名簿/485624
- (先日の轟爛の活躍に寄り、漁夫の利を得つつも栄樂軍の援護をした形になった六稜軍は規模を拡大)
(栄樂軍ほどではないとはいえ、それでも以前よりははるかに位階を近づけて再び文を送りつけてきた) (今度の文はゾドへの援軍要請の文であった) (出来る事なら本国に増援の手配もして欲しいという懇願である。近々、ゾドは包囲され、おそらく篭城を余儀なくされる) (そうなれば中央からの増援がなんとしても必要となる。増援到着までの時間をすこしでも早めるためには……位階の高い皇子である轟爛に頼むのが一番てっとり早い) (前線で収奪した金品をいくらか贈りつけつつ、宗爛は再びそう文を轟爛へとしたためていた) -- 宗爛
- (前線で活躍を続ける轟爛へ、宗爛から激励の文と物資が届いた)
(率いる軍勢がそれぞれ違うせいか、前線であまりお互いに出会うことはない。此処の所はもっぱらこのような文でのみ交流している) (しかし、物資が届いたのは初めてのことである。それもそのはずだ。六稜軍と栄樂軍では規模も位階も全く異なる。どちらかといえば、格下の六稜軍に対して栄樂軍が援助の為に物資を送っていることのほうが今までは多かった) (しかし、今回は六稜軍からの物資援助である。無論、それが含む意味が何もないわけではない) (宗爛は暗に兄に頼んでいるのである) (更に苛烈に、更に熾烈に……略奪のために進軍してほしいと) (言うまでもないことではあるが、それをわざわざ強調したのである) -- 宗爛
- ふん、宗め(書簡に目を通すと、片頬を吊り上げるいつもの笑いをみせた)
この俺に糧をよこすとは、俺に暴れろと言っているのか。この俺に (ふふふと含み笑うと、手の内で書簡をぐしゃりと潰す) (宗のあの赤い目が思い浮かぶ 下級皇族にありがちの服従と諦観の淀みの奥にある鋭い輝き) いいぞ、もっと俺を楽しませろ 貴様がこの血塗れた乱世をどうあがいていくのか俺に見せてみろ 面白ければよし。つまらぬものであれば…(喰らい潰すまでよと、言葉の続きを口の中で呟いて、高らかに哄笑した) -- 轟爛
- --
- --
- 血のような夕焼けに染まる戦場に、不気味な影が幾つもそびえている)
(もずのはやにえのような、それは、鋭く尖らせた長杭に突き刺された人間であった) (戦で討たれた兵士や、捕虜になった兵士が、この世のものとは思えない、恐怖と、痛みに歪んだ形相で、赤く染まる空を、血に染まる大地を見ていた) (それらを、芸術品を鑑賞するように、楽しげな顔で見上げている男がいる) (大爛帝国第10皇子、轟爛である) --
- いいぞ(上機嫌の唇から言葉が漏れた)
こうでなくてはいかん。戦争というものはな (伝令!と駆けてきた兵士に視線をやった)何事だ ほう?村を占拠したか。ふむ、よし、よし。近くに森があったな。切り倒して杭を作れ。長く、高くそびえたつような 全員串刺しにして、丘に掲げろ。蛮族どもに見せ付けるのだ。我らこそが、侵略者であり、略奪者である、とな! -- 轟爛
- (暴君に従う血色の鎧を纏った兵士は、下された命令に些かの戸惑いも見せず、頭を垂れた)
(兵士の一人が声高に聞く) 「閣下!老人はいかが致しましょう!」 --
- 串刺しだ。肛門から突き刺し、口から出せ。杭には油を馴染ませろ。よく刺さる -- 轟爛
- 「御意!」
(その隣の兵士が舞台役者のように一歩前に出て、背筋を伸ばして声高に聞く) 「閣下!子供はいかが致しましょう!」) --
- 串刺しだ。兄弟は並べて掲げろ。姉妹は串焼きのように連ねて刺せ。 -- 轟爛
- 「仰せのままに!」
(壮年の兵士が立ち上がり、敬礼をする) 「閣下!女はいかが致しましょう!妊婦もおります!」 --
- 無論串刺しだ。孕み腹は裂け。赤子は引きずり出して刺せ。些かの漏れもゆるさん -- 轟爛
- 「ははーー!」
(深々と礼をして、兵士は村人へと向かっていく。また新たな悲鳴と死と恐怖が、この丘に広がっていくのだ) (轟爛は丘の上より、赤き兵士たちに向き直り、拳を突上げた) --
- 童を吊るせ!老人が恐怖する!老人を吊るせ!童が恐怖する!
