黒き道連れ 自分の影は 尻尾のように伸びていて その始りは解らない 光に眼を背けて初めて それに気づいた
- (夏が空気まで茹だらせる短な夜だ。太陽は西へ姿を隠して暇を得たというのに、残滓は建物や大地に張り付いて猶も熱を注いでいる)
(歓楽街の灯りも遠く、突き立った廃墟に空を狭められて、最も光から遠い場所で、饐えた臭気を嗅いでいる)
(スラム街の地面にゴミ扱いで転がる屍体が、血を広げて腐っているのだ。狭隘な路地の隙間の空から、覘くように月が輝いている)
(屍体の傍でそれを見上げると、脳の隙間の奥底が振動して、震え上がる)……あ、あ、ぁ……。
(涙が零れるのは、何もまつろわぬそこの死人へ捧ぐためではない。ただ月光が涙を喚起する。涙の雫に満月の光が反射した)
うっ、うぅ…………。(ぞるりと脚を動かせば、ついてくる無限の闇。濁流の魔力が、尾の様に引かれて己に追従する)
(匂いを感じた。屍臭でも安価な香水の匂いでも、なんでもない。誰であるかも解らぬまま、路地を歩いてその香りに惹かれてゆく) -- キャスター
- 宵闇の帳の向こう側で、深淵の奥底で何かが鼓動を続けている
深夜の路地裏。本来其処では感じられない、色濃い瘴気
キャスターが覚えているかどうかはしらない。もし覚えていれば見覚え程度はあるそのスラムの周辺。街の外周
本来、其処では臭うはずのない、濃い瘴気と、ドス黒い魔力の匂い
それらは腐汁と血に混ざって屍臭以上に吐き気を催す死の匂いを醸しだしている
空気が心なしか、赤みを帯びたように錯覚する。空が心なしか、堕ちて来るように錯覚する
夜の底で澱となって沈殿する殺意が、渦巻いている --
- (その匂いは。夕刻に照りつける茜色のようであった。腕を広げる焔のようであった。蹂躙する兵の師団のようであった)
(夕陽が街を照らせば全ては緋色に染まり、緋色の火焔は渦巻いて全てを炭化させ黒にして、黒の師団は侵略で破壊を成す)
(ペンキを刷子で塗るのと同じく、塗り替えて別物に変えてしまう力がそこにある。匂いが強く、強く増す)
(上天の月から視線を感じる旅に、心臓が引き裂かれる。己の咎と確信するこの痛みは、瘴気の中でも意識を保たせてくれた)
(辿り着いた先、硝子の抜けた窓の形に見覚えがある。けれど、懐かしさは感じない。もう、すっかり変わってしまっている)
(空気が夥しく血を含んでいる。この場所には一つの“死”が満ちていた。否、それを齎す殺意そのものが満ちている)
(緑髄色の森林でかっこうに聴き入りながら深呼吸をするかの如く、居心地の良さと快楽を感じた)
…………殺し、て、くれ。殺してやるから……。(満月の視線が背に突き刺さっている。脳髄が揺れる。記憶が揺れる)
(殺意の渦巻くその“眼”の中へ、どろどろと濁流の魔力を流しながら歩んでいく。何故だか懐かしい気持ちを憶えながら) -- キャスター
- (突如、そんなキャスターの眼前に1人の乞食の女が躍り出し……目前で物言わぬ屍と化す。瘴気に当てられすぎたのだろう。失神して、口角から泡を吹き、全身の穴という穴から血を流して絶える)
(女はセミロングのツインテールの似合う少し幼い顔立ちの女。たったそれだけ。他には何も判らない)
(何も判らないゆえに、判らないという事実が金切り声を上げながら何度も何度も脳髄を殴打する)
(女の身体から鉄錆色の魔力が染み出し、女が飛び出してきた路地の向こうへと消えていく)
(その先には、屍の山に四ツ這いになって這い蹲っている、夜色の獣)
(フルフェイスの隙間から血を啜り、死臭の漂う石畳に顔を埋めて、蟲のように蠢いている) -- バーサーカー
- (黒塗りの光景は、輪郭だけ取り出されて色を失くしている。だから、眼の前で斃れて血を撒く哀れな人影も、単なる人影のままだ)
(影は夕闇に伸び、その人を生き写す。伸びたり、縮んだり、ぶれたりして歪な黒で大地に姿を生き写す)
(今出逢った人影も、まるで誰かの影の様に地に伏している。それを何かと見紛うのはきっと俺だけしか居ない)
(全く自分勝手な想起が、月を見ずとも湧き上がる。共振する。それだけで沢山なのに、俺は敢えて月を見上げた)
(輪郭が判然とした満月は、俺の記憶を揺すぶる。望んだ痛みが、湧き上がる。記憶から、現実から、鏡合わせで湧き上がる)
(痛い)
(痛い)
(痛い)
(純粋に思考はそれだけとなり、神経は打ち震え機能をなくす。痛みを噛み締めて、ぶるぶる噛み合わない歯を食い縛った)
ふっ、ふふ ふ、は ははは、、はっ あ、ははは、は………………。
(感情を司る心は寧ろ、静かに搖蕩っている。これは俺の望んだ痛み。望み通り、慈雨を享ける草花の如く悦ぶのみだ)
う、げっ、 げほっ…… げうっ ごほ う、ぐう……………。(月光が呉れた“痛み”に浸っている間に、身が蝕まれていた)
