであるという事が、わかったから。

  • アランさん?:元漁師の冒険者さん。 うわばみ。 肩に刺青。
    カイム先輩のテーブルでお会いして、それから時々お酒を一緒に飲むようになった。 豪快で明るい人。
  • レイヴンさん:元騎士の冒険者さん。 クールな方。
    正式な騎士だったらしい。 ソードブレイカーやマンゴーシュといった特殊剣を使う。
  • オンナノコさん?:バクフさんのご友人。 魔法使いの方。
    普通の学生から、英雄候補まで駆け上がった生え抜きの冒険者さん。 凄いなぁ…。

黄金暦89年5月 Edit

◎◎◎○○ 1,100G 人型の怪物討伐 …成功
まだもう少し。 もう少しだけ…。

  • カシュニさん?:銀髪の弓士さん。 僕より年が上らしい。
    小柄ながら、弓の腕は確かな様だ。 僕とハンニバルさんの修行風景を描いてくれた。

黄金暦89年4月 Edit

◎◎◎◎○ 1,200G 狼討伐 …成功

今回は狼退治。 …此処に来た頃には強敵だった狼達。
もう、普通の獣であるなら、気負わなくても追い払えるだけの力がついている。
勿論、他の皆の力が無かったら苦戦はするが、それでも、確かな成長を感じる。
…一度故郷へ戻り、国の…城の様子を見に戻ろうかと思う。
…あの大臣は、養父を毒殺した。 化け物の後ろ盾があるのに、わざわざ毒を使った。
養父が強かったのも理由だろうが、僕にはどうも、
あの化け物自体は強い物であるとは思えなかった。
…今の僕でも、いけるかもしれない。
…いけないかもしれない。
自惚れかも知れないが、今の僕なら、その判断がつけられるはずだ。


冒険者の酒場には、様々な人種、技術、性格の者が一堂に集う。
様々な職から転じた者が揃う中で情報を集め、己を鍛えれば、
騎士としてでは到底得る事のできない技術や、知識、考え方を学ぶ事ができる。
これは、僕の目的の達成には願っても無い好条件の場所だった。
だから、僕は冒険者となった。

実際に、僕は様々な人達と出会い、交流した。

カイムさんには、冒険の基礎や、一人で多人数と戦う術。
ラセットには罠や、森の歩き方。 狩りに関する戦術。
アミエルには、槍との戦い方や、飛行に関しての知識。
バクフさんには素手での戦闘の方法、対個人戦闘の実戦知識。
ハンニバルさんには、技や術理、型、戦闘倫理や哲学。
皇帝陛下には、軍隊指揮の知識や、戦闘のアイディアの閃きについて。
イトゥンやホタルさんには、捜索や探索の方法を。
フルバックさんには、生きると言う事を。

…他にも、様々な人から様々な事を学んだ。
そして、騎士団に居たときとは違う、愉快な時間を教えてもらった。
何よりも代え難い物を、与えてもらった。



誕生月に冒険者を初めて丁度1年。
今月、僕は18歳になった。
…養父が生きていて、騎士団が解体されていなかったのならば、
騎士としての称号を受けるはずの年齢だ。

しかし、僕はまだ騎士を名乗れない。
そして、生粋の冒険者にも、なれない。
やらなくちゃいけない事があるから。


…良い時期だ。
まだ数ヶ月かかるかもしれないが、
この国を発つ準備を、始める事にしよう。


(ページの裏に、走り書きがある)


  • ネオスさん?:正義の味方さん。 融合が得意技らしい。 …融合?
    溢れる情熱を感じ、なんとなく見つめてたら、それに気付いて声をかけてくれた方。 気合十分!
  • パトリックさん:バクフさんと並ぶ酒場の英雄さん。 全身鎧?
    悩んでる僕を見て、指輪のお守りをくれた方。 …英雄のお守り、効きますように…(拝み)
  • アルマ:さばさばした明るい冒険者さん。 同い年の大体同期。
    僕と手合わせをしたいと訪ねて来た剣士さんで、大らかな人。
  • ゼピュロさん:元執事の冒険者さん。 剣士の方。 ヘッドロックが痛い。
    良い男を育てるのが得意、という噂。 …貴族の先生みたいな感じだったのかな?
  • ダトさん?:元樵さん…にしては、なんだか物腰が…。 眼帯と髭の格好良い人。
    穏やかなダンディさん。 …軍役経験があるような雰囲気が…、気のせいかな?

