軍勢殺しの大魔法 †
カーマローカがシュライン氏族に統一されて代理戦争が終結した際、各国は一斉に手を引いた。
三国間を結ぶ要所であったにも関わらず直接的な介入を避けたのは、期待されていた鉱物資源が見つからず、悪路ばかりで兵団駐屯に不向きなどという理由であったと史書には記されている。
だが一説には、各国が差し向けた軍勢をカーマローカの民が撃ち破ったため撤退せざるを得なかった、という話が伝わっている。
なんでもカーマローカ辺境伯が編み出したという「重装殺し」と「騎兵殺し」の魔法で軍勢を壊滅せしめたという。
『万の重装歩兵と千の騎兵を、貴女の魔法で撃破したというのは真でしょうか?』
『0が二つほど多いのではなくて?』
『……魔法のほうは否定しない?』
『そう大袈裟なものでは御座いません。毒と音……人の術を使ったまでです』
そういって当時のカーマローカ辺境伯は薄く笑った、という。
瓜二つ? †
『当代のカーマローカ候を見た時は本当に驚きました』
『ええ、ええ……容姿から声、喋り方、仕草まで3代前のカーマローカ候にそっくりで……』
『生き写し、とはあのようなことを言うのでしょうなあ』
かの昔、カーマローカと親密な関係にあった某国伯爵家の家令の言である。
非常に古い歴史を持つカーマローカ領であるが、他国から婿を迎えたという話は今まで一つも無かった。
血の純潔を保つために他国との姻戚関係を結んでいない、というのが一般的な説である。
近親婚を繰り返したため、代を経ても非常に容色の近い人物が現れる、と考えられているようだ。
がしかし、それに反証するような噂が一部でまことしやかに囁かれたことがある。
初代カーマローカ辺境伯は魔術で不老不死を得た。
2代、3代と適度な時間を置いて人々の記憶から薄らいだ頃に、再び新たな辺境伯として現れるのだ、と。
借金王 †
カーマローカ領は古くから複数の国や人物から多額の金を借り入れていた。
今までに返済期限を破ったことはなく、利子分もキッチリと支払っていたため、貸し主らも快く応じていた。
だが一部からは訝る向きもあった。
カーマローカが多額の金を借り入れておきながら、それに見合うだけの工事や事業を行った様子が見られないからである。
『フォルトゥナ様、なぜウチは使うあての無いお金を借りているんですか?』
「貨幣というのは翻って考えれば信用に繋がり、してみると債権の多寡は債務者の信用力にちょ」
『すいません何を言っているのか全然分かりません』
「では仮定の話をしましょう。貴女はAさんにお金を貸しています」
『はい』
「AさんがBさんにお金を奪われようとしています。放っておけば貴女の貸したお金は返ってきません。貴女はどうしますか?」
『Bさんと協力して奪ったお金の分け前を貰います』
「ふふふ、素直に分け前を貰えるかしら? 貴女とBさんの仲がとても悪かったら? 死んでも協力したくないとしたら?」
『ちょっと迷いますね。止めに入って怪我をしたくは無いですし』
「貴女が止める素振りを見せることでBさんがお金を奪うのを止めるとしたら?」
『Aさんを助けます』
従者の答えを聞いたカーマローカ侯は満足気に頷くと、証書の山に再び取り掛かったという。
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