(瘴気だ。陶酔して思考もままならぬ頭は、死屍から染み出した魔力が向かう先を、容易には判別できない)
(水気のあるものを啜る様な音が聞こえる。深闇が溜まった路地から、規則的に音が流れてくる)…………。
痛い…………もう、嫌だ 寂しい、寂しい…… 殺してくれ 望みを諦められるぐらいに絶望させてくれ……。
(まだ、涙を頬に伝わせる。今しがた犠牲になった骸が呼び起こした記憶は、酷く焼き付いたが一過性のものだ)
(すぐに寂寥がやって来る。それは世界ぐらいに大きな巨人の掌で、一人きりの俺を握りつぶすのだ。心臓が、萎縮する)
(たまらなくなって気を外らそうと、音の先へ、視線を向けた)
(獣の餌場だ。餌が血肉で、獣は全身鎧の戦士の格好をしているのを大目に見れば、それは獣の餌場に他ならない)
(世界が倒錯している。その獣に、圧倒されるような殺気を感じた。するとぞくりと、肩甲骨の間に怖気が奔り抜けたのだ)
────………………………。(立ち去りもせず、近づきもせず、それを神聖な行為のように、見つめている) -- キャスター
- (男が現れた気配に気付いたのか、獣は咀嚼をやめて首をあげ、不恰好な二本足。黒鉄で覆われた後ろ足で立ち上がる)
(ジャラジャラとチェインメイルが擦れる音がする。そのあとヒタヒタと赤が血溜まりに落ちる音がする)
(瘴気を纏い、漆黒の稲妻を全身に迸らせる深淵の獣)
(右前足に張り付いた黒く長い、棒状の爪を引き摺り、月夜の狂気に塗れる男へ近づく)
(真っ黒な爪は地面と擦れても音がならない。なるはずもない。擦れたはずの地面は抉れている。画用紙の上に火箸を走らせたらおそらくこうなるのではないだろうか。そんな風に思わせる傷を大地に残す)
(大地が傷つけば紅いインクが傷に走り、血となって噴出す)
(まるであべこべでまるでデタラメな世界がそこにあった。或いはキャスターが望んでいた終わった世界の向こう側がそこにあった)
(終わってしまった世界から、終演のはるか向こうから、舞台袖の更に奥の闇からそれは歩み寄って来る)
(しまいにその獣はキャスターの目前にまで至れば、すぐさまその右前足を振り下ろしてくる)
(獣に意志はない。野生すらない。あるのはただの暴力のみ)
(怒りではない、哀しみでもない憎悪や愛などもっての他。その暴力には一つの意味しかこめられていない。即ち)
(諦観) -- バーサーカー
- (罅割れた世界が手の届く眼の前にある)
(用済みと銘打たれた廃屋に、同様の宣言を突き付けられた亡者たちが棲まう、この地は街の廃棄場だ)
(けれど、腐葉土に埋まる一寸の虫螻も森の一部であるのと全く同じく、このスラムは街の日陰の一部でもある)
(良かれ悪しかれ、存在している。捕食者がそこへ押し入り環境を乱すのに、俺は文句を差し挟む心算はさらさら無い)
(罅割れているのだ、眼の前の世界は)
(粗悪品のナイフを振り翳し恫喝を行う者も居て、赤子が汚水に沈められて間引かれる事だってきっと日常だろう)
(けれど、石畳の残骸を剣で抉り取られ、朱色の液体がその狭間から噴出し、屍骸が塵屑と同じ扱いで積み重ねられる光景なんて、)
(誰も拝んだ事があるまい。少なくとも、この場所では。だから、ここは間違いなく罅割れて、壊れかかっている)
(物語は小さな願望を言葉の上に実現させたものだ。俺は、「世界が跡形もなく崩れ去って欲しい」という願いが叶ったように思えた)
(罅割れを押し広げてやれば、卵のように呆気無く、ぼろりと崩れて全てが潰れてしまうのだと)
(けれど、それは思ったより素敵な光景では無い。ただ、儚く空虚なだけでなんの感傷も浮き上がってこない)
(過酷な運命を経験して、それを押し付けた世界を狂う程に恨んだ。世界に恨まれるのならば、その呪詛返しをしようと思った)
(だからどうした。へし折られた人生は蘇らず、ただ心の裡側でいつまでも残響を繰り返すばかりだ。なんの意味も無い)
(この風景に微かな魅力すらも感じない。ただ、諦めが深まるばかり)
(そこまで考えて初めて、眼前の存在が放つ諦観へと気付けた。奇妙な、共感があった。無力に涙が零れ落ちる)
(また、光に満たされた月を見上げる。英霊として現界してから、幾度目かの悲痛を心に刻んで、思うは一つだ)
物品作成
(我が願いは聖杯に託す。もう、それしか縋るものは無い。藁以下の蜘蛛糸だろうが、なんだろうが、掴むには充分だ)
(掌に顕現した洋剣を、振り下ろされた暴力に差し向ける)があっ!!(月光華降り頻る中、我“ら”の成すべき事はただ一つ)
(無駄な藻掻きという、情けない意味をつけられた闘争のみだ)
(薄暗い路地で振るわれた二つの暴力は、一方が無惨なまでに叩き折られる結果に終わる。洋剣が折れ、爆けとんだ)
その時などもう待ってはいられない
早く早く早く 追いつけないぐらい早く
走れ アクセル!!