黄金暦89年3月 Edit

◎◎◎○○ 1,100G 人型討伐 …成功

なんだか最近、オークと縁がある。 あり過ぎる。
今回の依頼の『人型の化け物』も、オークの事を指していた。
先月の冒険でもオークリーダーを倒し、遺跡から追い払ったのだが、
今度は別の遺跡に巣食うオークを相手にした。

偵察に出ていたドゥルジナがオークを発見し、僕達は奇襲をかけた。
余りに、呆気無い。 …剣を振る度に、オークの豚頭が宙を刎ね飛ぶ。
…その事に無感動になっている自分と、
的確に首を刎ねれるようになっている自分に気付き、僕はぞっとした。

酒場に居る時、誰かが僕を指差して、死神だと罵倒した事がある。
僕はムキになって反論したけど、今では、それが出来ないかもしれない。
…死に、慣れてしまっているのだろうか。

感覚の鋭いドゥルジナが、その後も罠に敵にと活躍し、
リーダー討伐までに、殆ど傷らしい傷を負わずに済んだ。
リーダーの攻撃が手に取るように見える。 ディフレクト、後に一撃。
崩れ落ちるリーダーの死骸を見下ろし、僕は首を傾げて呟いていた。

『…弱いな』

なんて、傲慢。


僕は、こんな流れの中に居て、強くなれるのだろうか。
…最近、眠りが浅い。 今日は、雨の音で深夜に何度も目が覚めた。
時間が過ぎていくのが、怖い。




(追記) 久しぶりに、嫌な夢を見ずにぐっすり眠れた。 …懐かしい夢を見た気がする。 覚えてないけど。

黄金暦89年2月 Edit

◎◎◎○○ 1,300G 人型討伐 …成功
三度罠にかかり
三度その罠を回避する魔術師
戦闘二回
どちらも快勝

情熱が下がった!

(メモ)

黄金暦89年1月 Edit

◎◎◎◎○   850G ゾンビ討伐 … 成功

冒険は快勝。 …余りに快勝。
最近、僕の身体から力が抜けるような感じがある。
疲れでも溜まってるのだろうか?



戻ってきたら、酒場に訃報が届いていた。
幾通かの報告の中に、僕の知った人の名前があった。
…同じエルフ族で、冒険の先輩で、そして、憧れの方。

酒場が静かだ、とまず思った。
次に、自分が静かだ、と気付いた。
僕自身、言葉を失っていたと気付いた瞬間、鼻の奥が痛くなった。

僕は思いっきり、自分の顔を両手で叩いた。
思った以上に大きな音がして、隣で飲んでいた冒険者が驚いた顔をした。
頬っぺたが熱い。 でも、鼻の奥の痛みは無い。

我慢だ。
泣いちゃいけない。
泣くべきではない。

笑う。
頬っぺたが引きつる。
…僕は自分の部屋に駆け戻った。 また鼻の奥が痛くなる。
耳が熱い。
首を振って、自分の荷物を開いた。
…使い込んだ、自分のジョッキ。
それを持って酒場に戻って、僕はマスターに頼んだ。

…彼が、一番好きだったお酒を。
…蜂蜜酒以外は強くて飲めないけど、
今日だけは、少しだけ、意地を張ろう。

…部屋に戻って一口酒を含んだ。
一気に耳まで熱くなる。 …熱くて、咽る。
…でも、美味しかった。 少しだけ、お酒の味がわかる様になった気がする。

鏡で、自分の顔を見てみた。
こわばってるから、指で押し上げる。
…うん、笑えた。
笑おう。

憧れだったから、だからこそ、あの人が好んだ明るい顔で、
送ろうと思う。


  • ゴローさん?:元冒険者で、引退して今は貿易商を営んでる方。 グルメ。
    エルフと言う種族と仲が深いらしい。 僕も色々聞かれたけど…なんだったんだろう?
  • フルバックさん:仮面を被った冒険者。 …自律意識のある不死者。 素顔を見せてくださった。
    …死者なのに、グールとは違い生きている人。 …うん、フルバックさんは、酒場の先輩だ。
  • フライさん:元猟師の、弓を使う冒険者さん。 揚げ物。 …揚物…?
    3年目の大ベテランの方に兄弟子、とか言われたら、僕どうして良いやら…!
  • ディセアさん:アルビナ剣士さん。 テキーラを奢ってもらった。
    髭が無いから気づかなかったけど、ドワーフさんらしい。 背が低いのも頷ける。
  • ニャールさん:コアな物を取り扱う商人さん。 でも、僕はまだ買えないらしい。
    落ち込んでる僕の事を、影でずっと案じてたらしい。 …なんだか、凄く心が温かくなった。

