名簿/496900
ここはジーニがイベント用に作ったページです。双鏡はふたつかがみと読むんだ(大事)
- お話目次 -
下から順にお読みなさる。
+  http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif 相談欄   


6.ひとというもの Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp026028.jpg 

  • (男は、堂々とそう語った)
    (誰の言葉でもない。自分の言葉と)
    (誰の物でもない。自分の欲望に従った言葉)

    く……くくく、ははは
    はははははははは!

    (漏れる嗤声は哄笑ではなく……嘲笑)
    なんて勝手な奴だ
    あくまで自分のためか、『ユーリ』
    あくまで自分の笑顔の為に他者を欲するか『ユーリ』
    誰かの為ではなく、自らの欲望の為に其れを成すと嘯くか『ユーリ』

    見下げ果てた男だ

    (決別の声と共に鎌を振り切れば)
    (鎌はユーリの喉首を『摺り抜け』)
    (そのまま闇へと溶けて、霧散し消える)

    故に……信用できる
    (魔王は『人』に倒される定めで在るが故に)

    (魔王の体が崩れ落ちる)
    (水音は無数。身に纏った外套が切り裂かれ、白骨の篭手が砕け散り、稲妻によって裂断された白骨の胸甲が崩れ落ち)
    (真っ赤な血華が、魔王の胸から咲き乱れる)

    そうだ、其れでいい……他者の為でなどなくていい
    誰かの笑顔のため、誰かの幸せのため……そんなものは奇麗事だ
    くだらない御為倒しだ
    だが、その誰かの笑顔が……誰かの幸せこそが己の望むドス黒い欲望と繋がっていると断言できるのなら
    即ちそれは情欲であり色欲だ。人が決して捨ててはならない……醜くも美しい感情だ
    くくく……流石は……ジーニが選んだ男
    そこまで分かっているのならば、最早何も云うまい

    (最後に落ちるのは髑髏を象った白骨面)
    (真っ二つに割れた其れが水面に沈めば……現れたのは……)

    ……今回余は……いいや……
    は、御役御免ってこったな

     http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025974.jpg 


    (見慣れたようで見慣れない、とある男の無邪気な笑顔)
    (矛盾の魔王は不死不滅)
    (遍在し、偏在する矛盾の魔王)
    (代価と引き換えに……願いを与える魔族の王)
    (願いの相貌を持つ彼の魔王は、ただ笑う)
    本当の願いが叶うなら、偽者の願いはいらねぇわな
    (晴れやかな笑みを浮かべて、魔王と呼ばれた一つの歪な願いは……一人の少年は、徐々に霧となって無窮の深淵へと還っていく)
    幾ら袖にされても気にしねぇよなんて大口叩いたけど、これ以上は流石に無粋ってもんだからな
    まぁなんだ
    どっからが俺の欲望で、どっからがジーニの奴が闇に願った都合がいい『ユーリ』だったのか……もう知りようがねぇけどさ
    何にせよ、俺みたいな矛盾の魔王が生まれちまったってこたぁ、その程度にはそいつはお前にぞっこんてことなんだわ
    (軽くいって見せてから、歪んだ鏡面は少しだけ寂しそうに微笑む)
    (いつかのユーリのような、作り物の笑顔)
    (それでもきっと、ユーリのそれよりは下手糞なのだろう)
    (最後には泣くとも笑うともつかない表情になって、声色だけで笑っていた)
    まぁ、なんだ、その……大事にしてやってくれよな?
    (さすれば、少年の体は闇へと溶けて、消えていく)
    (たおやかに晴れていく朝霧のように、ゆっくりと)
    闇は常に傍らにある
    俺は何時でもお前達をお前達の内側から覗いている
    せいぜいもう覗き返されないようにしてくれや、もう子守りは真っ平御免なんでな
    んじゃあ……後は任せたぜ、『ユーリ』さんよ

    (最後に残った声だけで、そう別れを告げて……矛盾の深淵へと還っていった) -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 15:18:13
  • (嘲笑の末。首元を鎌の残影が通り過ぎたと同時、ふらり、と身が傾く。)
    (傷の残らぬその場所に、確かに何かを刈り取られたように。)
    (そしてそのまま少年の身は、水面へと倒れこんだ。)
    (浅い海。ごろり、と身を倒して上を向く。漆黒の天。血色の太陽。)
    (身を包む海水は冷たく、世界は唯広く伽藍堂。)
    (そんな、変わらず汚らしい己の内側に、見えるものがあった。)
    (崩れ逝く王。身を覆う装飾品が、がらりがらりと崩れて落ちる。)
    (最期。露わに為ったものを見て。少年は口元を歪めた。)

    はは、は。

    (思わず笑う少年。笑う逆しまの自分。)
    (上下逆さの光景も。己と逆の色彩も。)
    (魔王)魔王()も笑っている。)
    (晴れやかな笑顔。自分もあのように笑えるだろうか。)

    なんだよ。どっからが、とか、俺の癖に女子に責任かぶせるとか、やめろよな。
    いつだって悪いのは俺なんだよ。そういう方が、いい。

    (消えようとする己へと、少しばかり拗ねたように口を尖らせて言う。)
    (羨ましいのだろうか。人に望まれて、世に生れ出た、もう一人の己が。)

    ぞっこんだっていうのは、うん、まぁ、うん。嬉しかったよ。嬉しかった。
    ……大事に、したかった。けれど。どうだろうな。

    (鏡に映した像のよう。少年も、少しばかり寂しげに笑う。)
    (眼前の己が望むことを、果たせないのではないかと。)
    (偽りの己を。化物の演じた人間を、好きになってくれた少女の思いは、失われるのではないかと。)
    (そう頭の片隅に思えばこその、混ざり物の笑顔。)

    なんだよ。俺なんだろ。泣いたりなんて、しないでくれよ。

    (ジーニの望んだユルールミルは、確かに本物に似ていたようで。)
    (少年は似たような表情で。消えて逝く己を、水面から見上げる。)
    (何時の間にだろうか。気づけば、鏡像は消えていて。)

    ……知ってるよ。知ってる。皆がお前を知ってるんだ。
    お前がいつでも俺たちの隣にいるってことは。
    …子守、って。本人が聞いたらずいぶん怒るぞ。噛みつかれそうだ。

    (声だけが聞こえる。聞き覚えのある、聞き覚えのない声だけが。)
    (少年は目を閉じて、身を起こした。)
    (髪を滴る水に混ざり合うように。髪の黒は抜けて、気づけば何時も通りの白栗色の。)
    (眼を開けば、見えた瞳は黒く。今失われたばかりの"ユーリ"と同じ色の。)
    (少年は天を仰ぐ。闇の還る先があるのであれば、それは。)

    ひっでえなぁ。全部俺に任せるのかよ。
    でも、そういうところも、俺らしいんだろうな。
    ……そんじゃあな、『ユーリ』。どうか元気で。





    (別れを告げたと同時。遠くから聞こえる音。)
    (ざ、ざ、ざ、と。それは轟音。総てを飲み込む怪物の。)
    よっこいせ。
    (掛け声ひとつ。少年は立ち上がった。気づけば失った筈の左手は其処に。)
    (感触を確かめるように、開いたり閉じたりしながら向かう先は。)
    なぁ、ジーニ。聞こえてるか?
    (水面へと横たわる、()の少女の元。)
    (そんな少年の背後。現実感のない壁が見える。)
    (この世界総てを覆い尽くすような。それは、巨大な。)
    全部見てたのかな。もしもそうなら、あぁ、ごめんな。
    (高波が訪れる。最も原始的な暴力の一つが粛々と。)
    気持ち悪いもの見せただろ。俺を嫌いになったかな。
    (気付けば消えていた、闇の眷属とその水鏡。世界にはもう二人だけ。)
    もし、俺の笑顔がお前の幸せでなくなったのなら。
    (少年は、少女の元まで辿り着けば、そっとしゃがみ込んで。)
    俺こそが魔王だったんだろうか。
    (ユーリがジーニの手を取ったのと、同時。)
    (巨大な波が虚ろな世界を覆い尽くした。)





    (落第街。破壊された町並みの中、かつて少女の店があった場所。)
    (気付けばジーニの体はそこに。時は夜。とうの昔に夕は過ぎて。)
    (その闇の中。少年は佇んで、少女の姿を見下ろしている。) -- ユーリ 2013-05-27 (月) 21:38:19

  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

    ……かつて、この地で戦いがありました。

    どんな願いでも叶えてくれる神様の杯を出現させるための戦い。
    戦いに選ばれる人はほんの一握り。
    強い願いがある魔法使い達。強い願いのある死した英雄達。

    どうしても譲れない願いが皆にありました。

    選ばれた者の中に、赤い瞳の少女がいました。
    一国を自由に出来るほどの権力を持つ家の当主という女の子。

    大きな国で当主として家の名前を背負い、国を背負い、
    必死に頑張ってきたその女の子はひとりぼっちでした。

    女の子はひとりは嫌だった。大好きな人たちにそばにいて欲しかった。
    でも、その人たちはもう死んでいて、どんなに手を延ばしても届かない。

    壊れそうな女の子は国を抜け出し、暗がりに助けを求めます。
    愛した人たちを取り戻したい…そのためには聖杯が欲しい。
    暗がりから召喚された矛盾の魔王はその願いのために一人の少年を遣わしました。
    女の子の望みのままの姿、心をもつ少年を。

    戦いの末、女の子は愛した人たちよりも、そのすべてが偽者の少年を選びました。
    女の子は少年と結ばれ、その身に子供を宿し、同時に魔王の力の欠片も宿したのです。



    その魔王の力の欠片は彼女の体から取り出され、永く保管され続けてきました。

    そして、逃げてしまった女の子の代わりに造られた、妹の体に埋め込まれる事になったのです。
    当主に相応しい魔力を持つために、姉と同じように造られた……赤い瞳の女の子。

    ジーニが初対面のユーリのことが気になったのは
    女の子の記憶がその欠片に残っていたのかもしれません。

    戦いの中で一人、女の子が慕った子がいました。
    綺麗で、優しくて、あたたかくて……そしてかわいそうな作り物の女の子。
    彼女が愛した黒い死神。

    その記憶が残っていたから、沢山いる人間の中で彼に目を留めた。



    ……この戦いはきっと、ずっと昔から決まっていた。




    http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 

    「でもね」
    「ユーリを好きになったのは、ジーニの意思だよ?」
    「スー、あの黒いおっかないの嫌いだもの」
    「それに、ユーリはユーリだわ。スーとジーニが違うように」



    (くすくす。誰かの笑い声)

    「さあ目を覚まして!ユーリの声、聞こえているでしょう?」
    「偽者よりも本物を選んだ、かわいい妹」

    「どうか幸せに」

    「私達のようになっては駄目よ」




    (そして……翠の少女は瞳を開く………………) -- 2013-05-28 (火) 04:17:21

  • http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

    「うん、全部聞こえているよ」

    「私達が望んだユーリの声も」
    「私達が愛するユーリの声も」
    「全部」

    「…私達の知らない女の子の狂喜の声は、少しだけ」

    一瞬だけ見えたとても大きな樹、あれは何かしら。
    この恐ろしい世界の中に現れた、命の樹。
    風に揺れる緑の葉っぱ。
    ジーニの髪より深い緑。
    咲き誇るのは色鮮やかな花。
    花は故郷の青い花に似てる……ジーニの大好きな花なのよ。