(詠唱が響き、身が軽くなる。洋剣が折れたその刹那に、僅かに逸れた斬撃の軌道を避け、黒い獣の向こう側へと走り抜けた)
俺は……俺の名はミグズ。“混ざりしモノ”のミグズ。意思も覚悟も無い獣であり、黒犬。ただの、敗残者だ。
(息が乱れる。“アクセル”が保つのは僅かワンアクションの間のみ。ただ、ただ、そう宣言して、二つの獣は向き合う)
来いよ、殺意ばかりのご同類。俺は敗残者だ。だけれども、どうしても諦められなかった女々しい敗残者だ。
だから、頼む…………俺が諦められるぐらいの力を。そしたら、もう、形振り構わず足掻くなんて、しないでよくなるから。
物品作成(今一度サーベルを顕現させ、構える。涙腺を大粒の涙が通り抜けて、地面にこぼれ落ちた) -- キャスター
- (偽の狂気と無の狂気。どちらも狂気であって狂気ではない。故に近く、故に判り……故にぶつかり合う)
(失った果てに全てを諦めた黒獣は笑うことを忘れ)
(失った果てに全てを憎んだ黒犬は嗤うことを覚えた)
(同色でありながらも毛色が違う。同系でありながらどちらも紛い物)
(狂気の皮を被った負け犬)
(故に喰らいあう)
(狂戦士の座を騙る黒騎士が左手をかざせば稲妻が迸り、黒犬へとくらいつく)
(3つの稲妻。宛ら大蛇の如く唸り声をあげてせまれば)
(既に狂戦士は其処にはいない。『此処にいる』)
(一足でキャスターの右側面の外壁に飛び移り、さらにその壁を蹴りつけてキャスターへと黒刃を振り下ろす)
(まるで、示されたスピードに対して己の力量を誇示するかの如く) -- バーサーカー
- (“キャスター”の諦め得ぬ高潔な精神は、一般の人々のそれを遙かに陵駕する黄金の魂とも呼べるものだろう)
(日陰に蒔かれた種も枝を伸ばして陽を求めるよに、鳥が暖かな新天地を目指して飛びだつかのように)
(けれど、けれど……その諦めの悪さが、今の彼を作っている。海原に落とした宝石を拾い上げようと、溺れながら藻掻くのだ)
(結局あるのは息苦しさのみ。“あの”死を迎えて、因果が己を英霊と化した今においても、それは変わらない)
(針穴から差し込む光の様に細い希望を頼りに、地獄から這いずり上がる。他の何を蹴落としてでも、絶対に)
(ならば、諦観から無我の境地に至り、刃を振り翳す眼の前の男は何を思うのか? 両者とも全く黒でありながら、対極)
(磁石の双極の如くに惹かれ合い、余りの距離の遠さに、砕ける程の火花を散らす。そう、そうだ。もう言葉など必要無い)
(不意に、黒騎士の手が動いた。雷鎚は指先を動かすぐらい簡単に巻き起こり、操り、降り注ぐ)
(暗がりのスラムへ、雷が空気を引き裂く音がごんと響いた。廃屋が音叉の共振を見せて、地面を軽く揺すぶった)
ストラクタイト(足元へ短剣を突き立てると、鍾乳石が大地から生える。それは3つの雷撃を受け砕けた)
(初戟を捌いた刹那に、黒い影が勇躍するのに気づく。自分の影そのものかと見紛う程の、光を欺く敏捷だ)
ぐっ……!!(サーベルを構え、力点を見極めて受流す。そう試みたが御しきれずに、吹き飛び、廃屋の壁を己の背が砕いた)
げっ、は……ぐ、ぅ……。(壁に綺麗な凹みが出来て、ぱらぱらと細かな瓦礫が土埃を伴って落ちる)
(意識が早速朦朧とし始めて、ふと、過去の過去へと仕舞いこんだ記憶が顔を出した。躰が憶えている。太刀筋に、雷)
!!! …………。(どうして心に浮かんだのかは知れないし、気にしたくも無い)
(けれど、嘗て黄金騎士団に所属していたあの頃のあの顔が、「それでいいのか」と囁くようで、歯を食いしばって立ち上がる)
(この有様を見て笑うのだろうか。そして、こんな処で立ち上がる俺をどう思うのだろうか。知るまい)
……。(黄金色の短剣、アサメイを手に握りしめて、唇から血を流して、黒獣を挑発する)……来いよ、負け犬!! -- キャスター
- (かつてどこかで振るわれた太刀筋)
(かつてどこかで放たれた雷鳴)
(しかし、それはまるで左右反対。反転した裏側の世界。さらにその向こう側)
(脳裏にちらつく、にやけ面。幸福が音を立てて崩れて、不幸が足元から浸水してきたあの頃の記憶)
(今とは違う世界の記憶。こことは違う世界の記憶)
(思い出そうが忘れようが何の意味もなさない、瑣末事)
(瑣末事の中で、にやけ面のそいつはただ安酒を片手に現れてそういった)
(にやけ面のソイツは憐れまなかった。妙な励ましもしなかった。いつもみたいに、やっぱりそのときもどこか諦観したような顔でしったような口を聞くだけだった)
(「お前の気持ちがわかるなんて、傲慢を言う心算はないよ」)
(「俺も色々な奴と死に別れたけど、そのたびに胸中に蟠る気持ちは全部違った……だから、お前の気持ちなんてわからねぇ。きっと俺が思ってるものと全然違う何かがそこにあるんだろうからな」)
(「でも忘れるなよ、そんなお前を見ているだけで心配で心配で仕方がなくなる連中だって、一杯いるんだ」)
(「だから、突っかかるなら俺相手にだけにしとけ、喧嘩も八つ当たりもいくらでも受けてやるよ」)
(「だけど、代わりに俺がもしお前みたいになったら……」)
(「俺も思う様八つ当たりしに来るから、覚悟しとけよ」)
(挑発に誘われるように、まるで言葉を理解しているかのように、獣は疾駆し、黄金に対して黒を振り下ろす)
(諦めた男。諦めなかった男。同じ結末に至りながら同じ始末に至らなかった、2つの可能性)
(黒が煌く。光写さぬはずの刃が閃き、その横薙ぎが振るわれれば)
(遠近感などまるで無視して黄金へと迫る。諦めきれないなら諦めさせてやると)
(希望も絶望で塗り潰して楽にしてやろうと、言わんがばかりに) -- バーサーカー
- (「涙を浴びるほど流した。けれど、今はもう案外いつもどおりでいられるよ」)
(気遣いに対してこんな内容の言葉を返し、コップを飲み干した。窶れて隈のできた顔で、ほほ笑みすらも浮かべてみせた)
(「一番辛い時に隣に居て欲しい人が居なくなっちゃったから。こんな時に慰めて欲しい人が傍に居ないから」)
(「俺はな、ただ虚しいだけになってしまったんだ」けれど、続くのはこんな言葉だ)
(恋人を喪った者なんてのは、古今東西絶えない悲報だろう。“あいつ”の耳にも、幾度と無く飛び込んできたはずだ)
(そんな奴は「半身を失った」と良く言う。成程その通りだと理解が及んだのを、とても悔しく感じていた)
(右眼が潰れ、右耳が潰れ、左手が潰れ、左肺が潰れ、左足が潰れ…………俺の片方が尽く損われたかのようだった)
(心はそのように凄惨な有様でも、歩む事を俺はやめない。諦めなかった。だから、独白のように口遊んだのだ)
(「思いが、恋心が、どうやったって消えない。切ない。この歳になって、亡くなったあいつに恋焦がれている」)
(「青臭い若者が愛の歌を捧げたり、愛を綴った便箋を送りつけたり、後先考えずやるみたいに」)
(「俺もどうなるか解ったもんじゃない…………なにしろ、愛しさも恋しさも冥界に縛り付けられているんだからな」)
(「だから、そう言ってくれると凄く身に沁みる」)
(「けど、お前が俺の隣でそう言うのは気に食わない。何様のつもりだ、畜生ッ、畜生っ!!!」)
(酒瓶を頭に容赦なく叩き付けて、その後は語るに及ばない。血の汗を吹くぐらいに、鬱屈した理不尽な運命への憎しみを)
(“もしも”の世界の出来事だ。黒塗りの深夜に見た白昼夢は、記憶の裡側に溶け込んで、砂糖の様に形をなくす)
(眼前の存在は、己の鏡合わせ。似通っていて、曇った部分がよく見える。互いの傷を嘗めあって、互いの傷を抉り合う)
うああああ!!!(振るわれた黒と全く同時期に、満月に輝いた儀礼剣が地面に突き立つ。先程と同じく隆起する地面)
(届かぬはずの斬撃をその石塊が防いで、崩れる。けれど、まだ止まらない)
いつでも即座に感じ取ることができる
お前が俺を見ている
あれは輝かな星月夜の下でのこと
遙か記憶の彼方にある透明な思い出
だが俺は何年経っても覚えている
だが今ここで忘れよう
地面がお前の膝を呼んでる
何度でも思い出すまで教えてやる
時間はあと少し
祈るような仕草で後悔でもするがいい
早くしろ
地に伏せる気分はどうだ
頬を撫でる土の香りは
そこからお前の顔を見せてみろ!!