黄金暦88年12月 Edit

◎◎◎○○ 1,000G 人型討伐依頼 … 成功

朽ちた柱が、寒々とした遺跡の風景を更に薄ら寒い物にしていた。
今回僕達が受けた依頼は、人型の魔物による、家畜の被害に困っていると言う村の手助けだった。
ゴブリンか、コボルトか。 はたまたオーガー…。
様々な憶測が頭の中を飛び交いながらも、どんな物が来ようと生き延びる決意を忽せまい、と僕は決めていた。

足跡を追って遺跡に入った僕達が見つけたのは、豚面の亜人・オーク。
折れた柱を背に火を囲んでいる姿が見えた。 それぞれの手には棍棒やさびた剣。
不意打ちは効かないか、と舌打ちをした僕に、同行のRNAとイルージアが小さく笑った。
同じ弓の師についていたと言っていた2人は、同じ方の弓を取り、矢を引き抜く。
矢はそれぞれ5本。 2人の弓士は視線を交わし、同時に矢をオーク達に向けて放った。
一呼吸の間の後に、耳障りな悲鳴。 それを合図にして、僕達は飛び出した。

突然の先頭に面食らったオーク達は、武器を取り落としたり、同士討ちを始めたり、逃げたり。
矢が放たれてから1分もかからず、オークの群れは壊滅した。
剣を専門としてる僕では出来ない、絶対的な混乱を与える奇襲。
自分達がオークの立場だったらと思い、僕はぞっとした。
きっと、満足な反応は出来ないだろう。

それから数日かけて、僕達は広い遺跡を探索した。
時折オークの群れを見掛けたり、罠にかかって呼び出したりもしたけど、おおむね順調にことは進んだ。
オークリーダーは、遺跡の奥の広くは無い部屋(元は領主か王の寝室だったんだろう)に寝ていた。
汚れたベッドの周りには、牛や馬の骨が散らばっている。
近くの村の家畜を奪っていたのはこいつらだと確信した僕達は、躊躇い無く剣を抜いて戦闘を開始した。

良い気分で寝ていたオークリーダーは、慌てて下っ端オークを呼ぶも、
来た下っ端たちは、僕達を見て及び腰になっていた。
ラストールドが、背中を見せた下っ端を切り倒してから笑った。 刺さりっぱなしの汚い矢を引き抜いて僕に放る。
…なるほど、この下っ端達は、僕たちが数日前、一番最初に追い払ったオークの残党だ。
矢羽の模様がRNAの物と同じなのを確認して、僕は納得した。

敗色濃厚になったオーク達は、反応が二極化した。 逃げる者と、死ぬまで戦う者。
…僕は笑ってしまった。
リーダーが、下っ端オークを盾にして逃げ出したのだ。
僕の傍で戦っていたユーネリアに声を投げ、僕はリーダーを追った。
僕達が通ってきた道を、必死で逃げるオークリーダーの後姿を見て、歯噛みする。
僕はオークが嫌いだ。 でも、残った下っ端達は、こんな情けないリーダーを生かそうと、戦っている。
生かしては、いけない。

…その時の僕は、確かに戦闘を楽しんでいた。

鍵のかかっていた扉の部屋まで来て、他の下っ端と合流したリーダーが、振り返る。
僕とユーネリアの二人だけと見れば、赤黒い顔に嫌な笑みを浮かべて逆襲してきた。
舌打ちをしたのは、僕だったか。 ユーネリアと視線を交わし、動きをあわせる。
狙うのはオークリーダー。 下っ端の攻撃は最小限の動きで避ける。
棍棒をかいくぐり、先にリーダーに襲い掛かった僕は、走る勢いに乗せてクレイモアを振り下ろした。
しかし、疲労と苛立ちで強張った剣は、空を切る。
僕を見てオークリーダーが笑った。 …いや、オークの表情は判らないけど。
オークリーダーが棍棒を振り上げ、大剣を振るった僕の、隙だらけの背中に振り下ろそうとするのが見えた。
ユーネリアが下っ端を振り払い、援護しようとするが、遅い。
殴られる!