    なんて綺麗なのかしら。
    きっとあれはユーリだわ。
    …ううん、あれ「も」ユーリなんだわ。

    「この怖い世界も、あの美しい樹も、ユーリ」

    「ねえ姉様。それに気づいた時、私とても嬉しかったの」
    「どうしてだか、わかる?」

    「恐ろしいものも、美しいものも、その身に一緒に存在するのが……」

    「人間、だから」

    「きっと、ユーリはもう、望んだものになっているのよ」


    http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 




    (気がつけば、ユーリがそばで手を握っていてくれて)
    (見上げる空は満点の星)
    (…魔王召喚の余波で、落第街の一部を破壊してしまったせいだ)
    (ネオンがないから、星が良く見える)
    (月明かりで、ユーリの顔がよく見える)
    (もう黒い髪じゃない。瞳もはしばみの色じゃない)
    (ジーニの大好きな黒い瞳がそこにあった)

     ……ユーリ。
    (やっと出せた声はかすれてて、情けない)
    (体に力が入らないから、笑顔もぎこちない)

     聞こえて、いたよ?貴方の言葉、貴方の想い。
    (深呼吸すると、少しずつ、体に力がもどってくる)
    (冷たくなった手と体。ユーリの触れている所だけが、あったかい)

     ……ごめんね
     ジーニはどちらのユーリも傷つけた。

     あの魔王は私の望んだユーリ。
     ジーニは何でもユーリが良かったの。
     好きも、嫌いも、なにもかも。
     全てを奪われる事さえも、ユーリが良かった。
     だから魔王はユーリの姿だった……。

     ジーニを助けようとしなければ、貴方は人の姿のまま幸せに過ごせてた。
     …それがごっこ遊びだったとしても。

     どうしてかしら、大好きだから、誰よりも一番優しくしたいのに
     貴方の笑顔が好きなのに。困らせてばかりいて。
     とうとう泣かせてしまった……ひどい女ね?

    (ゆっくりと、体を起こして)
    (星空の下、少年を抱きしめる)
    (抱きしめて欲しかったから)
    (でも、ユーリは抱きしめることすらなかなか出来ないの、知ってるから)
    (だから、自分から抱きしめるの)

     ……ふふふ、でも嬉しいの。
     ずっと、貴方の事が知りたかった。なんでも全部知りたかったから。
     また一つ、ユーリを知ることができて、嬉しい。

     それに、それにね、
     貴方に必要だって言われてとても幸せなの。
     全部あげる。貴方のためならなんだってあげる。
     貴方の望むものなら、なんだって。

     助けてくれて、ありがとう。
     全てを賭けてくれて、ありがとう。
     私達を必要だって言ってくれて…ありがとう。

    (抱きしめて、瞳を閉じて、囁く)
    (やさしい夜の闇の瞳を見上げる幸せな少女)
    (その瞳は片方だけ、金色に染まっていた)

     ……ねえ、ユーリ。
     魔王に取り込まれた時、ずっとずっと伝えたかった事があるの。

     ジーニはね、髪飾りをもらった時に言ったでしょう?

    「どんな貴方でも、好きよ。」って。

     貴方がね、
     天使でも
     悪魔でも
     王子でも
     乞食でも

     神様でも、魔王でも
     人の子でも、人の子でなくても
     
     ……ユーリが好き。

     嫌われるかもとか、心配する事なんてないんだから!

     貴方が笑顔でいたいなら、ジーニがずっと笑顔でいさせてあげる。
     それは私達の幸せでもあるのだから。

    (少女が見せるのは、笑顔。満天の星空に負けないくらい、輝いた)
    (それはいつかの夏の日の終わりに見せた笑顔と同じ)
    (ううん、もっともっと、幸せな)

    (恋を知った)(愛を知った)(ひとつ大人になった、少女の笑顔)


    (紅と金、ふたつの色の瞳は細く、愛しげに)
    (冷たい手が白栗色の髪をよけながら、少年の頬に触れて)
    (砂漠に咲く薔薇のような、紅い唇から)
    (御伽噺の一つの幕の、終わりを紡ぐ)



    http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025997.jpg

     だからまた続けましょう?幸せな日常を。
     一緒に人のふりをして、ずっと笑顔でいよう、ユーリ。




    -- ジーニ 2013-05-28 (火) 07:31:30

5.双鏡の望むこと Edit

  • (動かない体。瞳は同じほうしか見れなくて)
    (お人形はいつもこんな思いしてるんだろうか。伝えられないのは苦しいな)

    (矛盾の魔王とユーリは何かつながりがあるみたいだった)
    (聖杯……その言葉で思い出すのは自分より前に造られた当主候補の姉)


    (……ジーニが生まれるずっとずっと前から、この戦いは決まっていたの?)



    http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079876.gif 

         (少年は戦う。魔王から少女を救うために)
         (物語の挿絵で見た戦いのよう)
         (悪い魔王から、お姫様を救ってくれる騎士の物語)
         (ママが読んでくれた絵本)
         (子供の頃憧れた物語。こんな物語のお姫様になりたいって思ってた)
         (運命の出会いを果たした憧れの騎士に助けてもらって、結ばれるの)

    http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079861.gif 



    (でも、現実は違う)
    (騎士は必ず勝てるとは限らない)
    (お姫様はどんなに騎士の無事を思って泣いただろう)
    (傷つく騎士のために何も出来ない自分)
    (もう逃げてくれてもいいのに、自分なんて死んだってかまわないのに)
    (貴方さえ生きていてくれたらもう、それでいいのに)

     ジーニが魔王にさらわれて、ユーリ戦うのが運命なら。
     ユーリを傷つける運命なんて、いらない…!!!

    (……泣き叫びたいのに、届かない)

    (身を削るようにして戦うあの人を、止めたいのに)
    (少年の戦いは騎士と言うにはまっすぐすぎる。物語の騎士の優雅さなんてそこにはなかった)

    (……でも、ジーニにはどんな物語の騎士よりもかっこよく見えた)
    (ジーニはお姫様じゃない。助けたって何の特にもならないの)
    (だけどユーリは、剣を取って、恐ろしい魔王の前に立った)
    (傷つく彼を見て苦しいのに、誇らしい気持ちと、幸せな気持ちで胸が満たされる)

    (……虚ろに見開いたままの瞳から涙がこぼれた)

     ……ユーリ、大好き。
     ……やっぱりジーニは貴方が好き。
     貴方のためなら何でも出来るわ。

     ユーリを助けたい……どうしたらいいの…?

    「……ジーニ、ひとつだけ、私たちに出来る事があるわ」
    (スニェグーラチカの声がする)
    「……もうひとつ、体に残っている魔法があるの」
    「ママがかけた魔法。魔王の召喚の他に、もうひとつ」

    「召喚した魔王をジーニの体に閉じ込める魔法」
    「きっとママは魔王の力すべてを手に入れようと思ったんだわ」
    「ユーリと見つけた魔王を抑える魔法のおかげか、その魔法はまだ動いていないの」
    「でも、ジーニが使おうと思えば、使える」


     使うわ!
    「自分の体に魔王を封じ込めたら、今度こそ意識を食われてしまうかも」
     そんなの
    「かまわないよね」
     だって
    「私たちは」
     ユーリが好き。
    「ユーリのためなら、なんだって出来る」

    http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp026016.jpg


    あの人が今、してくれているように………!!


    (少女の涙が流れ落ち、魔王の足元、遠浅の海に小さな小さな波紋を作った)
    (そこから白く輝く魔法陣が現れる。魔王召喚の時と違う、美しい魔法陣)
    (魔王のまわりを取り囲み、大きな白いリングのように変化すると、)
    ジーニごと閉じ込めようと収縮する……………………………………!
    -- ジーニ 2013-05-26 (日) 08:35:47
  • (いよいよその心臓を握り潰す幻覚を見せ、悶死に至らせようと力を込めた其の時……)
    何……?
    (表情がないはずの魔王の相貌に陰りが見える)
    (何故なら……足元から照らされた魔法陣の光がその相貌を照らしたが為に)
    (この場に現れるはずがない極光……その正体は、正しく……)
    鬼の封印方陣……自らの娘に仕込んでいたのか
    (彼の悪名高いミハイロフ謹製の禁術方陣)
    (魔王すらその手中に納めんとする欲望の顕現)
    (毒を持って毒を制す……そう言えば聞こえも佳いが、これはそんな生易しいものではない)
    (邪悪を更なる邪悪で塗り潰すような、狂気の発想)

    (巨獣の顎の如く魔法陣が展開され、魔法を取り囲んだ次の刹那)
    (無数の光鎖が魔王の体に絡みつく)
    ミハイロフめ、黒竜の庇護だけでは飽き足りんか……
    (出鱈目に全身に巻きついた光鎖は魔王の魔力を吸い取り、其の腕の先で繰る幻術の行使も中断させ、左腕に抱く少女の体も取り落とさせる)
    (しかし、所詮は魔王と同じ魔性の技)

    小賢しい

    (魔王の一喝と共に、戒めは解かれる)
    (光鎖は霧散し、羽蟲の如く群がる闇に喰われて消え……魔法陣もゆっくりと崩れるように消え去っていく)
    (悪意によって成された技が……其れによって構成される魔王の体に届く筈も無い)

    そのような有様になってもまだ余に逆らうか
    佳いだろう、ならば……先に汝らから静かにさせてやる

    (呟く魔王がユーリから踵を返し、水面に取り落としたジーニに迫る)
    (明確な隙ではあるが、魔王はかかずる事も無い)
    (化生に魔王が打倒されるはずが無い……その絶対の慢心故に) -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 10:05:26
  • (銀線に引き寄せられて地面へと着地したその身は。)
    (己の放ったもう一条が為した結果を目に捉えた後。)
    が、ァッ!?
    (正面から訪れた拳が胸に突き刺さる。深く、深く。)
    (胸の内側。人を真似て作り上げた心臓が。己で作り上げた、鼓動の源が。)
    (今、魔王の掌中にある。)
    (ばしゃり、と水音。波の下へと膝をついて、胸元を押さえる。)
    (制服の布地をぎゅう、と握りしめて。)
    (目の前に幾つもの光点。或いは白い闇の色。)
    (見える其れ等は死の入り口か。)
    (こちらを憐れむ魔王の言葉。それは確かに、あぁ、確かに。)

    ばけ、もの、だ。あぁ。ばけもの、さ。

    (正論は少年を苦しめる。知っているのだ。そんなことは、疾うの昔に。)
    (己が人を殺すためだけの化物で。)
    (化物が格上の化物に敵うはずなんて無くて。)
    (少年の抱えた願いが叶うはずなんて無くて。)
    (化物が人を望んでも適うはずなんて無くて。)
    (握りしめた魔王の手の先。更に深くなった痛覚を抱えて、少年は呻く。)
    (苦痛は、苦しさは、痛みは、全身を駆け巡り、焼きつくすようでいて。)
    (声を出す以外に必要のない肺の内側が、痛苦で震えれば、声が震える。)
    (震えた声は、ただ叫ぶ。)

    だけど、しょうが、ないじゃ、ない、か。
    う、そ、でも、ひとみたいに、ありたくて、いきたく、て。

    (それでも諦めきれない想いがあった。)
    (向けられた愛情を、ただ欲してしまう、それは。)
    (ひ、ぃ、あ、と。喉から漏れ出ようとする悲鳴を飲み下す。)
    (人真似て形作った胃の中に、声と唾液を落としこんで。)
    (その反論に意味があるのか。)
    (けれどただ、少年は、叫ばねばならぬと。)

    それで、も、それでもっ、俺はっ!