────ドラッグダウン!!
(詠唱に含まれるのは憎しみ。数えきれない年月に育まれた憎しみ。ただ、それだけが地面へ伝わる)
(隆起した石塊が膨張して大きくなる。空の月を捕まえられるくらいに、大きく大きく聳え立つ)
(すると、それは彼の意志を反映するように大きな大きな掌へと変わって、その手は空へ翳される)
(そして、その掌は────黒獣へと、叩き付けるように、隕石の勢いを持ってして、振り下ろされた)
(黄金の儀礼剣を手に持つ、片割れの黒獣は何故か涙を流していた。憎しみだかどうかなんて、誰にも解らなかった) -- キャスター
- (感情の全てを投げ打った。思い出の全てをかなぐりすてた)
(そんなものは重荷でしかない。失われたものは戻ってこない。そんな重荷を背負ったところで待っているのは、戻らないものを夢想するだけの地獄)
(一筋の光の向こう側。希望の光は常に差し込む。まるで命のベットをつりあげるように、明滅してはレイズを要求する)
(片方はジャックポットするまて積み上げるといった。胴元を蹴り倒して取り戻すと、未だに砂漠の中で無くした蜘蛛糸を探す)
(片方は降りるといった。全てに背を向けて賭場から消え、未だ眠ることも許されないまま、荒野を彷徨っている)
(振り下ろす先を失った拳。憎悪の矛先は憎悪の産まれた大地に吸い込まれ、這いずる獣を殴殺せんと唸りをあげる)
(しかし、黒騎士はとまらない)
(むしろが踏み込み、振り下ろされる寸前で天高く、満月を背に月明かりを掠奪する)
(黒騎士を押し潰すはずだった拳は大地を抉り、道を砕き、、血の代わりに盛大な土煙を血霧のごとく舞わせる、黒獣が視界から刹那消えれば)
(次の刹那、既に黒は疾駆している。大地の拳を、上腕を、二の腕を踏みしめ、あっというまに肩に到る)
(お前も諦めてしまえばいいと夜が囁いて)
(瘴気と稲妻によって肥大化した長剣が……否、殺意の大剣が大上段から振り下ろされる) -- バーサーカー
- (土煙が地面を停滞し、雲を作る。それを脱ぎ捨てて月の下、巨大な掌を蹴って獣は翔ぶ)
(見蕩れるぐらいの戦闘芸術他ならず、そうして目に入る夜のランプの灯りと共に、確かに言葉が聞こえてきた)
(話し言葉や書き言葉と違う、感覚の言語が聞こえる。それは眼の前の黒騎士が言い、世間を流転する運命が叫ぶ)
(「諦めろ」)
(最愛のひとが突然奪われた時にも聞こえたあの声だ。満月を視認するたびに聞こえるあの声だ。あの声だ)
(本音を明かせば何度も何度も諦めかけてきたのだ。枯れた花へと幾ら水を注いでも、栄養のある土を盛っても意味がない)
(無意味であれど諦めきれない。そうして無為を無様に続けるばかり。弱気が忍び込むのは至極当然なのだ)
(だけど、恋しく愛しい。ただそれだけが棘の様に心へ深々と突き刺さり、痛みをいつでも伝えてくる)
(だから、運命が鉄槌となり具現したかと思えるような、殺意ばかりの大剣にさえ立ち向かえてしまうのだ)
物品作成(濁流の魔力が渦巻き、作り出されるのはまたもサーベル。握られて、構えられる)
びくともしない 梃子を使っても 滑車を使っても 景色は身動ぎ一つせずいつもと同じように佇んでいる
うんざりした場所を変えるために 三本の釘つき王冠に祈った ダビデの女神はそれを聞き入れ 不屈の精神を齎してくれる
今ならライオンの口だって両手で抉じ開けられるんだ 見てろよ あっと言わせてやるぞ
来い リインフォース
(魔導が身体強化を施す。同等? 莫迦を言ってはいけない。相手は狂気、狂気の産物。たかが魔導は戯れ事だ)
その時などもう待ってなどいられない
早く早く早く 追いつけないぐらい早く
走れ アクセル
(既に見せた加速の呪文を唱える。その、加速の対象は何か? ───対象は)
その時などもう待ってなどいられない
早く早く早く 追いつけないぐらい早く
走れ アクセル
早く 早く 早く 早く 早く 早く 早く
早く 早く 早く 早く 早く 早く 早く
早く早く早く早く早く早く早く
早く早く早く早く早く早く早く
(加速!加速!加速!魔導が怒涛に押し寄せる。ただ少し、少しの間に一連は行われて、暴力へ正面から対峙した)
(乱調もせず重なる瞳は、どうしてか悪意の柱ではなく黒鎧そのものを見ている。剣だけではなく、それだけを見る)
(実体なき憎悪に溢れていた心は静まり、ほんの一瞬だけ、純粋に一撃を放ってみたくなる。ただ、真っ直ぐ闘志の載った一撃を)
(刳れ、掘り返され、血に塗れ、内蔵を吹き出し、変わらぬものは月灯りだけのこのスラムの一画が、神聖な場に変わった)
────《陵駕叶わぬ神速の突き》
(左腕が切り飛ばされ、肩口から先が空虚になる。斬撃を擦り抜けて、音速を超えに超え、何もかも置き去りにした突きが放たれる)
(音も光もなくして、光速をも陵駕する一撃と化す。それは、過去に置いてきた慥かなる勇士の力を載せられた一撃)
…………諦め、ない、絶対……もう一度、あの、とても、とても、とても、楽しくて、暖かい、日々をっ……!! -- キャスター
- (無音の後に、黒鎧を穿つ一点の刃)
(黒騎士の身体が壁に激突し、自由落下を始めたそのとき)
(思い出したかのように時間が流れ出し、傷口から朱が咲き乱れ、建材は砂城の如く崩れ、キャスターを中心に音速の牙……ソニックブームが発生し、追撃とばかりに夜を切り裂く)