『少し力みすぎですよ! 肩の力を抜いて、剣の流れに逆らわず…独楽のように無駄の無い動きで…』

ハンニバルさんの声が耳の奥で聞こえた。
その瞬間、身体が振り回される位重かった筈のクレイモアが軽くなる。
目の前に光が閃いた。 身体を反転させて、剣を握る手を返す。
地面に突き刺さる直前の切っ先が燕のように跳ね上がり、
オークリーダーの振り下ろした棍棒を、真っ二つに両断した!

何が起こったかわからないオークが、短くなった自分の棍棒を見た隙。
それは、ユーネリアの剣がオークの首を刎ねるには、十分な時間だった。

冒険は成功。
冒険を始めて半年間の間の、あの悪夢からすると、あっけないほどに。
僕はきっと、強くなっている。

《燕返しを習得した。》

  • シーさん:商人の方。 柔和な笑顔が少し怖いのは何でだろう?
    僕を見て聖騎士だ!と驚いてらした。 その驚きに応えられるように頑張らないと。
  • 穂波:東の国の墓守さん。 キモノという服を着てる。
    騎士や武家という出自に憧れてるみたい。 冒険者になったなら、自分が何を成すかだと思う。

黄金暦88年11月 Edit

◎◎◎◎○ 1,100G ゴブリン退治 … 成功
今回は、相手も判っている信用できる依頼だった。
しかし、ウーズやゴブリンロード等の魔物が出ないとも限らない。
…先月ホタルさんにいただいた指輪を指にはめ、僕はバンダナを締めなおした。

…数日探索しただろうか。 その間に見つけたのは、普通の野生の動物ばかり。
静けさが逆に不安を掻き立てる。 こんなに平穏な探索で終わるはずはない、と胸がざわつく。
そんな僕を見て、同行の仲間が心配性だといって笑っていた。
僕は苦笑するばかりで何も言えなかった。

結局、そのまま洞窟の最深奥まで最短でたどり着き、
心身ともに充実していた僕達は、あっという間にゴブリンを討伐し終えてしまった。

…特に気にした様子も無く岐路に着く皆の後ろで僕は、首を傾げてばかりいた。
…こんな冒険も、あるんだ…。 と。
良い事だとは思う、嬉しくもある。 だが、少し拍子抜けしたのは事実だ。
バクフさんとハンニバルさんの両師(…敬意を込めて勝手にそう書かせて貰おう。誰かに見せる日記でもなし)
…に、気の緩みを叩きなおしてもらおうと思う。
ウニョールさんにも、手合わせを了承して貰ったので、
依頼が簡単だった分、気を引き締めて過ごそう


  • アルフィさん:元剣士で、今は引退して酒場のバニーさん。
    面倒見が良く、色んな人から頼りにされているみたいです。 …でも、バニーはちょっと目のやり場に…
  • ウニョールさん:小柄な猫獣人の剣士さん。 僕の腰くらいの大きさだけど、凄く強い。
    色んな人に師匠と呼ばれている冒険者さんで、言葉も重く、そして優しい。 種芋をいただいた。
  • クリセス?:盲目の占い師の女の子。 盲目だけど、嗅覚が鋭いらしい。
    初めての後輩…なのかな? 目が見えないのに駆け回ったりしてるけど、転ばないかな? 少し心配。
  • シーニャ?:探索と討伐の両方を経験してる剣士の子。
    大人しい子で、影がある。 時々手合わせをしてる。 最近笑顔が見られるようになって安心。

黄金暦88年10月 Edit

◎◎◎○○ 1,000G 人型討伐依頼 … 成功
生きている。

皆。

生きてくれている。

(走り書きの日記。 端に涙の染み。)
(階下の酒場で、祝杯をあげる声と、少年の笑い声。)


  • ホタルさん:探索専門の占い師さん。 小説家でもあるらしい。 指輪をいただく。
    落ち込んでる僕を元気付けに誘ってくれた。 探索・占いの専門家だけあって、勘が鋭そう。
  • アイロニスさん?:墓守の探索者さん。 スコップと魔法を使い分ける。
    ご友人を見殺しにした僕を責めなかった。 それどころか励ましてくれた、優しい方。
  • シュンさん?:亡くなった妹さんのような方を見たくない、と剣を取り立ち戻った方。
    物静かな方だけど、大切な人を失った過去が、少ない言葉に重みを持たせている。 心まで強い人。
    …ほ、他に書く事はありませんよ。 ありませんったら!