    (叫んだと同時。身が開放され、大きな声が出た。)
    (ぜ、はっ、と大きく息を吸い込み、前へと折れていた身を起こす。)
    (その代わりに見えた方陣。其れが伴う現象。)
    (白い色をした光景を目にした少年は、ただ、一つを頭の中に描いた。)

    (其れだけは駄目だ。其れだけは、駄目だ。)

    (がんがんと頭痛がするほどに声が回る。)
    (少年は思い出す。あいつを食べ、一つになったが故に。狂ってしまった妹の姿を。)
    「ねぇ ユーリ 全部食べて 全部見たのに どうして悪意が 見当たらないの?」
    (果たして其れは、今の状況とは似つかないのかもしれなくて。)
    (少年の想いは意味を成さぬ無駄なものなのかもしれなくて。)
    (そして今、魔王はその方陣を消し去った。)
    (けれど望んだ。少女は望み、それを見た少年は望んだ。)
    (少女と化物を一つにしないための力を。)
    (少女にそれを覚悟させないだけの力を。)
    (そう、少年は 望んだのよ 力を)




    (ふ ふふふふふ あは あはははははははは!
    力を望んだのよ! ユーリが ユルールミルが 初めて 力を!

    (喝采なさい! 喝采なさい 民衆たちよ!)
    (あぁ あぁ! 素晴らしいわ! 素晴らしいわ 矛盾の魔王!)
    (わたしの愛しのユルールミルが 初めて力を望んだの!)
    (我が日記に記しましょう 全てを忘れぬために!)
    (父よ 母よ 震えなさい!)
    (血の太陽の向こう側!)
    (我が愛のすべてがそこにある!)

    (あげるわ ユーリ 全部あげる)
    (この太陽の向こう側 全てを語るのは 楽しいけれど だけど)
    他の人からも見えるように 語ってあげるだけだなんて そんなのつまらないじゃない!
    化物では届かないならば 人でしか届かないならば。)
    (この島でなら この島でだけ あなたは手に入れられる物がある)
    の想念を形にするための物がある!)
    あげる(奪う)わ ユーリ あなたの望むもの 全部あげる(奪う)
    (響きなさい鐘の音よ! わたしの全てを 彼に捧げましょう!)

    (だから ねぇ ユーリ あなたはわたしを愛してくれる?)

    (あぁ あぁ こんなにステキな日になるなんて)
    (奪いつくしなさい ユルールミル 世界樹の名を持つ私の双子)
    (天秤に操られる自然や化物と違う 人にしか行えない簒奪をなさい)
    (わたしの心を壊し尽くした 何かを愛する(憎む)人になりなさい)
    (それが人の業であるが故に あなたは其れを行いなさい)
    (戻りましょう 私は描写に戻りましょう。またね、ユーリ。)


    (そして血色の太陽の向こう側。からん、からんと鐘の音。)
    (学園の鐘は確かに鳴り響いた。)
    (学園の生徒。一人の少年。そのへと祝福を与えるために。)


    (恐怖とは即ち何なのであろうか。)
    (己の存在を乱しうるものへの忌避感か。)
    (それとも、魔王を形為すように。知らぬものへの困惑か。)
    (恐怖は人を縛り、獣を縛り、そして化物をも縛る。)
    (それは単純な世界の真理であり、果たして誰にも変えられない。)

    (けれど。人は恐怖を踏破するのだ。)
    (獣も化物も。消しきれない其れを、人だけが。)
    (その時そこにあるものは何だろう。)
    (其れは時に強欲である。目の蒙んだ人間は其れを胸に、恐怖を踏破する。)
    (其れは時に信念である。心の中に秘めた其れをもって、恐怖を踏破する。)
    (其れは時に情欲である。融け合いたいという想いから、恐怖を踏破する。)
    (そして、其れは時に。)

    (少年は震えている。)
    (恐怖にではない。それは同様に原始的な感情。)
    (それは怒り。向ける先はただ、己への。)
    (ぶるぶると震える。瘧のように。)
    (堪え切れない何かがあった。)
    (我慢できない何かがあった。)
    (身を震わせる何かがあった。)

    (悪意を喰らう化物が、悪意を見てきた化物が。)
    (悪意によって成された技を、その身を構成する悪意をもって無へと帰す魔王を見て。)
    (そして、今、地へと堕ちた少女を見て。)
    (己へと愛を向ける、そう、手放したくはない少女を見て。)



    (あぁ。人の悪意を喰らって尚。その向こう側の人を愛するというその行為は。)
    (悪意の向こうの人を信じて、愛してやまないというその想いは。)
    (それこそは捨てきれぬ、人の業ではあるまいか?) -- ユーリ 2013-05-26 (日) 10:59:40
  • (開いた右手の内側に。何を掴むことができるだろう。)
    (閉じた右手の内側に。何を収めることができるだろう。)
    (震える心を表すには、俺はどうすればいいのだろう。)
    (わからない。ただ、けれど、しかし。一つだけ。)
    (右手を前方へと差し伸ばし、そして。)

    (そこから迸る光があった。)
    (学園の鐘が、人の想いを形とした光があった。)

    (袖口から垂れ落ちたままの銀線が、其れを受け止める。)
    (極光が世界を染める。)
    (電流を通された鋼の線が、今、形を変えて。)

    (雷が落ちる時。一瞬だけ人の目に映るものがある。)
    (其れは世界樹。地と天を繋ぎ、現出する一本の樹木。)
    (果たして其れが樹木であるのならば。)
    (その根は吸うだろう。求めるものの全てを。)
    (その枝は芽吹かせるだろう。深緑の葉々を。)
    (その蕾は咲かせるだろう。鮮やかな花々を。)
    (雷は、与え、奪い、そして。)

    (少年の手の中に形作られる物があった。)
    (其れは剣。一振りの。雷から鳴る、実体剣。)
    (人の愛の一つの形。想いを露にしたような稲妻の。)
    (剣を形成するそこに篭められたのは怒り。簒奪への怒り。)
    (簒奪へ怒れるものが手にするものが、簒奪の剣であるという愚かしさ。)
    (けれど、それこそが人の業の一側面。)
    (全てを捧げ、全てを与え、見返りを求めぬ愛の、鏡写しの向こう側。)
    (相手を喰らい、奪い、己のものとしてしまいたいという想い。)
    (いわゆる愛の一つの形。)

    (それは、世界を喰らう愛。)

    (立ち上がる。駆け抜ける。)
    (少年の身体、表面を雷光が跳ねる。)
    (電流を受け止める水面から、火花が散った。)
    (神経を無視して。筋肉を、思念と同時に生じる電気が動かす。)
    (身体が表面から爆ぜていく。人になりたいと形作った身が。)
    (疾走する。駆ける手の中には一振りの剣。)
    (あ、から始まる連続音。叫び声を喉から迸らせて。)

    (奇襲ではなかった。そんな器用なものではなかった。)
    (先程までのように、技術を尽くしたものでもない。)
    (ただ、少年は駆けて、駆けて、己の内側、両の足で駆けて。)
    (果たして其れは、魔王が少女へと手を伸ばすのに間に合ったのか。)
    (叫びとともに、振りかぶり、振り下ろす。)
    お前になんか、やらない―――!
    (発した言葉が彼に似たのは、少年の否定する因果故だろうか。)
    (放たれた剣閃。振り切られる。) -- ユーリ 2013-05-26 (日) 11:40:30
  • (視界の端で、嘯く女が見える)
    (果たして誰の視界か? 魔王? 否、魔王の眼窩は伽藍洞)
    (視野などあるはずもない)
    (だが、しかしそれは確かに視界の隅に見えたのだ)
    (果たして誰の視界なのか、其れも果たしてどうでもいい事)
    (奴は今もそこに居る)
    (鐘の音と共に嘯くその少女が見えれば、魔王ですら呟かずには居られない)
    ……マリアテロル……其処に居たのか?
    (魔王が振り向く)
    (否、振り向いたのではない)
    (それでも振り向く、思考の彼方へ視線を向ける)
    (果たしてそこで踊る少女に向かって)

    (こんにちは、マリアテロル)

    (魔王の声ではない、では誰の声か? 其れすらもどうでもいい)

    煩い、喚くな――語り部を気取るか道化よ……面白い
    (今度こそ振り向く。魔王の髑髏面の先……其の先に居るのは、雷を纏い、己を相喰らい合う愛を謳う何者か)
    (誰何の必要があるだろうか。有るはずもない。在るべきはずもない)
    (既に其れは其処にある。そして此れは此処にある)
    佳いだろう、喝采しよう
    だが、心せよ
    此方は西亨在らず、黄金の僻地。カダスを越えた遥か彼方
    偽りの黄金も階段も時計も余の身に届きはしない
    (果たして魔王は微笑んだ。その微笑すらも闇へ溶けて消える)
    (果たして彼方の運命と此方の宿命。どちらが勝るか)
    矛盾の魔王は不死不滅
    物理破壊は不可能
    唯一の破壊方法……そんなものは存在しない
    少なくとも化生たる其の右手で破壊は成し得ない
    《奇跡の機会》を待ち望もうと
    如何なる《碩学》《現象》《数式》を用ろうと
    例え41の《怪異》であろうと
    我が身に届く事は無い
    既知未知問わずこの身は矛盾。全ての因果を内包せし此の身に其の刃、届かせると嘶くか……人の子
    (化身が怯える。騎士が跪く。馬が慄く)
    (しかし、其処に在りし彼の魔王)
    (ただ嗤声を漏らすのみ)
    之もまた戯れだ
    掛かってくるが佳い、身の程を教えてやる
    (右手を伸ばす)
    (果たして右手に握られたそれは……漆黒の鎌)
    (迅雷が駆ける。閃光が迸る。雷鳴が轟く)
    (簒奪の光は掠奪の闇と相奪い合い、剥き出しの欲望で悪意を喰い散らかす)
    (瘴気が渦巻く。常闇が蠢く。深淵が牙を剥く)
    (永世の闇は蹂躙の光と相喰らい合い、剥き出しの敵意で情欲を脅かす)
    (其れを見て、其の有様を見て、其の生き様を見て)

    そうだ、奪って見せろ、我武者羅に。ただ只管に

    (魔王は、確かに……)

    それこそが人であるということだ、『ユーリ』

    (『笑った』)

    (ただ、歩み寄る。にじり寄る。さながら闇其の物の如く)
    (恐怖の形がそこにあった。絶望の形がそこにあった。諦観の化物が其処に鎮座していた)
    (『いつものように、ただそこに』)

    (影が、交錯する)