(二重の攻撃を受けて、黒鎧は猛獣に抉られたかのように罅割れ、ジャイアントに殴り飛ばされたかのようにへこむ)
(黒騎士の身体が痙攣して、全身から鮮血が噴出す。ただでさえ連戦続き。ただでさえ大消耗を強いる狂戦士の座。ガタが来ないほうがおかしい)
(それでも、なお、立ち上がる。諦め果てた故に。自我など欠片も無いが故に立ち上がる。黒を赤で彩り、黒で夜を侵し、立ち上がる)
(倒れるという機能すら、既に黒騎士には残されていない)
(夢中を漂う亡霊の如く、永い後日談の黒騎士は立ち上がる)
(運命は皮肉の果てにある。2つの黒は気付いていない)
(かたや気付くほどの機能を有していない)
(かたや恐らく気付きながらも目を背けている)
(どちらの願いも同じ願いで、そしてどちらの願いも既に叶っている)
(何故ならいま蹂躙している果てのこの大地こそ、この世界こそ、この日常こそが――)
(互いに渇望し、切望し、そして聖杯に願ったものなのだから)
(瘴気が渦巻く。稲妻が渦巻く。その有様はまさに『永い後日談の黒騎士』……終わった世界の向こう側。取り返しがつかない、すでに定められたバッドエンドの向こう側)
(二周目なんてあるわけもない。あったところで手が届くはずもない)
(それでも、夢見たその先に目を凝らせば……)
(諦めを踏破した敗残者の涙をねめつければ……)
(すでにフルフェイスの向こうの瞳は紅く濁った血の色ではなく)
(どちらの黒も求め果てた、あの蒼で。あの、暖かかった、あの、尊かった……)
(そう、諦めた果ての空にも、諦めることを諦めた果ての空にも時折垣間見えた、欺瞞の希望の色にも似た光……)
(悪夢の果てにまで見た――『束の間の蒼穹』)
(似たような境遇の男の娘が消えた夜。妻が消えた夜。理由なんてわからない。知るはずも無い。おそらくその男すら知らない)
(だが、そのときですら男は泣かなかった)
(表情では少なくとも、泣かなかった)
(「なぁ、*****」)
(「俺はさ、今が続けばいいと思ってるんだよ。それ以上には何も望んじゃいない」)
(「俺の人生みんなもうお釣りみたいなもんだからさ、貰いすぎちまっちゃいないかっていっつも不安でさ」)
(「だからお祈りしてんだよ。いつも」)
(「これ以上なんて欲しがらないから」)
(「これ以上、もう取り上げないでくれってさ」)
(ただ諦めたような、疲れ果てたような顔で、そういっただけだった) -- バーサーカー
- (これまでのどの日時にその話が交されたのかは判らない。もしかすると、いつか無理やり慰められたに仕返しで、)
(わざわざ呑めぬ筈の酒を土産に持参して、「俺が呑めぬのだから呑め」と言い訳をつけて過ごした月夜だったのかもしれない)
(「磨り減るばかりではないか」)
(「****は、それでいいのか? ────そうか」)
(「そう、本気で思い込めるくらいに達観した男だよ、お前は。知りたくもないのに知ってるんだ、俺は」)
か……っは……!!(悪意の斬撃は左腕を馘り取り、血を夥しく滴らせる。極撃を打ち込んだ右掌は反動で痺れ、ずたぼろだ)
(躰のほうも無事といかない。身体強化は有用なれど、耐久性は変わらぬままだ。巻き起こる真空波と衝撃波が、身を削った)
(襤褸雑巾のていだろう。傍目にも格好がつかないし、縊られた血は止まらない。砕けた剣の柄が地面に落ちてからんと音を立てた)
(瓦礫の中でよろけて、脚をとられそうになる。散々の姿でも立ち直る。無理やりに、吹き出る魔力が躰を支える手足となる)
(「俺は、他の誰もが認めたって、絶対に理解なんてしてやらないからな」)
(「証拠に俺は足掻き続ける。奈落の底でも、助かる見込みが那由多の彼方にすらもなくたって」)
(「次に────次に、その顔を見せてみろ。その時は────その時は────────」)
主人は冷たい土の中に
骨董品に舶来品 主人の宝楽の数々は 埃の満ちた部屋へ顔を並べて黙ってる
盗賊が窓から押し入る 足元に立ち上る黒い綿ぼこりが 月に照らされて人影のシルエットを作りだした
犬の頭に人の身で 肘掛け付きの紅色椅子へ腰掛ける
「私は宝楽を護るもの」昔主人が座ったその椅子で ふてぶてしくも犬が云い
それから招かれざる客は とても恐ろしいものを見て それから何も見れなくなった
最期に見たものは石炭の如き緋い目 彼の魂はそれにくべられて灰と煙になったのだ
ギャリートロット
(詠唱で、濁流の魔力の裡側に形作られるのは人型の黒犬だ。紳士服を着こみ、犬畜生の癖をしてどうにも慇懃である)
ギャリートロット、腕を貸せ……。
(そう命令を伝えると、小さく頷き召喚者の側らに立ち、その姿を腕の形に変じさせて左腕のあるべき場所へ収まる)
(流血も止まり、腕が蘇生する。最早、死に体の躰が今一度戦闘に耐えうるまでに修復され、眼球に生気が篭り始める)
(この氣力の源泉は胸の中にある。剣を交えたあの瞬間、対極にして同類が交錯したほんの一瞬の事だ)
(俺“達”は過去に戻った。網膜に焼き付いた青色を忘れない。一目見ただけでそれだと解った)
(夜明が来るような青空の色彩と輝き。照らす力となり得る光。けれど、けれどもそれだけに、)
(夜の闇へひた隠しにしていた、二度と見たくない現実が浮き彫りにされて眼の前に突き付けられるようで)