黄金暦88年9月 Edit

◎○○○○ 1,000G 怪物討伐依頼 … 敗走
今回も、僕はこうしてペンを握っている。
でも、まだ、あの腐った肉を切り裂いた、ぐじゃりとした柔らかい不快感が残っている。
…それに慣れ始めている自分に、僕は愕然とした。

今回の探索場所である古い寺院町に向かう途中の夜営で、何かが僕を呼ぶ声が聞こえた。 皆が寝静まったころ、僕は一人で一つ丘を登った。
月明かり清かな夜、陸の麓に広がる暗く、よどんだ影が広がっている。 もう、目的地まですぐだった。

過去の聖域は、現在の魔窟と化していた。 吐き気がするほどの瘴気が、丘の上まで漂っている。
腹の奥からこみ上げる物を感じて、慌てて口を押さえた。
しかし、堪え切れず僕はそこで暫く嘔吐を繰り返した。
怖かった訳じゃない。 ただ、僕には判ってしまったから。

あそこには死せる者達が蠢いている。
…僕を呼んだのは、その者達なのだと。
『よくよく、死者に縁がある。』
そう思って思わず僕は一人、笑った。
そして、笑った自分に気付いて僕はまた、吐いた。


夏の盛りを過ぎた遺跡には、不思議な程冷たい空気が澱んでいた。
遺跡の中心にある大寺院までは敵は出てこなかった。
しかし、入り口に入った瞬間、空気が変わる。
それを理解するよりも先に、僕は駆け出していた。 自分を呼ぶ声に足を任せて。

寺院の最初の部屋。 其処にやはり、蠢く物が居た。
一撃。 それだけで、背を向けていたグールの肩口から脇腹までを、両断する。
仲間が追いつく頃には、僕の周りに腐った肉が散らばっていた。
残ったグールを皆が壊している間、僕はその様子をぼんやりと眺めてるだけで良かった。
…耳鳴りがする。
皆がグール達を全滅させる前に、僕は歩き出していた。
批難するような視線と、何かを呟き合う声が聞こえたけど、気にならなかった。
遺跡の奥から、呼ぶ声がする。
その声に誘われるまま、僕は歩き続けた。

途中、グールの群れと、それを喰らいに来た狼の群れに遭遇した。
いくらか怪我を負ったけど、僕は進んだ。
2度、毒の瘴気が満ちた部屋を通り過ぎた。
2度目のガスを吸った際、同行したグラフとウィルが倒れた。
退却しようとの提案も出たけど、僕は殆どその声を聞いていなかった。
近い。 もうすぐ、グールの長が居る。
僕はそう言って立ち上がった。
…聖騎士が、生者よりも死者の声に耳を傾けるなんて、
養父が知ったらなんと言うだろう。
今これを書きながら、呆れで笑いが止まらない。

(此処で一度、ペン先が潰れた様にインクが飛び散って、羊皮紙に穴が空いている)

瘴気で弱っていたグラフ、ウィルの両名は、討ち死にした。
それに気を取られた瞬間、グールリーダーに向かっていた僕は、
真横から襲ってきたゾンビの牙を肩に受け、剣を取り落としそうになった。
誰かが退却を叫び、生き残った皆が目の前の死者を切り伏せ、駆け出す。
僕は動けなかった。 いや、動かなかったんだと思う。
目の前のグールリーダーが、表情の無い顔で哂い、僕を呼んでいるように思えた。
僕は、クレイモアを握りなおして、グールリーダーに向かって駆け出そうとした。

そこで、記憶が暗転する。

気付いた時には、僕は酒場の二階の、自分の部屋に居た。
どうやら、逃げようとしない僕の後頭部を仲間の誰かが殴り気絶させたらしい。
そのまま2日間目を覚まさなかったらしい。
起き上がった僕の肩に鈍い痛みが走る。 其処に手をやったら、薬草の感触。
同室の冒険者に尋ねてみると、天使が薬草を張り、治療していたという答え。
…アミエルだ。
それに気付いた瞬間、僕は生きて帰った安心感でまた気を失った。



僕は生きている。 …生き延びてしまっている。 9人の命の上に。
ずっと、耳の奥に仲間の断末魔の声が響いている。
僕は、死ねない。
この声が、聞こえなくなるまでは。