    (鎌を薙いだ異形の影)
    (剣を振り抜いた少年の影)
    (一時の静寂……その静寂を先に破ったのは……)
    くくく、ふふふふ……
    はーっはっはっはっはっは……!
    (魔王の哄笑)
    条理も、不文律も、世界の理から己の在り方すらを捻じ曲げて……
    それでも一人の女を欲するか
    それでこそ……その身勝手こそ、その欲深さこそ……飾らない己の愛を語るその様こそ……正に人の子だ
    故に問おう『ユーリ』
    (直後、哄笑をやめて振り返り、鎌の切っ先をユーリの首に向け……問う)

    そうまでして……この女が欲しいのか? -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 13:04:02
  • (空の中。手を伸ばせば届きそうな雲。)
    (けれどいくら伸ばしても、決して雲には触れられない。)
    (誰もが其れを知っている。幼子の無力感を知っている。)
    (でも、それでも手を伸ばすのは何故だろう。)

    (気づけば周囲は静かであった。)
    (恐れ故に。魔王の魔王たる所以故に。)
    (魔王の眷属が。そして、水の塊共すらも、膝をついて。)
    (王たる者の決着を間近だと感じていた。)

    (迸る雷光の中。己が身を焼くその力。駆ける足に篭められた前進の意思。)
    (対するは、ただ、歩みを進める王の姿。)
    (悠然と、もしも神がいたのであれば、「かくあれかし」と命じたであろう在り方で。)
    (人が灯りを好むというのであれば。即ちその身は常に闇の中にあるのではないか。)
    (そして常に闇の中、焦がれる人の隣に存在する玉座へと君臨する、漆黒の王。)
    (幸運の女神に後ろ髪はなく、追い縋る人をこの魔王は止め果てさせる。)
    (常に彼は、己等の隣にいるのだ。)
    (深淵を覗きこむ必要もなく。こちらをじっと眺めている。)
    (其れを今。目前に捉え、それに向かって駆けて、駆けて。)

    (魔王が笑った。少年も笑った。)
    (そして諦観と前進が、衝突する。)

    白光(ひかり)漆黒(しっこく)。何れが?)

    (交差は一瞬。残心は長く。)
    (漣の音だけが世界を埋めていて。)
    (そして其れを破ったのは、魔王の哄笑。)
    (同時、少年の身体が、ぐらり、と傾く。)
    (水音は三つ。その場に膝をついた両足と。)
    (袈裟懸けの胸元から一閃に描かれた残痕の先、肘から堕ちた左の腕。)
    (水に堕ちたその手はとろりと、海の中へと消えて。)
    (普段であれば即座に再生する傷口を、瘴気に焼かれた少年の視線は茫洋と。)
    (気づけば手の中の剣は消えていて。)
    (あまりに惨めなその身へと、突き付けられた刃先があった。)
    (少年の視界へと、其れは、入らず。己の危機を知ることもなくて。)
    (だけど、聞こえる声はあった。問いかける声。聞こえていて。)
    (口を開いた。)

    そいつが、俺に、助けてくれといった。
    (ざりざりと、何か、掠れたような声。)
    (声帯の模倣がうまくいっていないのだろうか。)
    俺はそいつを助けるといった。
    (ざざざ、と。掠れる。掠れる。ノイズの混ざった電子音のように。)
    (雷に乱された電影のように。)
    (そして。)
    ジーニは、ユーリが幸せなのが幸せよ。
    ユーリの笑顔、大好きだから。それを守りたい。
    (思い出す言葉があった。)

    俺は恋なんて知らない。
    ただ俺は、責任を感じるから。
    自分のためにそいつが必要だから。
    ジーニが悲しいのが嫌だから。
    俺が笑顔でいるために。
    そいつは、俺のものだ。

    (声がクリアに。同時、チチチッ、と。囀る鳥の声のように。)
    (突き付けられた鎌の刃先と、少年の首筋が細い白光の雷で繋がった。) -- ユーリ 2013-05-26 (日) 14:09:24
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4・矛盾の魔王 Edit

  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025976.jpg 
    (鮮血よりも尚紅い太陽から、其れは降りてくる)
    (夜をも凌駕する漆黒天より尚昏い深淵から、其れは降りてくる)
    (影が直立する。さすれば其れは騎士となる)
    (闇が天より滴り落ちる。さすれば其れは化身となる)
    (青白い馬に跨り、鎌を抱えた魔王の化身達は相列……否、葬列を成して、闇を仰ぐ)

    控えよ……王の御前であるぞ

    (闇が、更なる闇により切り裂かれ、そして……)

    今宵、機は熟した……諦観の時である

    (魔王は、顕現する)

    (白骨の髑髏面を被り、闇其の物としか思えない外套を翻し、片手に眠り続ける少女を抱く異形は嗤う)
    御苦労であったな、ユーリとやら。汝のお陰で我が娘は十二分に矛盾をその身に孕む事が出来た
    (魔王は嗤う。闇の中にあって朗らかに)
    汝への恋慕を募らせ、鳥篭の外を愚かにも願ったが故に儀は成された。鬼の呪いは如何にも魔王と土が合う
    (魔王は嘯く。抱く少女を誘う為に)
    今宵、久々の顕現により余は格別気分が佳い。下賎の汝にも褒美を呉れてやろう
    (魔王は見下ろす。この世の地獄に佇む少年を……否)
    褒美は……汝が心だ。余の召喚を成したその大儀を労い、汝のその有様は見逃してやろう
    (魔王は憐れむ。望まれないバケモノの有様を)

    諦めろ。既に全ては手遅れだ。汝の手が届く事は無い
    絶望しろ。既に宿命は定められた。汝の声が届く事は無い

    さぁ、踵を還せ。同類の誼だ。余は汝の門出に惜しみない祝福を送ろう
    さぁ、ユーリ。ユルールミル。汝は人を憎むが佳い
    己を憐れむ事すら赦されない、憐れな化生よ

    汝を傷つけるのも
    汝を慰めるのも
    汝に痛みを与えるのも
    汝を癒すのも

    悉く汝が闇が成すであろう

    諦めろ。汝は汝の中で朽ちる事が最も幸福だ -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 01:25:56
  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp025949.jpg

  • exp025954.jpg
    (相手は王。矛盾の王。)
    (幾年を超えて存在し、今や最も新しい御伽話としてこの地にも根付く。)
    (荘厳とはすなわち恐怖であり、恐怖とは即ち力である。)
    (従える眷属たちの一体一体。それらだけでも、一つの街を滅ぼすに足るだろう。)
    (異形の一群。葬列は粛々と己等の王を崇め、並び。)
    (そこに在るのは即ち一つの王国であった。)

    (対してただ一人、自己自身の内側の世界に佇む少年。)
    (その姿は、相対する魔王に比べれば、あまりにもちっぽけで見窄らしくて。)
    (纏った制服が、ここでは綺麗に保たれていることがせめてもの救いか。)
    (少年は、顔を伏せれば、後頭部、手を触れたところから染められたように色の変わる黒い髪をがりがりと掻いてから。)

    こういう時は、アレだっけ。
    恐悦至極、とか言えばいいんだっけ。

    (顔をあげた。榛の色をした瞳が、眼前の一群を捉えた。)
    (少年は漆黒の天の下。現れ出たその存在を眺めている。)
    (あるのは恐怖ではなく。それは、同類に対する親近感か。)
    (いいや、或いは。)
    (恐れる心を核にして存在する其れを本能的に感知しての。)
    (心を喰らう化物故の食欲か。)

    でもさ。ごめんな。
    なぁ。俺は馬鹿だからさ。
    お前の言っていることが何一つわからないんだ。
    俺の腹の中でお前が何を言っているのか、俺にはちっともわからない。

    (少年は、申し訳なさそうにへらり、と笑って。)
    (それから、右の手を、だらん、と下ろした。)
    (とろとろと、その手の先から溶け出す何かが在る。)
    (この世界の地面を一面覆う浅い海の中へと、零れ落ちた何かが在る。)

    でもさ。一つだけ。一つだけわかることがある。
    そうだ。この場所では、確かに。

    (そしてそれは、突然現れた。)
    (闇より深い海の底から。それは現出する。)

    (お前)を傷つけるのも

    (水が直立する。さすればそれは騎士となる。)

    (お前)を慰めるのも

    (水が地より吹き上がる。さすれば其れは化身となる。)

    (お前)に痛みを与えるのも

    (青白い馬に跨り、鎌を抱えたその姿は。)

    (お前)を癒すのも

    (葬列を成して。しかし、少年など無いもののように。)

    悉く(お前)の闇が成すだろうさ

    (ただ、居並ぶ闇の眷属たちへと悪意が向けられる。)
    (咒われるべきこの世界。何者かを殺すのは、自身の悪意であるが故に。)

    なぁ。お前、矛盾の魔王だろう?
    親父のコピーとお前のコピーが戦った、この土地の伝説だろう?
    知ってるよ。知ってる。皆がお前を知ってるよ。
    お前が化物として、俺よりずっと強くて、格上で、逆らうべきじゃないってことくらい。

    (足元、水面が跳ねた。飛び上がった魚のような其れを、手を伸ばして掴む。)
    (それは剣だ。恐らく何の謂われもない。)
    (少年が冒険で使っている、恐らくは数打ちの。)

    でもさ。諦めるなんて、できないよ。
    この場所であれば。俺は、俺の汚さしか見えないから。
    だから、その。綺麗な生き物を諦めるなんて、俺には出来ない。

    (剣を構えた。構えは変則的。剣先は地面に落ちるほど低く。)
    祝福をありがとう。でも、絶望も諦めも。ここでは俺の食べ物だから。
    (右足が一歩。ふらつくように踏み出された。)
    だから、そんなもの全部食い尽くして。その腕の中身を、返してもらう。
    (そして、左足で二歩目。急に加速する。三歩目を踏み出す頃には、速度はトップスピードに乗っていた。異様な歩法。)
    (低く。ただ低く。地を這うような上体の伏せ方の侭に駆け出した。)
    (抗いが始まる。) -- ユーリ 2013-05-26 (日) 02:21:14
  • (気がついたら、体が動かなくて)
    (黒い空と、赤い太陽が間近に見えた)

         (どこだろう。魔王の中…?ジーニは魔王に食べられちゃったんだわ)

    (見えるのは恐ろしい世界。ここは魔王の中だと思った)

    (血みたいに赤い太陽はゆっくりと遠さかっていく…下に落ちていってるんだ、自分が)
    (声が聞こえた、とても近くで、聞きなれた声。地の底から響くような……)
    (誰かがそばにいる。ユーリじゃない…逆行で、よく見えない。目を細める事も出来ないし、ただ見上げるだけ)

    (……漆黒のマントが翻り、太陽を覆い隠す)
    (そばにいる”誰か”が見えた)

         (……矛盾の、魔王)

    (そう気づいた時、夢の中にいるようだった意識が覚醒する)
    (魔法陣が発動した前後の記憶が頭の中でフラッシュバックして……)

    (崩れていくお店と、街と)
    (真っ黒な魔法陣)
    (沢山の人の悲鳴)
    (弾き飛ばされたユーリと……あれ?)