(耐え切れないぐらい辛かった。ただ、辛いばかりだった)物品作成
(一際大きな光が掌の中に産れる。雷鎚が空気を打つ音も断続的に聞こえ、何度も何度も響き続ける)
(涙の雫がそこに落ちて、蒸発してどこかへ消える。睨みつけた先は、黒騎士そのものだ)
(左掌に精製されたのは手に収まるくらいに小さな銃で、単純なフォルムが闇夜に映える。それを突きつけた)
お、まえ…………なんで、なんでっ………!!!(狂気も忘れ、幼子の様に涙を落とす。どうやったって止まらない) -- キャスター
- (より、鮮明になる太刀筋。より、効率化された動き)
(自我なきただの暴力装置と化しても、その身に染み付いた技は色褪せず)
(鮮やかに過去をキャスターに想起させつつ、迅速に迫る)
(瘴気を纏い、異形と化したその左腕。逆腕を空ける理由は最早ただ殺戮のみに特化した証)
(黒い影が蒼い軌跡を残して、疾駆する)
(何故という問いに答えるものはない)
(ただ、過去の言葉が反芻されるのみ)
(過去に戻って尚過去、そして未来。何処に消えたわかりもしない、ありもしない過去と未来。その中で同じ蒼い瞳は静かに呟く)
(「もし、右手を伸ばさなくてもいい日がくるのなら」)
(「もし、左手に剣をもてない日がくるのなら」)
(「そんときはもう……休んじまおうかなってさ」)
(自分の為ではなく、愛する者達の為に)
(未来の為ではなく、過去の為に生きた男)
(その成れの果てが舞う。銃把を握る左手、その持ち手を握り潰そうと)
(何一つ握れなくなったその左手を伸ばす)
(そう、『その左手は空を切り』) -- バーサーカー
- (記憶の断片が折り重なる。一つ一つが結晶構造のように、過去を綺羅びやかに映し出している。天に簒奪された理想郷だ)
(それを拭い去ろうと瞼を閉じても、塗り広がるばかりで消えるどころか色褪せすらせずに、脳裏へ昔を描き出す)
(“彼”の最期の言葉をきっと俺は聴いた。ここではないどこかで、この時でないいつかで、確かに聴いたのだ)
(けれど一言も返答できない。あの言葉に口を挟めるだけの歳を重ねていない。“あいつ”の人生そのものを垣間見た気がした)
(小川を両手で掬って水の全ては知れない。垣間見た裡側の景色は海のようで、内包されるもののあまりの大きさに俺は黙り込んだ)
(そして、それを見せた言葉が意味するものは、それまでの人生全てを放棄せしめるに足るものだった)
(「────ああ、その日は」)
(「今なのか……」)
う、う、うぅぅ ぅぅうう…………!!! 嫌だ、クソッ、こんなのは絶対に嫌だ!!! こんな皮肉があってたまるか!
(接近する黒い颶風へ左手を差し出す。今しがた、斬り飛ばされて空白と化した腕を穴埋めて、道理を打ち崩して突き出す)
(黒騎士の抜け殻が近づく。剣よりも太刀筋よりも風貌よりも蒼き目よりも、今を象徴する左手が近づいてくる)
望むように生きられないのなら……死んでんのと同じだ!! この、馬鹿野郎おおお!!!!!!!
(握られた《磁気炸薬複合式弾体加速装置》が唸りを上げ、衝撃と暴走する力場を振りまきながら射撃を行った)
(月鏡も揺れる轟音が天を揺らし、炸けた)
(けれど、それは。夢の中から差し出した手のように空を切る)
(精一杯の否定の声は、真空で響かせたように何にも届かず消えてゆく)
(弾丸は何も撃ちぬかず、そこには“あいつ”の左手があるのみで)
(絵画に描かれた過去のそれと同じく、この景色は絶対に変えようもなくなってしまったのだと)
(突き付けられる気がして、泣いてしまった。俺の左手が崩れてゆく)
…………あの、満月も空の裏側に隠れて……朝は、どうやっても来ると言うのに………………。
(口の端から血を落として、干涸らびた魂は蜃気楼を見るような心地になり、脚を蹣跚けさせる)
なんで、俺達の日常は戻って来ないんだろうな…………うっ、えっ、う、うぅぅ……!!!
(堰を切り涙がぼろぼろ濫れる。命を天秤にかけた殺し合いを行なっている場には不釣り合いな涙が落ちる)
なんて、長い夜なんだ……!!! う、う、クソッたれ、屑め、馬鹿野郎、馬鹿野郎、馬鹿野郎。なんで、お前まで。
ダークミスト(黒い霧が発生して、1リーグ四方を闇に包む。もう、何も見たくないのだと、心の底から否定する)
(その黒霧が晴れて、朝の暁が見える頃にはキャスターの姿はもうなく、その晩に起こった出来事を証明できるのは)
(崩れた廃墟の数々と、屍体の群れだけだった) -- キャスター
- (今宵の満月は、狼や狂犬が歓迎するかのように遠吠えするのが聞こえそうな)
(何処か不安を煽りだすような不気味さを湛えていた)
(それは、紅い血に染まる様に視えるかの様な満月だからだろうか?)
(満月は本来物事の成就する時期でもあり、新月で決まった方向性が頂点に達し 良くも悪くも結果がはっきりと表れる日でもあるが)
(満ちる事を象徴するかのように日本ではおめでたいと捉えられがちだが……)
(占星術上では満月の場合月の位置は太陽と対立するように180度の衛(オポジション)の状態となり、緊張状態にあるのだ)
(また、満月の時間帯は事故や殺人が起きやすいのも事実)
(気味の悪さが浮き彫りになるのは、これから訪れる場所……スラム街にある孤児院、キャスター達の城へと赴くからだろうか……?)