  • イトゥン:探索専門の冒険者。 白い髪と澄んだ赤い目が綺麗な子。
    愚痴を聞いてもらって、一緒にお酒を呑んだ。 いつかお礼をしたい。

黄金暦88年8月 Edit

◎◎◎◎○ 800G 狼討伐依頼 … 成功
最近自棄に気が荒くなっている狼を討伐して欲しいと言う依頼を受け、僕達は北東に向かった。
まず見つけたのは狼の群れ。 確かに、異常な頭数の狼が群れていた。
僕達は先手を打ち、群れの中へと飛び込んで、狼達が混乱してるうちに群れを追い払った。
…おかしい、いくら驚いていたからといっても、手ごたえが無さ過ぎた。
僕達はそこで気付くべきだった。
倒した狼達が全部、何かに溶かされた様な傷を負っていたことに。

…そこからは、地獄だった。
先月のウーズと同じように、頭上からにじみ出るように落ちてきたのは、
鬼の名を冠するスライム、オーガーゼリー。
先月の悪夢を思い出し、僕は頭が真っ白になって、叫びながら切りかかっていた。
気付けば、固形だったゼリーはグジャグジャの液体になって散らばっていて、
同行してた皆が、僕を遠巻きに眺めていた。
その後、2回連続でオーガーゼリーと交戦。
戦闘の度に冷静を取り戻していた僕は気付いた。
倒したゼリーの中に、狼の肉や牙、骨がちらほら見られた。

…狼達は、必死で侵略者と戦ってたのかもしれない。

洞窟の奥には、今まで倒した狼よりもふた回り大きい狼が寝ていた。
その身体は傷だらけで、まだ治りきっていない、生々しいものだった。
アウルとイディアはそれを見て好機だと思ったのだろう。 止める間も無く飛び込んでいった。
…その瞬間、物陰に隠れていた下っ端狼達に飛び掛られ、地面に押し倒されていた。
不意を討たれた僕達は、それでも何とか剣を振るい戦闘を始めた。
手負いのリーダー狼の咆哮に反応して、機敏に飛び掛る狼達を切り伏せて、
僕達はだんだんと狼を追い詰めていった。
でも、こちらは連戦の疲れがあった。
そして、あっちは手負いでも、住処を、仲間を守ると言う目的があった。

…死に物狂いで振るった僕のクレイモアがリーダー狼の首を刎ねた時には、
最初に狼達に群がられていたアウルとイディアは、もう、顔も判らない物に成り果てていた。
…冒険は、成功。
でも、僕はまた、負けてしまった。

町に戻り、生き残った皆と別れてから僕は、またその洞窟に戻った。
…リーダー狼とその手下の狼、ゼリーに溶かされた狼達の牙を纏め、
リーダー狼が寝ていた広場に埋めてきた。

冒険って
何を持って成功と言うのだろう?

  • ハンニバルさん?:陛下の近衛騎士のお兄さん。 黒い甲冑の人。
    技や型を教えてもらってる。 紳士で、強い。 僕のお師匠様。
  • アミエル:地上の天使。 そして、僕の大切な人。 バンダナを渡す。
    最後に泣かせてしまったけど、必ず、またその笑顔に会う。 その為に、生きて帰ろう。

黄金暦88年7月 Edit

◎○○○○ 1,300G 怪物討伐依頼 … 惨敗
前回、余りにも無様な負けを喫してしまった。
…それに拘った僕が悪かったんだと思う。

渋るマスターに頼んで、僕は前回と同じ不確定要素しかない依頼を受けさせて貰った。
クロフ、アリアのお墓に花を供えに行って、そのまま冒険の仲間の所に行った。
この依頼を成功させて、そしてやっと、僕は冒険者として一歩を踏み出せるんじゃないか。
そんな勝手な思い込みを抱いていた。

それは、森に入ってすぐに現れた。
深い茂み、生い茂った枝葉を押しのけながらの探索。
僕達は一列になって、離れないように注意深く進んでいたけど、
目の前の仲間の姿も、はっぱに隠れて見えないくらいの密林だった。
突然、先頭に立っていたケティが、変な声を上げた。
レッツゴーがその背中にぶつかったらしく、文句を言ってる声が聞こえた。
魔物を呼び寄せるから…と、慌てて世話焼きのパティが僕を追い越して前に進み出た。
…そして、急に言い合う二人の声が止まって、
パティの悲鳴が響いた。