    (……そうよ、ユーリ。あんなに強く壁にうちつけられてたのに、血まみれだったのに、大丈夫で)
    (……そうよ、あの後、ユーリが何か言ってて)

         (ああ、胸が苦しい。思い出してジーニ)

    (また断片的な光景が浮かぶ)
    (地に落ちた制服と、泥のようなものと、その中に浮かんだ、瞳)
    (ジーニが魔法陣に飲み込まれる直前に見た、沢山の、目)

         (あれは)
         (ユーリ)

    (……そうよ、ここは魔王の中じゃない。ユーリの中)

    (人間だと思ってた。苦労は多いけど、それでも幸せに生きてきた人なんだって)
    (でも違ってた)
    (「化け物」のような恐ろしい姿。その身の内に異界を持つ人ならざる者)
    (ジーニと同じ……ううん、こんな人の手が加えられてやっと一人前の「まがい物」とは全然違う)
    (あれは神の使いだった自分達一族とは違いすぎる)
    (かかわってはいけないもの。兄様だったらそう言うだろう)
    (………………かつて矛盾の魔王にも、彼はそう言っていた)


    (だけど、だけど)


    『バケモノなのに、人間のふりをしていて、ごめんな。』


    (ぐちゃぐちゃな記憶の中、鮮明に思い出せるのは……ユーリの、涙
    (あんな風に泣く人を、謝る人を……怖いものだなんて、思えない)

         (ユーリ、泣かないで)
         (ジーニは、言ったでしょう?)
         (天使でも)
         (悪魔でも)
         (王子でも)
         (乞食でも)

         (どんな貴方でも、好き)



    (魔王の手の中で、黒髪になった榛色の瞳の少年を見る)
    (ひと目で、ユーリだってわかった)
    (すべて思い出したジーニ。けれど伝える術はない)
    (心で何度も名前を呼んでも、届くはずはない)
    (それに気付いたのか、矛盾の魔王の仮面の向こう、闇よりも尚暗い闇が、笑ったような気がした
    -- ジーニ 2013-05-26 (日) 05:27:39
  • (魔王の伽藍洞の眼窩に……昏い輝きが灯る)
    (其処に来て……魔王は果たして真の意味で顕現される)
    (奇縁の一言で片付けるには余りに歪な……因果の捩れにより)
    (魔王と少年の因果は……宿業により誘引される)

    よもやとは思っていたが……そうか、矢張りか
    人たる影の眷属か
    成らば、此処で余と汝が出遭った事もまた定め
    佳いだろう、之もまた戯れだ

    (闇と水面の輩が互いに相討ち合う泥の地平)
    (此方、魔王は鎌を闇より右手に握り、彼方、少年は剣を水より右手に握る)

    鱈腹喰らえ
    余と汝の誼だ
    聖杯に導かれた我が愚息は遅れを取ったようだが……余はそうはいかんぞ?
    (鎌を振るう。ただ其れだけ。たった其れだけ。一振り鎌を横薙ぎに振るっただけで)
    さしもの余と謂えど、娘を二人も掠め盗られるというのは中々腹に据えかねるのでな
    (世界が斬り裂かれる。少年の『視界一杯』に咲き広がる鎌の一閃)
    (彼我の距離などまるで無視した、騙し絵の一撃) -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 03:13:28
  • (剣撃の音が聞こえる。)
    (周囲は恰も戦場で。)
    (まさしく其処は人の悪意同士が相争う、原始的な戦の場。)
    (その中を一人の少年が駆ける。姿は初陣を迎えた新兵にも似て。)
    (手に持った獲物も平凡で。見るところのない愚直な生き物。)

    (けれど、その姿が新兵ではないと知らせるものが在るとすれば、唯の一つに他ならない。)
    (そう。その少年が相対するのは、矛盾を統べる闇の王。)
    (宵闇を、謎を、理解のできないものを恐れる心が生み出した存在であるのならば。)
    (理解できぬ死を量産する戦場という場すらも、この王の居城なのだろうか。)
    (それに相対する少年の、なんとちっぽけなことか。)
    (矮小さ故にその存在を主張する少年の駆ける足。)
    (彼我の距離を縮めるに足るだけの時間は未だ訪れず。)
    (それよりも早く、王の一撃。遍く者を救う慈悲の如く一面に。)

    俺とお前の出会う運命だとかそういうので、ジーニがそうなったのなら。
    そんな運命は必要ないし、認めない。

    (紙に描かれた絵画の上に、汚すように定規で一本の線を引けば。)
    (もしかすれば、このような一撃となりうるのだろうか。)
    (なるほど、確かに。人は其れを避け得ないだろう。)

    お客に奢ってもらうなんて、はは。俺も随分最悪だ。
    ありがたく、戴くよ。その手の中身をひっくるめてさ。

    (けれども、そう。この化物は、人ではない。)

    (踏み込んだ。そして地へと低く構えていた剣を。)
    (己の眼前、地面へと、差し込んだ。)
    (低く、低く駆けていた少年の身体は、まるで棒高跳びの如く。)
    (剣を支点に、円を描くように跳ね上がった。剣の柄から手を離す。)
    (宙へと舞う。無茶な機動。筋が捻くれ、骨が折れてもおかしくないような。)
    (それを実証するように、少年の身体から、何かが圧し折れる音が聞こえた。)
    (けれど、それは音だけで。人を模した少年の体であれば、直ぐに修復される。)
    (宙を舞う。少年の上下は逆転し、反った身のその髪先が、同色のペンで塗り潰されたように一閃されて虚空に散った。)
    (高い金属音。地に残された少年の剣は、両断されて。)
    (その姿勢のまま。制服の袖口から迸った、銀線二条。)
    (先端についた小刀の如き錘を追うように、宙に二本の線が引かれた。)
    (一本は、騙し絵の向こう側。地面へと刺さり、少年の身を地へと引き寄せて。)
    (一本は、宙を駆けて。向かうは矛盾の魔王のその仮面。彼我を繋ごうと、疾走する。) -- ユーリ 2013-05-26 (日) 03:51:40
  • (血とも肉ともつかぬ汚泥に塗れた浅瀬の戦場)
    (その果てで魔王と少年は出逢う。中空を木の葉の如く舞う少年を視線で追いもせず、魔王は鷹揚に右手を伸ばす)
    (先程まで手に握られていた鎌は既に無い。何時手放したのかすら判らない。瑣末事だ。どうでもいい)

    汝の先達も似たような事を云っていたな
    だが、案ずるな。汝の望む望まざるに関わらず、余は汝の運命を導いてやろう
    王にして同胞であるが故の計らいだ、拝領するが佳い

    (さすれば銀の煌きは白磁にも似た魔王の掌中へと収まり、握り潰される)
    (砕け散る白銀の残滓は瞬く間に霧散し……闇に喰らわれる)
    (対し、髑髏を狙って放たれた銀光は易々と頭蓋を『摺り抜け』虚空へと消える)

    (その技が魔王に触れる事は無い、その力が魔王に仇成す事はない)
    (何故なら……その技を奮う少年の身は……そこに宿る力は……)

    (人外の其れで在るが故に)

    無駄だ
    (白骨の仮面が嘯く。冷笑を含んだ酷薄な囁きが響く)
    汝は確かに人間ではない
    化け物だ。化生だ。魔性だ
    人に叶わぬ軌道を辿り、人に叶わぬ機動を悠々とこなす異形の騎士……だがしかし、それ故に……
    (右手を伸ばす。距離も挙動も反動も何もかも無視して、遠近感を無視した拳がユーリの心臓を貫く姿が幻視される)
    (魔王の幻術。しかし、幻術といえども魔王の使う技……錯覚による幻痛と苦しみが、蠢く蟲の如くユーリの体を駆け巡る)


    其の刃が余に届く事は無い
    化物が化物に打倒される結末など、人々は望まない


    (魔王とは何か)
    (魔王とは闇の王。魔王とは深淵の主……魔王とは即ち)
    (憐れな化生すら統べる、魔性の守護者)

    汝と余は闇の同胞だ
    故に……其の闇を統べる余に汝の刃が届く道理はない

    (一層強く右腕を握り締めれば、合わせるように幻痛も強くなる)
    (まるで、痛み……いいや、傷みその物が息衝いているかのように)

    ユルールミル、愚かな化物よ
    人であると自らすら偽り続ける憐れな魔物
    魔は魔に統べられる事こそが相応しい
    此処で朽ちるというのならば、汝の愛する贄と共に矛盾の使徒としてくれよう
    有難く思うが佳い
    くくく……ふふふっはははははは……!!
    (高らかに哄笑が響く)
    (深淵に響く哄笑は高らかに……不協和音となって、其の場に居る者達の耳朶を打つ)
    (まるで永久に続く悪夢のように) -- 矛盾の魔王 2013-05-26 (日) 09:38:27

3.ひとではないもの Edit

  • (少女の影から、黒い瘴気のようなものがあふれ出した)
    (それはまわりに黒い魔法陣を描いていく)
    (初めは二人を囲むくらいの大きさで、しかしそれはくるくると回りながら大きさを広げて)
    (その魔法陣に触れると、店にあった花々は萎れ、木の壁がぼろぼろと崩れ始める)
    (店の天井が、抜けた。けれど二人にはその残骸は落ちてこない。ジーニの上に落ちる前に、黒い霧に変わってしまう)

    殺してと、少女は叫び続ける)

    (……カウンターに置いてあった手鏡が割れた。その音はとても小さいのに、二人の耳にはよく響いて)

    (……ジーニの後ろに、銀髪の少女が、スニェグーラチカが現れた)
    (その髪は短くて、ジーニとかなり印象が違う)
    (悲しみに溢れた表情は、ジーニと同じものなのに)

    (店が消え、黒い魔法陣がまわりの建物を飲み込んでいく………沢山の悲鳴が、遠くで聞こえた)

     ユーリ、ジーニを殺して…!!
    (翠の娘の悲痛な声。純白の姿で、少年に縋る)
         魔王なんかになりたくないよ…
         (銀の娘の小さな呟き。漆黒のドレス姿で、二人を見下ろしている)

    貴方を傷つけたくないの…誰も殺したくないの…!!!
         ……………でも、でもね

         ……………貴方といたい。
         ……………死にたくない。


    ユーリ……お願い……

         ……………助けて……ユーリ。

    (銀の娘はそう呟いて………………黒い魔法陣の中に、溶けた)

    あああああああああああああああああああああああああっ!!!!
    (翠の少女の絶叫が響く)
    (少年を黒い瘴気が弾き飛ばして、崩れた瓦礫にたたきつけた)
    (強風があたりを吹き荒れる、さっきまで聞こえていた悲鳴すらも、かき消すほどに)

    (……風の中、少女の体がゆっくりと宙に浮かんだ)
    (その体に、あたりに広がっていた瘴気が吸い込まれるように集まって)


    (そして)


    (…………矛盾の魔王が、召喚される) -- ジーニ 2013-05-25 (土) 17:36:06
  • http://notarejini.orz.hm/up3/img/exp026015.jpg
  • (宙へと浮かぶ少女の姿を、少年は瓦礫の中から見上げている。)
    (その体、纏った服はボロボロで。体中には流れた血液がまとわりついて。)
    (破片を受けただけの身がこうであれば、叩きつけられた背中は見るのも恐ろしい。)
    (落第街の一角が崩壊していく。恐らくは顔見知りも幾人か巻き込まれているだろう。)
    (少女の望まぬ事態。終焉の鐘が鳴り響く。果たしてあれは、学園の名を冠する鐘か。)
    (この洋上の街の中。現れ出る何者かを祝福しているのだろうか。)
    (少年の口から、言葉が漏れた。)