(向かう間も呼吸法をゆっくりとゆっくりと行い、1分間の呼吸の数をなるべく少なくしながら、孤児院の扉をノックして訪れた) -- アイリス
- 何方ですか…?(現れ迎えたのは、黒肌の大男)
(一見して何の変哲もない、いつも通りの孤児院…だが、何か違和感を感じる。ただ、アイリスがそれに気づく可能性は少ない、それはアイリスにとっては、余りにも今まで通りの事だから)
(その違和感の正体、それは…人の気配が、一切しない事。以前とは違う、寝静まったとはいえ微かにする人の気配すら、今は完全に無いのだ)
ようこそ、あれから色々調べ、ようやく貴方のサーヴァントのクラスが掴めましたよ…正体までは、届きませんでしたが
さて、再度来て下さったと言う事は…同盟の件、返答は是という事で、よろしいのですかな?
(普段よりも更に禍々しい気を纏った男が、アイリスに問いかける。首には目や舌、耳に牙、骨などを繋げて出来た、不気味な首飾りをかけ、長柄の斧を持ったその姿は)
(邪教の司祭と呼ぶにまさに相応しい姿だった) -- シャンゴ
- 御機嫌よう(彼女の持つ雰囲気のせいか、微笑みは冷たさを帯びていて 黒人を捉える)
(一見すると以前と変化も何も感じない……けれど何処か違和感を感じるのは、自分の考えすぎか……それとも今日の天体の影響なのだろうか?)
(今日の天体のアスペクトは、火星が天王星と150度の角度であり、これは暴力的な組み合わせだ)
(突如の変化や上下関係の反転等といった、急速かつ急激な大きな変化がやってくる予兆でもある)
(変化を歓迎し、かつそれを恐れないのならば使える配置ではあるのだけれど……)
(この決断と天体が 私にとってどういう影響を及ぼすか……)
(そんな事を考えながら訪れたせいか、違和感が妙に気になるのは疑心暗鬼か)
(人の気配が一切しないけれど……何処か可笑しいのは考えすぎか)
そう……随分と調べるのがお早いのね(正体がばれなかった事には安堵する。真名がこいつらにばれたらたまったものではないから)
ええ、今日はそのお話しをしようと思いまして……(頷いて顔を上げる)
(彼の地方の魔術なのだろうか?首の周辺にかけられた、人骨や耳、舌、眼、牙等人と獣の骨と感覚器のアクセサリーが非常に気味が悪い。見ているだけで吐き気を催しそうだ)
(犠牲になった者の無念が、嘆きが、怒りが、怨念が、哀愁が、苦しみが、呻きが混じり澱みシャンゴの周囲に纏わり絡みつくかのようで……)
(長柄の斧を持った姿の不気味さと相まって、邪神の使いの様でも、化身の権化の様にも見えた) -- アイリス
- それはよかった、では、同盟成立ですね…マスター・アイリス・フィヨルド。
どうぞ今後ともよろしく…さて、同盟を結成したばかりで申し訳ないのですが
つきましては早速、手伝ってもらいたい事があるのです…まずは、ついて来て頂いてよろしいでしょうか?
(そう言って、男は返答すら聞かぬまま、スラムの一区画へと向け、歩み始める…) -- シャンゴ
- ええ……他の敵を殲滅させるまでの間宜しくお願いしますわ(微笑んで礼を交わして)
お手伝い?(返答も答えていないのに先に歩み出すシャンゴ)
(……おかしい)
(不気味さや偽善等は垣間見えてても、表面上は丁寧な物腰の人物でありこちらの返事も聞かないままに歩み始めるのが少し引っかかった)
(それはやはり考えすぎかもしれないし、多少は相手も表面上は同盟を組んだ事で他者に対する事の完全なるペルソナが少し剥がれて居るせいなのか……?)
(不穏さを感じるのは、相手が邪教の匂いを醸しだしているせいなのかもしれない)
(……そう思いながらも黙って後をついていく) -- アイリス
- (程なく孤児院からそう遠くない、スラムの一区画につく)
(視覚化長を持つアイリスなら一目でわかるだろう、この場所は明らかに異常だと。)
(捻じ曲げられた魔力や、気の流れといったものはある一点に収束する様に、歪な流れを描いている)
(それだけではない、魔力に宿る属性が、この場所だけ明らかに、炎と闇の2属性に偏っているのだ)
(それをなしているのは、魔力を持つ者には見えるであろう、巨大な何かしらの魔法陣の仕業だ)
(より視覚化の力を高めれば、その陣から様々な人の思念の様なものが、僅かに流れ出ているのを感じ取る事ができるだろう) -- シャンゴ
- (黙って後をついていくが、スラムの一区画の近くへ寄っただけで明らかに異常な情景が視える)
(捻じ曲げられた魔力の流れを意図的に集めている場へと向かっているのだろう)
(収束するように歪な濁流の魔力が描かれるだけでなく、集められた魔力が燃え盛る炎の熱を帯びたものと、全てを深い終焉の底へと呑み込み誘うかのような闇の属性が舞い踊るかのように凝縮し、偏り、独壇場と化したステージ……)
(そして、視えるものにしか視えない巨大な魔法陣)
(一歩、また一歩と歩み進める度に色濃く深く纏う魔力は濃霧の様で)
(その陣が地獄とこの世の境目の扉かと思わせるかのように……人々の怨念が、虚しさが、魔力と共に流れて助けを求めるかのように、訴えるかのように叫びやすすり泣く様が視える様で)
…………これは?
……貴方は 一体何をしようとしているの…………?
(眉を顰め、表面上の笑顔すら失せて 代りに歪な表情をシャンゴに投げて問う) -- アイリス
- くくく…よくできているでしょう?この魔法陣はですね…生きているんですよ…(対して、満足げな表情を浮かべ、男は語る)
この巨大な魔法陣は見ての通り、魔力の流れと、属性の偏重化の効果を持っています。
効果は見ての通りですが、何せ持続時間が短くてですね…。なので、人間を素材に使い、陣自体を存在するだけで効果を放つ、魔法疑似生命体へと造り変えつつ、この呪術を発動させたのですよ
結果は見ての通り、素晴らしいでしょう?本来なら一日程度しか効果の無いこの呪術が、既に一ヶ月以上も残っているのです
(諸手を広げ、観客に拍手を促す役者のように、興奮しまくし立てる)
(そう、この陣の素材は人間、この魔法陣は、多数の人間の犠牲を元に作られた…それ自体が魔力を持ち、魔力の続く限り効果を発揮する生きた魔術陣なのだ)
私、この間ランサーのマスターにあいましてね、彼女がホムンクルスだと聞いたとき、魔法生命体という存在にヒントを得て
これを作成したのですよ(流れる思念は、素材にされた人間達の残った思念だろう…それらは止むことなく、思い思いの無念を告げ続ける) -- シャンゴ
- …………生きている魔法陣?(満足げな表情の男とは対象的に、不純物を見る様な眼で睨みつける)
……ええ、そのようね……意図的に行った事までは伺えましたけれど
……………………
何を?