剣を抜いて僕とシェリルが前に駆け出した。 ミルカは斧を構えて後方を警戒してくれていた。
…僕達が見たのは、密林の枝の上からカーテンのように垂れ下がっている半透明の液体と、
それに包まれ、既にもがく事も出来なくなっているケティとレッツゴーの姿。
そして、ぐねぐねと動くそれに足を取られて、半狂乱で暴れているパティの姿だった。

それは最悪な光景だった。 思い出したくも無い。 でも、目に焼きついて離れない。
『スライムなんて絵本の中の弱い化け物だと思われがちだけど、そうじゃない』
そう養父が言っていたのを思い出す。
『奴らはただじっと、木の上から薄く広がってぶら下がり、哀れな獲物がかかるのを待ち』
『捕まえた獲物を、じっくりと、時間をかけて溶かして食う。 最低最悪の化け物だ』
取り込まれた2人の周りの液体が、赤くにごり始めていた。 ああ、もう助からない。
僕達は、とにかくパティだけでも助けようと剣を振るい、戦いを挑んだ。
…でも、僕達の力では、何も、出来なかった。
悲鳴を上げるパティが取り込まれるのを見過ごすばかりの時間。

そして、僕達は逃げ出した。
仲間を見殺しにして。

何で、僕はこんなに弱いんだろう。

  • 陛下:アバロン国皇帝陛下。 技を編み出す才人。
    僕よりもお若いのに、国王として戦っていらっしゃる方。 軍門の末席に加えていただいた!

黄金暦88年6月 Edit

◎○○○○ 1,200G 怪物討伐依頼 … 惨敗。
初心者のメンバーが挑んだ洞窟には、信じられないものが居た。
生ける屍。 しかも、ただ蠢く物じゃない。 …生きてる者を殺し、喰らい、増える、『食屍鬼グール』
聖職者であり騎士であった養父が、最も忌み嫌い、哀れんでいた化け物だった。
背後から嫌な匂いとともに襲いかかって来たそいつらを、僕達は何とか退けた。
しかし、その匂いに釣られてきたのか、狼の群れと連続で戦闘。 被害が増える。
そして、グールが居る所には、感染源が居ると養父は言っていた。
…洞窟の奥に居たのは、腐った身体であるのに、僕達よりも頭二つも大きいグールリーダー。
敵わないと思い、僕達は直ぐに来た道を駆け戻った。 殿は僕と後2人。
…追って来るゾンビ達は、僕達なんかより、ずっと強く、強暴だった。
僕の腕を握り壊したあの力。 防御してもなお、崩れ落ちてしまいそうな攻撃の連続。

僕は街の近くの丘で気を失って倒れていたらしい。
…僕と肩を並べて戦っていたクロフ、アリアの2人の姿は、どこにも無かった。

             護り切れなかった。
                             悔しい。
(滲んで歪んだ、強い筆跡の文字。)


  • ラセット:同い年の先輩冒険者。 脚が好き。 手袋を渡した。
    穏やかで温かい人。 初めての同世代の友人で、何にも変えがたい、僕の親友。
  • バクフさん? :酒場の英雄候補。 酒場の中でも有名な戦士さん。
    師匠、と勝手に心の中で呼んでる。 でもまだ一撃も当てられてない…! いつか、きっと!

黄金暦88年5月 Edit

初めての冒険 ◎◎◎◎◎ … 成功。
騎士団の皆とじゃない、一人の冒険者としての初めての冒険。
まずは腕試し、とマスターが依頼をくれた。 ドキドキする。
…早く強くなって、親父の敵を討とう。 その為には、危険な依頼でも立ち向かわないと!
あと、変な失敗をして、先輩方からからかわれました…。 うう

  • カイムさん?:無口で、格好良くって、優しい、僕の兄。 マントを渡す。
    一番最初に名前を交わした冒険者さんで、そして、一番最後まで一緒に居た人。


鬼籍 Edit

  • クルクル:面白い武器を持った衛兵さん。 ドリルと言う槍を持っていた。
    僕と似たような境遇だった。 …マント、差し上げます。 お休みなさい…。
  • エドガルドさん?:凄い魔力を秘めた、占い師さん。 エルフ冒険者の大先輩だった。
    理知的で、優しくて、明るくて、本当に、僕の憧れでした。 …いや、憧れです。
    …そっち行ったら、お酒の呑み方、教えてください。 お休みなさい。

Last-modified: 2008-05-30 Fri 22:39:23 JST (5810d)