    あーあ。こんなに壊して。嫌だろうな、ジーニ。きっと悲しむ。
    だったら、まだ、諦める前に。
    とりあえずこれ以上の被害だけでも、止めないと。

    (惨状に相応しくはない、それは、あっけらかんとした声。)
    (そう。それは諦念故の。)
    (少女を助けることを諦めない少年の。何かに対する諦念故の。)

    (そして無傷の少年は、立ち上がった。)
    (時は夕暮れ。周囲の建物が崩壊し、そして沈もうとする太陽が、少年の背を照らしている。)
    (長く長く伸びる影。少年の足元から、少女の元を通りすぎて。)
    (橙の夕日に照らされる、黒い瘴気と翠の(白い)少女へと。少年は悲しげに目を細めた。)



    でも。あぁ。言ってくれた。
    ジーニ。スニェグーラチカ。お前たちは一つなんだろう?
    助けるさ。当たり前だろ。諦めないよ。
    でも。

    言えなかった。
    言えなかった。
    一つだけ謝らないと。

    (それは、とても小さく、静かな声で。)
    (きっと届かない。少女たちの元へは届かない。)
    (吹き荒ぶ風が、少年の白栗の髪を掻き乱す。)
    (ごうごうと、耳鳴りがするほどの風の中に。)
    (母譲りのその色の髪が、乱れて。そして父と同じ色の瞳から、一筋だけ涙が零れた。)

    バケモノなのに、人間のふりをしていて、ごめんな。

    (言った瞬間。どろり、と。少年の身体が溶けた。)
    (制服だけが形を残し、その体は、肉も骨もなく足元へと崩れ落ちる。。)
    (ミキサーにかけたと言うよりは、まるで融けた粘土のように。)
    (少年の白栗色の髪と、白黄の肌と、そして血の色の混ざり合った。)
    (それは泥だ。原初の泥。色は混ざり合い最後には黒く。)
    (地面に落ちた泥の中。浮かんだ瞳だけが、ジーニの姿を見上げていて。)
    (それも最後には、泥の中に沈み込んだ。)
    (北海の主)(アンラ・マンユ)から生まれ落ちた汚い泥の塊は、その姿を露にして。)
    (しかし尚。長く伸びる影は少女の足元へと伸びたままに。)

    ぎょろり、と。伸びた影の中。無限の眼球が瞼を開いた。

    (影は拡大する。滑らかな動きで。平面に墨汁をぶちまけたように。)
    (人を殺し引きずり込む、極寒の北海の化物。)
    (人の悪意から生まれた、人だけを殺す化物。)
    (少年はそれらから生み出された、哀れで愚かな交雑種(ヒュブリダ)
    (そんな、人を殺すためだけの汚らしい化け物の影は、方陣へと溶ける一人(二人)の少女と。)
    (その恐怖から今にも生まれ落ちようとするモノを、影の中へと引きずり込む。)
    (宙へと手が伸びることもなく。それは、単純に。足元の影に捕食されたように。)
    (それと同時。島の中。荒れ狂う風は吹きやみ、恰も凪いだ海の如く。)
    (先程までの騒乱は嘘であったかのよう。)
    (今となっては、島の上に、彼らの姿は存在しない。)
    (引きずり込まれた者の向かう先が、少年の内側であれば。)
    (世界を裏返し、そして取り込んだ、化物の胃の中であれば。)

    (そして。)
    -- ユーリ 2013-05-25 (土) 18:52:17
  •                                                                       
                                                                          
                                                                          
                               足元を攫う波はとても冷たくて                        
                                                                          
                                                                          
                                                                          
                         即ち天には漆黒の空と、溶け溢れる血色の太陽                  
                                                                          
                                                                          
                                                                          
                                原初の地獄がそこにあった                         
                                                                          
                                                                          
                                                                          
    -- ユーリ 2013-05-25 (土) 18:52:54
  • (怖気を振るうような世界の中。そこはとても静かでいて。)
    (少年は一人そこに佇んで。)
    (現れようとしているモノをただ、待ちわびるように。) -- ユーリ 2013-05-25 (土) 18:53:53

2.残酷な願い事 Edit

  • (いつのまにか、最後のひとくち。少しためらった後、口に入れた)
    (ユーリも多分同じように思っていたのかもと思った。食べるのが遅かったから)
    (彼が最後のひとくちを食べるのを見届けると)

    …あ、チョコ、ユーリの口元に残ったまま。
    (手を延ばして指で拭い、そのまま自分の口へ)
    あむ……んふふ。最後のひとくち。
    (ほんのり頬を染めながら笑う)
    (思いつめていた気持ちが、ちょっとだけ和らいだ)

    (瞳を閉じて深呼吸して…見開いた瞳は、真剣で、どこか達観したような色)

    ……昨日、兄様に改めて体を調べてもらったの。
    ……今月、こせるかわかんないって、言われた。

    ごめんね、いっぱいいっぱい、助けようとしてくれたのに。
    だからね、ホワイトデーのおかえし、考えなくていいからね?
    (笑う。作り笑い。感情がうまく隠せない)
    (きっと、隠す必要ないんだけど、我慢する方が、ユーリおこるんだろうけど)
    (とうとう、俯いてしまう)

    (それでもぎゅっと膝のスカートを握って震える声で、話の続き)
    あのね、ユーリ、おこるかもしれないけどね、嫌かもしれないけどね、

    ……お願いがね、あるの。
    一生のお願いなの。

    ジーニの、最期の日、そばにいて。
    それでね、ジーニが……「変化」しはじめたら…。

    (声は小さく、かろうじてそばのユーリにとどくくらい。どんどん小さくなっていく)
    (でも、最後の一言は)

    ジーニを、ユーリの手で、殺してほしいの。

    (涙をいっぱいにためた瞳でまっすぐ彼を見て、しっかりした声で、伝えた)
    -- ジーニ 2013-05-25 (土) 02:27:44
  • (ケーキの最後の一口は、するりと口の中へと滑りこんで。)
    (それまでの一口よりも美味しく感じたのは、食べ終えることへの惜しさ故だろうか。)
    (嚥下して、ごちそうさま、と手を合わせようとして。)
    ん。(己の口元を撫でた指先に、眉を上げた。離れていく指先が、そのまま。)
    っ、こら。(ジーニの口へと吸い込まれれば、少しばかり照れくさそうに注意して。)
    (それが最後。日常の終わり。)

    (聞こえた言葉よりも辛かったのは、ジーニの表情で。)
    (そこに見えた諦念の色に、表情は変えぬまま歯を食いしばった。)
    (気づけば2月の半ば。つまり、最大でも2週間。短ければ今日にでもか。)
    (いよいよ訪れようとしているその時は、あの日から見て、近かったのか、遠かったのか。)
    (どちらにしても、結論は同じ。叫びそうに鳴るのを押し留めて。ジーニの連ねる言葉を聞いて。)
    (俯いた少女へと声をかけようとした所で、それを遮るように。)

    ―――――――――ッ。

    (告げられた願いは残酷で。任せろと言った己の言葉の無力が辛くて。)
    (奥歯から、罅割れる音が聞こえた。)
    (目を閉じて。数度の深呼吸。最後に一つ息深く吐いて。)
    (目を開けば。此方を見つめる少女の瞳。その眼差しへ。)

    ……そりゃ駄目だ。一生のお願いは、一つだけだろ。

    (少年は柔らかい口調で、そう答える。)
    (言葉に交じる、僅かな、何時もどおりの、誂うような色。)
    だからさ。最後の最後まで、一緒にいてやる。一生のお願い、聞いてやる。
    絶対に、最期まで、諦めたりなんか、しない。
    (強い眼差し。ぎゅっと、右の拳を強く形作った。血流が止まり、真っ白な拳。)

    けど。

    (腹に力を入れて。息が止まる。)
    (そして少年は穏やかに笑った。)

    もし、本当に、最後の、最後。どうしようもなくなったら。
    俺がお前を、殺して(食べて)やるよ。 -- ユーリ 2013-05-25 (土) 11:39:31

  • (ユーリの返事の声が優しい)
    (でも、ジーニが俯いた時、視界にユーリの手が見えて)
    (指先が真っ白になるほど、握り締めていて)

    (言ったそばから後悔する。顔を上げたら、きっと、望んだ顔がそこにある)

    (全部言ってほしかったことなんだ)
    (なかなか甘い事言ってくれなくて、触ったりもしてくれなくて)
    (それなのに、こういう時だけは一番言ってほしいことを言ってくれる)
    (今、泣き出してしまいたいくらい幸せなの)

    (……でも、後悔、してるの)

    (顔を上げる。彼の表情を見ないでいることは卑怯だと思ったから)
    (思ったとおりの、強い眼差し。ジーニの大好きな夜の色)
    (その顔が、優しく笑ってくれる)
    (ジーニとスニェグーラチカの大好きな、笑顔)

    ……そして
    一番望むとおりの、言葉をもらった
    それは優しい彼にとってとても、残酷な言葉

    (微笑みかえしたら、涙がこぼれて、止まらなくなる)
    (きっと自分はとても幸せそうに笑ったんだと思う)

    (……後悔で胸がいっぱいになってるのに)

     ごめんなさい

     ほんとはね、「楽しかった。ありがとう、助けようとしてくれて幸せだった」
     そういうことだけ、いっぱい言って、最後はどこか遠くに行こうと決めたのに。
     ……いっつもそう。ジーニはユーリの前だと嘘がつけなくなっちゃう。

     愛してもらう以上のものをもらってるのに
     ジーニはいつも貴方に酷い事をしてる
     これだけ優しくしてくれたひとに、大好きなひとに、なんて残酷な事言わせてるんだろう
     今、すごく後悔してる。やっぱなしって、言っちゃいたい…。

     ……それなのにこんなに幸せな気持ちになるなんて
     怖くて叫びたい気持ちが、あっというまに消えてしまうなんて
     ジーニひどい女だね

     今なら死んでもいいって、思うくらい、嬉しいの。
     貴方が止めてくれるなら、怖くないわ。

    (椅子から立ち上がって、ユーリをぎゅっと胸に抱きしめる)
    (白いワンピースからは、甘い花の香り。少年のためにほんの少しだけつけたコロンの香り)

     ごめんね、ジーニが死んだら、すぐに忘れていいからね

     ありがとう…大好きよ、ユーリ。

     貴方を好きになって、よかっ……

    (ぐらり)
    (目の前が、揺れる)
    (暗闇が、体の中に広がっていく)

    (体から、力が抜けて…)