何を始めるつもりなの…………?(黙って耳にしていたが、既に一か月以上も残っているという異常な状況に表情は更に歪む)
(人間を材料に使うことも、邪神の司祭が孤児院を営んでいる事からも、孤児を生贄に使用する為なのは連動して連想されるので驚かない)
(しかし、魔法陣自体が疑似生命体となり、世に息づきながらも効果を発し呪術を行っていたと言う事は……既に相当な犠牲が出ている筈だ)
(その技術を駆使する力と、既に一か月も何かしらの効力を及ぼしていると言う事実に驚愕を隠せない)
(今宵の天体は、火星と冥王星が120度)
(火星と冥王星の組み合わせは攻撃や征服、報復などの出来事を暗示し、120度にある時
火星の攻撃要素は冥王星の支配欲によって導かれるだろう)
(そして、冥王星と天王星の90度)
(天王星は改革を、冥王星は支配権力の破壊と再生を象徴する為、世界が大きく変化する様な革命的を暗示する)
(そしてこれは冥王星発見前後に生じた配置であり、世界の支配体制を大きく変える革命としての戦争が起こった事態に当たるのだ)
(配置的にも、これは潜在的に強い破壊衝動を持つ配置……またそうした事件に巻き込まれやすい運命の暗示でもあるのだ)
(また、火星と90度の位置にヘッドがあり、またヘッドが天王星と120度の位置に存在し)
(ヘッドと冥王星が実に奇妙な絡みを見せた配置でもある)
(どちらも運命的な意味を象徴し、ヘッドは天命と。冥王星は時代と関連する)
(突然の変化はあるだろうと踏んでいたけれど)
(これは予想以上に大きな事態が既に招かれている可能性が……高い)
(生きた魔法陣の作成と、1か月に渡っての呪術)
(そして、ランサーのマスターがホムンクルスだという事実)
(既に突如の真実を知ることになるが……それ以上に 今は)
そんなことはどうでも良いわ……貴方のこれから起こしたい現象から見ればきっと些細な事
……ねぇ、隠さなくていいわ
貴方の起こしたい事は…………
暴力的、攻撃的衝動、征服、報復、支配、破壊……
それらに関わる出来事ではなくて?
魔法陣だけでなく……実に天体の配置もぴたりとおぞましいくらいに……今日の配置は貴方の欲望の権化を体制化したようだわ………… -- アイリス
- ふむ…マスター・アイリス、やはり貴方は鋭い…(にやり、と笑い)
私がやろうとする事、それは…キャスターの宝具を、この魔法陣を使い最高出力で行使させる事です。
これ程の莫大な魔力を使ったキャスターの魔術ならば、苦もなく他のサーヴァントや、マスターを一網打尽に出来るでしょう。勿論、この区画もただでは済みませんが、そんなのは大したことではありません。
マスター・アイリス…私の望みは、私の満足いく、最高の戦いを。
ただただ純粋に、血で血を洗う至高の闘争を、私が希望するのは…ただそれだけなんですよ。勿論、聖杯に望むのもね。
この世に尽きる事の無い、無限の等活地獄が顕現したら、それはどんなに素晴らしい事か、貴方も想像した事はありあんせんか?
(ここへ来て、もはや隠そうともしない、己が破壊衝動を、アイリスへと高らかに告げ)
そしてマスター・アイリス、貴方には、バーサーカーにはその一端を担ってもらいたいのです。引き受けて、くれますよね?
(狂気の籠った視線が、アイリスへ向けられる、断れば今にも襲いかからんばかりに) -- シャンゴ
- (嫌らしい程に慄然とする歪な、黒人司祭の本性を象徴したかのような笑み)
……キャスターの宝具を……ね
(確かに。3騎士のクラスは魔力抵抗を持ち、中でもセイバーやランサーの強い魔術抵抗を持つ相手が居る為にキャスターは全サーバント中最弱だと言われているけれど)
(発する魔術が全て大魔法の様な強大な破壊力を帯びれば、セイバーやランサーであれひとたまりもないだろう)
……でしょうね。この区域と引き換えに貴方は聖杯の勝者へと駒を進めるつもりなのね?
(最高の戦いを――……そう発する彼の恍惚とした表情は、戦争・闘争・不和・争いの種の全ての物事を喜びとするかのようで)
…………そう
(生憎、私は別に現世に地獄を顕在するつもりは毛頭ない)
(私が目指す先は黒魔女であり、呪術を行い人を貶める側だとしても、戦争自体を願っている訳ではない)
(高らかに笑い高揚している彼とは対照的に、私は非常に冷静であり言いかえれば冷めた様子すらも持ち合わせていた)
(狂気の籠る視線と問いは、私を捉えて逃がす様子は無い)
(ああ、そうか……彼の同名の真の目的は)
(私のサーヴァントであり つまりはあんたの手駒にする為か)
ええ、良いわ……
丁度良かったのよね。セイバーとランサーはもし……バーサーカーの実力だけで押された時に私が助成するかもしれないでしょう
その際は、非常にアイツらの魔術抵抗力は非常に厄介で邪魔だったの……
何より……他の聖杯戦争のライバルが減ればそれだけで今後がより一層楽になるわ……
他の勢力を消し去るまで……貴方とは一時的に敵対意識を消しましょう
(微笑んで、実に友好的でつややかな笑みで快く承諾するような返事を返す) (歪んだ月夜に明るく照らし出されて光る黒い禿頭も)
(紅い月の光のせいか、それはまるで彼が頭から鮮血を浴びたかのようだった)
(敵の返り血なのか、自身の鮮血なのかすらわからない……けれど) (それは、彼の行く末を暗示するかのようだった) -- アイリス