    -- ジーニ 2013-05-25 (土) 12:45:02
  • (向けられた微笑みの幸せは、砂糖菓子のように甘く舌の上に踊って。)
    (少女の感情はとても深いのだと、少年に知らせる。)
    …謝るのやめろよ。ただでさえ馬鹿で名が通ってるのに、女子泣かせて謝らせたとか更に広まったら俺は死んでしまいます。
    (わざとらしく、少し口を尖らせ気味に、視線を逸らして悲しげな表情。)
    (けれど、継がれた言葉に、少しばかりむっとしたように。)
    …お前なぁ。楽しかった、幸せだった、って過去形で言われて、今のジーニがどうなのかわからないまま、俺に過ごせって言うのか?
    (靴の踵が、コツン、コツンと椅子の足を叩く。)
    そういうのはゴメンだ。言われるのなら、楽しいね、が良いし、幸せだ、がいい。
    (視線を斜め右下、床に落とす。なんとなく口元をもぞもぞとさせて。)
    俺が、そういうこと言える立場じゃない、ってのは、わかってるけどさ。
    (握りしめた手を解けば、右拳の感覚はほとんど無くて。)
    (その手で後頭部をがりがりと掻いてから、)
    嘘ついたり、そういう過去形で話をするなら、まだ、苦しいって、素直に言われたほうが良い。
    あのなー。1年以上、好きって言われたまま返事も返してないクズ相手に遠慮とかすんなよ。
    待ってる分、ジーニは俺に迷惑かけたっていいし、そうでなくても、俺に何かさせたっていいんだよ。
    俺は嫌なことはしない主義だ。だから、別に、いいんだ。

    (少年は、その眠たげな目で、立ち上がった相手、ジーニの顔をじっと見て。)
    ジーニがそうでも、俺がお前に死んでほしくないと思ってる。
    だから、もうちょっと、ここにいればいいっ、ふが。
    (格好の付かない言葉尻。一年が経ち、また伸びた少年の身長。)
    (けれどこちらが座り、相手が立って抱き寄せられれば、すっぽりと腕の中に収まる形。)
    っ、おい。恥ずかしいんですけど。
    (自分よりも高い位置に在る相手の顔を、見上げながら。)
    (なんとなく照れくさそうにそう言って。)
    だからさ、ジーニ。俺が、すぐ忘れるとか、そういうことできる人間かを考えてからそういう話しろって。
    …ありがとう、ジーニ。
    だから俺さ。俺も一つだけ、お前に――――ジーニ!?
    (己を抱きしめる腕から力が抜け、ふらりと脱力する身体を感じれば、少年は慌てて椅子から立ち上がって。)
    おい、どうした、つらいのか!?(抱きしめるように、ジーニの身体を受け止めようとする。) -- ユーリ 2013-05-25 (土) 15:19:05
  • (ユーリの腕の中に倒れこむ)
    (初めに会った夏よりも、ずっと大きく逞しくなった少年)
    (ジーニは成長が止まりかけていたから、余計によくわかった)

         (ユーリ、おっきくなったなぁ。男の子って、変わるものだなぁ)

    (暗闇に体を侵食されて、動けなくなってるというのに、なんてのんきな考え)
    (でも、そんな成長するくらい、一緒にいることが出来たんだって、嬉しくて)

         (もうちょっと、一緒にいたいな)
         (でも、だめなのかなぁ)

    (呼びかけに、閉じかけた目を必死に開けて、すぐ近くにあるユーリの顔を見つめる)
    (頬に手を触れて、力なく、笑う)
     えへへ、抱きしめられちゃった……。
     ……もう少し、時間あるって、おもったんだけど、な…?

     ジーニへの返事ね、
     ジーニが消えちゃうかもしれないって、わかった時ね、
     ユーリにお返事すぐくださいって、言おうかなって思った。
     そうしたら、嘘でもすきって言ってくれて、抱きしめてくれるかもしれないじゃない?

     でも、やっぱり、ユーリの気持ちがきまるまで待っていたくて……
     ユーリは何も気にすること、ないんだよ。
     ジーニが貴方を好きなだけ……好きでいさせてもらえただけで……
     ……幸せだった。

     過去形で、ごめんね。今だって…幸せなんだけど。
     ユーリを、おいてくなら、早く過去にならなきゃって、思って…。

     ユーリ、そういうことできる人間じゃないって、わかってるから、余計に、だよ。

    (途切れ途切れに、呟くように言葉を伝える。体を蝕まれて痛いのか、時折眉をゆがめて)
    (それでも、伝えたい事はまだ沢山あって……)
    (……まだ沢山あるのに、もう時間がない)

     …っ あ……っ!!!

    (ずきん と全身が痛んで、ユーリの腕を掴む。爪が食い込んで傷つけてしまったかもしれない)
    (その痛みに耐えて、少女はもう一度、口を開く)

     ……ゆーり、さっき、言いかけてたこと……

    (問いかけようとした少女の瞳が恐怖に見開かれる)

    (……ユーリの向こうに、死神のような姿の魔王が現れたのだ)

     …っ?!!あ、やだ……っ こないで……!!!!!!!

     ”諦めろ”

    (その姿は偽者のユーリに変わり、囁く)
    (少女だけに見える、幻覚)

     ”さあ、もう時間だ”
    ”お前には、望む通りの夢を見せてやろう。永遠に”


     …いやっ!!!ユーリ…ユーリ…!!
    (取り乱して、幻覚を見つめながら少年にしがみつく)
    (彼が振り返っても、きっと何もない)
    (けれどジーニには確かに見える、魔王の姿)
    (体を震わせて、涙を零す赤い瞳は、すがる様に少年に向けられて)

     約束…ジーニを…殺して…!!
     お願い…っ!!!ユーリ…!!!

    (狂気に駆られたように、翠の少女は叫ぶ………)
    -- ジーニ 2013-05-25 (土) 17:34:24

1.二回目のバレンタイン Edit

  • (12月、クリスマス。ジーニはユーリに自分のことを話した。家の事、呪いの事)
    (……自分でもわかっていない事が多かったけど)
    (二人は呪いを何とかできないか、学園都市の巨大な図書館で数週間調べたり、魔法使いに相談に行ったり)
    (様々な手を尽くしたけれど、ジーニの中の魔法陣や、矛盾の魔王を消し去る方法は見つからなかった)
    (それでも諦めることなく、方法を探し続ける)

    (……日に日に少しずつジーニの体の中が、何か違うものに変わっていく)
    (怯えて眠れない夜もあったけれど、次の日ユーリに泣きつきに行って慰めてもらうと、落ち着くことが出来た)
    (何も事態は好転したわけではないけど、ジーニが一人で壊れそうになることはなくなった)
    (二人が調べたものは全部無駄だったわけじゃない)
    (調べた魔法のひとつが、ほんのわずかだけどジーニの体の侵食を遅くする効果があって)
    (スニェグーラチカがそれをジーニに使い続けることにより、かろうじて年を越す事が出来た)

    (そして)
    (少女はひとつ、心に決める)


    黄金暦249年 2月

    (今年もバレンタインのチョコレートを渡すからと、落第街の自分のお店にユーリを呼び出した)
    (手作りのチョコケーキをカウンターに置いて、ユーリを待つ)
    (真っ白なワンピース姿。とっておきのかわいいの。髪にはユーリにもらった薔薇の髪飾りをつけて)

    「ねえスニェグーラチカ、似合ってるかな?ちょっとはかわいく見える?」
    (ケーキの横に飾られた小さな手鏡の向こうには銀髪の少女が苦笑している)
    「もう何度目なのその台詞。耳にたこができてしまうのよ。ユーリたすけて…早くこの子を黙らせて…」 -- ジーニ 2013-05-24 (金) 22:28:19
  • (無力感は即ち未熟を理由とした諦め。それならば虚脱の時間すら惜しい。)
    (あの12月の日から2ヶ月が過ぎたその日まで、そう考えた少年は、走り続けた。)
    (この巨大な学園の隅から隅まで。気づけば主が変わっていた巨大図書館から、落第街の裏路地まで。)
    (多くのアルバイトで出来た縁から、時には己等の先を生きる教師まで。)
    (全てを当たり、それでも尚止まらない絶望。断崖に向かって歩き続ける。)
    (少女の苦しみが、少年には伝わる。であれば。少年は少女の前でずっと笑って。)
    (ゆっくりと訪れようとする夕闇へと砂場の砂を投げつける子供のように抗い続けた。)
    (僅かな幸福が、忍び寄る終焉への時間を伸ばせば、何かに感謝しながら、抗って、抗って。)
    (少年は心の中に、一つの何かを抱えながら。気づけば冬半ばを過ぎた2月。)

    (少年は落第街のメインストリートを歩く。かけられる声があった。そちらへと挨拶を返す。)
    (最近ではこの辺りを歩くことも多くて。顔見知りも随分と増えたように思う。)
    (けれど足を止めること無く歩き、そして辿り着いた先。)
    (初めて訪れた時。不思議な場所だと思ったその路地。)
    (いつしか随分と慣れたその場所へと歩みを進めて。)
    よ。ジーニ。
    (花の形をしたライトに照らされた扉を開けば、足を踏み入れた。)
    (見慣れた、と言える店内。そこに見えた見慣れない姿。)
    (お。と声を出して眉を上げる。それから笑って。)
    いいじゃん。似合ってる。前の浴衣もよかったけど、それも。
    (うんうん、と頷きながら、少年はカウンターへと近寄っていく。) -- ユーリ 2013-05-24 (金) 22:51:54
  • そうだわ!薄い色がつくリップをもらったの、つけようつけよう!!
    「……私だと似合うのに、ジーニだと子供の晴れ舞台みたいな雰囲気になるのは何でかしらね?」
    あっひどいの。翠の髪が子供っぽく見えるのよきっと!!
    (賑やかな話し声は店の外まで響く勢い)
    (意地悪な顔で笑っていた銀髪のジーニが、急に頬を染め、咳払い)

    「……ほら、ユーリが来るわ」

    (……翠の扉の向こうから、愛しい人がやってくる)

    (ジーニは振り向いて、一番の笑顔で出迎えるのだ)
    ……いらっしゃい、ユーリ!!

    (早速とっておきのワンピースを褒められる。男の人はこういうとこ鈍感って聞くけど、ユーリは違った)
    (……おせじかもしれないけど。それでもあれこれ頑張った気持ちがとっても報われた気持ちになって)
    ありがとう。これは兄様からいただいたのよ。
    ユーリもかっこいいよ?いつものかっこだけど、ふふふ。
    (はにかむ笑顔は、普通の少女と同じ)
    (ジーニは年があけてから、ユーリに涙を見せることはなくなった)
    (無理をしてるのかと聞かれても首を振って、「ユーリがいるから、大丈夫」と笑うのだった)

    ……自分の笑顔だけ、覚えていてほしくて

    (そんな気持ちは、ユーリは気づいてるかもしれない)
    (少しずつ、ジーニの時間は蝕まれているのは変わりはなかったから)

    今年はね、ユーリがくれたショートケーキを真似して、チョコケーキにしたのよ。
    (カウンターに椅子を並べて、ケーキの上にかぶせていた箱を取る)
    (シンプルなチョコレートでコーティングされたケーキ。真ん中には桜のマークが白い粉砂糖でつけてあって)
    ユーリのケーキ、びっくりするくらいおいしかったから、ジーニのじゃかなわないかもしれないけど…
    食べてみて?今お茶を入れるからねー♪…あ、それとも食べさせてあげようか?
    (いつもよりはしゃいだ様子で、からかい半分、本気半分にそんな台詞。眠そうなユーリの目をいたずらっ子の笑顔がのぞく)
    -- ジーニ 2013-05-24 (金) 23:19:55
  • (向けられた笑顔の中に在る思いを、少年は薄らと気づいている。)
    (そのような生き物であるが故に。けれど、それを口に出せずに居る。)
    (少女の中の諦観を認めたくないが故に。)
    そっか、ジーニ、お兄さんいたんだっけ。似合う服を贈れるってことは、ジーニのことちゃんと見てるってことか。
    いつでも制服姿に定評のあるユーリでございます。
    服装センスとか欠片もないからさ。部屋ではジーンズにシャツとかそういうだらしなさです。
    (ししし、と笑って。制服の襟元を摘んでから、はっとした表情で。)
    あの、その、ちゃんと洗ってるんで…何着かあるんで…普通の服買えよって言われたらうん、はい、言い訳もございません…。
    (肩を落としてしょんぼり。)
    (少女の気持ちに気づいていて尚。少年のできること。いつもの通りの姿を見せること。)
    (己に向けられる笑顔へと、笑顔を返して。できることならば、少女を笑わせたくて。)
    (削られる少女の時間の中であっても。日常の欠片を失わせたくなくて。)
    俺の、って、あぁ、去年の桜の。
    (言われて思い出したようで、眉を上げて、用意された椅子へと座る。)
    (箱の中から現れたケーキを見れば、少しばかり苦く笑って。)
    やっぱり飾り付けのセンスは、ジーニの方がずっと上だな。
    褒めてもらえて嬉しいけど、多分ジーニのケーキのほうが随分うまいかんな…?
    月とスッポンとは言わずとも、ファミレスのセットとコンビニのパン…ってこれあんまりいい例えじゃないな。
    (上からケーキを覗きこんだり、側面から眺めてみたり。)
    (バレンタインにもらうことのうれしさ故か、それとも別の何かなのか。)
    (誂うような少女の言葉を受ければ、ふるふると首を横に振って。)
    俺に食べさせてたら、ジーニが一緒に食えなくなるだろ。パスパス。
    折角なんだし、二人ゆっくり過ごそうぜ。
    (一月前までに比べれば、随分と時間に余裕ができたようにも思う。)
    (しかしそれはつまり、打つ手がなくなり始めているということで。)
    ということで二人分の皿とフォークを寄こすが良いわ! -- ユーリ 2013-05-24 (金) 23:52:26
  • ユーリの制服姿、ジーニ好きよ?ふふっちゃんと洗ってるの知ってるからだいじょーぶ!
    (笑ったり、しょんぼりしたり、ころころ表情の変わるユーリに少女は心からの笑顔)
    (きっとずっと心配してくれてるのに、ジーニの気持ちわかってるのに、いつもこうやって、笑顔をくれる)
    (その優しさが嬉しくて、大好きで……少しだけ悲しかった)

    ああ、でもジーンズにシャツのだらーんとした姿も見たいな!
    ユーリの部屋、ジーニまだ行った事ないもんね?うちに来てもらってばっかり。
    今度襲撃に行こうー♪
    (そしていつもこんな風に次の約束をしていた。未来の約束を作ることで、その日まで頑張ろうと思えたから)
    (それもユーリは気付いてると思った。無茶な約束もいつも頷いてくれたから)

    (お互い、嘘だけど、嘘じゃない笑顔。本当のことは言えないだけ)
    (嬉しい気持ちも、楽しい気持ちも、全部本当だった)

    (一生懸命作ったケーキ、ユーリが眺める様子をにこにこ見守る)
    えへへ…そうかなー?頑張って練習したからね?
    さっきの話の兄様にげっそりするほど食べてもらってたどり着いたものがこちらです(えへん)
    ジーニのおうちは、兄弟多いの。でも皆それぞれ住んでる場所がちがくて…兄様はジーニのためにこっちに来てくれたんだ。
    兄様はいっつも優しくて、何でもいうこと聞いてくれるの。
    (それはきっと全部知っているからなんだろうね。心の中で付け加える。今はそういう話を表に出したくなかったから)
    あ、二人のケーキ、月と星くらいにしておきましょう?どっちも違うけど同じで、綺麗なものよ。
    (うまいこといった!そんな顔で紅茶をカップに注いで並べ)

    今日はゆっくりしていけるの?お仕事かなって思ってから嬉しいな。
    …ん、じゃあジーニもちょっとだけ、ね?
    (お皿とフォークを追加して、三分の一と三分の二にケーキをわける)
    ユーリのほうがおおきいやつ。ユーリに食べてほしいんだもん。ふふっ。
    ささ、まずはひとくち、ご賞味くださいなの!
    (並べた椅子に座って、隣でユーリが食べるのを待つ。瞳はきらきら期待に輝いて)

    (前だったらこの後調べものをしようと出かけていた。でも)
    (もう出来る事はほとんど、やりつくしてしまったのだ)
    (多分これが最後。そんな想いは心の奥に仕舞い込む)
    (でも多分、伝わってしまったから、ユーリは二人でゆっくりって言ってくれたのかもしれない)

    …えへへ、食べたらね、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ。
    (なんでもない様子で、さりげなく、一言)
    (でも、隣でにこにこしているけど……少しだけ顔が強張っている)
    -- ジーニ 2013-05-25 (土) 00:34:19
  • 部屋来てもらうのはいいけど、ほんとなにもないかんな…?お茶とか辛うじて出しておしまい、とかになるかんな…?
    (服の数だけでなく、そもそも物自体を殆ど持たない少年。)
    (襲撃に来られることが嫌というより、そこであまり持て成せそうにも無いことのほうが申し訳無さそうであった。)
    (信じているならばその日はきっと来るのだと、そう考えているかのように。)

    ジーニのお兄さん頑張ったな…そのげっそりって糖尿なってないかな…会うことがあったらとりあえず聞いてみよう…
    (なむなむ、と未だ見ぬジーニの兄へとエールのような冥福を祈るような想いを向けつつ。)
    へぇ。いいな、家族が多いのは。ジーニのお兄さんだったら、んー…(なんとなく頭のなかで想像して。)
    ……とりあえず格好良いんだろうなぁ、というところまで想像できたけど、実物見ないとそれ以上は想像できないか。背高いのかな?
    (目前の少女一人から想像するのはなんだか難しくて。ほわほわとしたイメージを頭の中に保ったまま。)
    どっちが月でどっちが星なのか、っていうか、俺のケーキの方はそんなに大層なもんでもなかったかんな…
    (ジーニが手ずから入れた紅茶。香りを嗅げば、少年の表情は少しばかり柔らかくなって。)
    (少女の危惧を聞けば、笑いながら首を緩く、横に振った。)
    大丈夫大丈夫。バイトは調節してるし、そもそも俺ももうすぐ4年だしな。少しずつ減らしてるよ、仕事。
    (卒業した後のことを考えれば、自分が抜けても大丈夫なようにすべきであって。)
    (島の中、端から端まで姿を見せていた少年のアルバイトも、その種類を減らし始めていた。)
    そんじゃ、ありがたく多めにいただきます。
    ふふふ…ご賞味とか言ってもいいのかな…?俺の判定は厳しいぜ…大体赤い大地の制限時速くらい厳しいぜ…?
    (顎に手を当てて、にやりとした笑みを浮かべてポーズを決めるが、あまり決まっているわけでもない。)

    (ジーニから伝わる、その感情は果たして、決意と恐怖と、合わせて何か。)
    ……っ、あぁ。じゃあ取り敢えず、聞くのは食べてからにしようか。
    (喉を埋めた想いを吐き出すように、言葉を並べた。当たり障りの無い言葉。)
    (聞きたくはない。それを口にだすことができるはずもなく。するはずもなく。)
    それじゃあ、いただきます!
    (ぱしん、と胸の前で手を合わせて。)
    (二人分けたジーニのケーキ、己の分へとフォークを入れた。そのまま口へと運ぶ。)
    (目を閉じたまま、もぐもぐと口の中で咀嚼する。しばらくしてから、嚥下して。)
    …やっぱりジーニのほうが美味いわ。(少しばかり悔しそうに笑った。)
    (それから、少しずつ。ケーキを食べていく。もしかすればそのペースは、普段に比べれば遅いかもしれず。)
    (食べ終えた時に待っている何かを、少しでも引き伸ばしたいと考えているからか。)
    (けれど、砂時計の砂は落ちれど、止まることも、そのまま戻ることも無くて。)
    (この二ヶ月、少年が学んだ通り、先へ、先へとだけ進んでいって。)
    (二人他愛ない言葉に笑いあいながらも、気づけば、ケーキは残り少なく。) -- ユーリ 2013-05-25 (土) 01:21:24
  • (ユーリの返事は、いつも通り。ちゃんと笑えてたみたいと安心して)
    (食べてる間だけは、ほかの事全部忘れるつもりで頷く)
    (チョコケーキのほうが自分のケーキよりおいしいって言ってもらえると)
    (照れながらも嬉しそうに自分も食べ始めるのだった)
    ほんとかー?ほんとにほんとかー?赤い大地の制限速度はゆるっゆるではなかったかな…?!
    ……でも自信作なので信じちゃうの。魔法薬売れなくなったらケーキ屋さんになろうかな?
    (にやりとユーリのポーズをまねてみる。ユーリ本人が決まらないのにジーニが決まるはずもなく)
    (口に何か物を入れていたらやばかった。というような間抜けな姿)
    (……ちょっと後悔して顔が赤くなる。赤くなりっぷりは耳まで)
    じ、ジーニも食べようっと、いただきまーすっ!

    (甘くてほろ苦いケーキを食べながら、話の続き)

    (どれだけ物がないの?と部屋の事を聞いたり、服の趣味を聞いたり)
    (男の子の部屋なんて、見たことがなかったから、興味津々)
    (しかもユーリの部屋!何もないと困った様子のユーリをさらに根掘り葉掘り質問攻めだった)
    (……もしかしたら、見に行けないかもという想いが、どこかにあったから)
    (詳しく聞いて知っておきたかったのかもしれない。無意識に)

    (兄の話もした)
    (娼館を経営してるとか、街の冒険者に顔が聞くとか、ちょっと怖いような話)
    (ユーリの想像とは全然違う、子供のような姿なんだけど、それだけは秘密にしておいて)
    (今度引き合わせてびっくりさせようと思ったり)
    (……もしかしたら、彼と兄が会う時に、自分はいないかもしれない)
    (そんな考えがよぎると、慌ててケーキを口に入れて、紅茶と一緒に不安を飲み込む)

    (明らかにジーニの様子は不安定だった)
    (……でも、一生懸命明るく振舞って。ケーキがなくなるまでは、って)

    (二人は同じ気持ちだった。言いたくない。聞きたくない)

    (……でも、言わなきゃいけない。もう時間がないから)
    (……でも、聞かなきゃいけない。もう時間がないから……)

    だけどもう少し、このまま、笑顔を眺めていたいの
    -- ジーニ 2013-05-25 (土) 02:27:19

相談ゾーン Edit

+  http://notarejini.orz.hm/up2/file/qst079485.gif  

Last-modified: 2013-05-30 Thu 17:53:08 JST (3983d)