男を殺せ!女が恐怖する!女を殺せ!男が恐怖する!根絶やしにしろ!破壊しろ!踏みにじり、打ちこわし、略奪の限りを尽くせ! この地に1000年消えない恐怖を刻め!この夕日よりも、赤い恐怖を!! -- 轟爛
- (歓声が、津波のように丘を揺るがした。轟爛の手にあわせ、雄たけびが、死の恐怖を乗せて、どこまでも響いたという
黄金歴223年、七月のことであった…) --
- (進軍中の轟爛の元 いつの間にか馬を並べている男の姿
男は頭から足まで黒いフードで覆われ、男か女かすらもわからない) -- 影
- (貴様、と言いかけた側近を手で制し、薄ら笑いを浮かべながら、謎の黒い人物に視線を向ける)
俺の横に並ぶとは、中々肝が据わっているようだな。何用だ -- 轟爛
- 名乗る名はございません 私はただの影にございます……(影は懐から書簡を取り出した)
調べた限りのローディアの陣容、装備、戦術、全てはそこに もう1つ、ローディアの商人連合への「打診」を行いました……彼等は大爛の旗を隠し持つ事とになりました -- 影
- 密偵か (薄笑を崩さぬまま書簡を受け取り、端から端へと、鋭い視線を渡す)
ふん、商売人だけのことはある。銭勘定には長けている、ということか もうよい。下がれ 後方で部下に褒美を受け取るがいい -- 轟爛
- 御意に… 大爛帝の御下命、努々お忘れめされるな
(そして影は馬群にかき消えた) -- 影
- (轟爛の元に使者が現れた 轟爛の領有する土地を西進する軍が通ること
そしてその将、バトゥアとの謁見を願っての随分へりくだった内容だった) -- バトゥア
- (行進、謁見共に快諾の旨を使者に伝えた轟爛は、薄笑しながら玉座に座していた)
(バトゥアは誰もが認める名将である。だが、轟爛はこの将軍に対して、それ以外の何かを感じていた) (高みをめざし、天下を我が物にせしめんという、皇族らの野望に似た匂いを嗅いでいた) -- 轟爛
- (恭しく使者は礼をしてその場を辞した そして数日の後、約束の時間きっかりに男は現れた
伴の者は途中で止まり、その男だけが一人轟爛の元へ近寄っていった) 進軍と謁見の許可を頂き、感謝する轟爛殿(「殿」男はそう言った 様ではなく殿だ つまり相手と自分を同列に見ているのだ) 此運良く我等試一族は西方侵出のための軍を3年前から準備していた 此度の西伐はよい時運が重なった 我等は穂先として先陣を切るつもりだ -- バトゥア
- 流石は帝国の槍よ。先陣は譲らぬといったところか
(並の者なら、一瞥だけで震え上がってしまうような轟爛のいてつく視線が、真正面から突き刺さる) (将の身でありながら、自らを皇族と対等と表現したバトゥアに、口角がつり上がった) だがいくさにかけては俺もいささかのこだわりがあってな 先陣の誉れはそうやすやすと取らせはせんぞ 帝国のもののふとして、共に競いあおうではないか (さわやかにも見える笑みと共に差し出した握手 それをバトゥアが受けた時。「みしり」石さえも握りつぶせそうな握力が襲い掛かった) -- 轟爛
- (石の様に厳しい表情のまま強張ったかのような男の顔 そのまさに石像がごとき様は微塵も轟爛を恐れていはいない様子だ
それはまさに、練磨の猛将の顔・・・)我らの馬は早いですぞ 急がねばなりませぬな轟爛殿(表情を変える事も無く、差し出された手を返す・・・ 男の唇が微かに釣り上がる ミシミシとその手の骨が軋む音、バトゥアは一瞬だけ轟爛に厳しい視線を送ったその直後だ 素早く轟爛の親指を捕まえ力を加える もちろいきなり此処でその指を折るような事はしない)・・・お戯れを -- バトゥア
- なに、俺の見立てでは会戦まで一月ほど間がある そう急く必要はあるまい
(ふっふっふと邪悪に開かれた口から、嘲笑めいた声が漏れだす バトゥアの手を握り締めている手に更に力を加えようとした瞬間) ぬぅ (親指が絡め取られ、逆に折られそうなほどに曲げられる 視線と力がぶつかり合い…) ふっ (笑って息を抜くと、するりと力を抜いて手を放した) 許せ。豪傑をみると、つい血が騒ぐのだ またいくさ場で会おう (くるりと背を向けて、謁見の終わりを示した。バトゥアが去りざまに、その背に声を掛ける) そういえば…帝国の歴史の中で、優秀が過ぎる将軍が「事故」に遭い非望の死を遂げているのは知っているか (邪悪な横顔が、バトゥアを振り返った) 貴様も気をつけるんだな -- 轟爛
- (轟爛が背を向けてすぎに、バトゥアの側近が近づき、耳打ちするような仕草を取った) 申し訳ない轟爛殿 席を外さねばならない事を申し上げる
(もちろんコレは芝居である 相手が「自分から話を切り上げる事を苦に思わぬための」古風な儀式のような気遣いだ) 今まさに我が帝国は危きこと累卵の如し 子らは皆平和と、何よりも強き者を求めている・・・ 轟爛殿もよくよくご案じなされよ あなたもまた、優秀な将だ -- バトゥア
- (大爛帝国の中央部に広がる大平原の南端に位置する都市国家「煙台」)
(首都爛京より遥か南西に位置し、南部の有数な都市六稜よりも南にある。) (そこは帝国の南部の鎮守として築かれた大都市で、背後には東西を分ける大陸中央山脈、前方は) (密林を切り開いて作られた広大な開墾地と草原に囲まれ、高台に位置するその都市は万全の守りを誇る。) (その都市からの連絡が2〜3ヶ月前より途絶えていた。) (223年、この年は反乱が相次いでいた、当然南部の守護として置かれたこの地にも兵を派遣せよとの) (命令はとうに下っているはずだが。巨大な朱色の城門は天を遮る壁のように閉ざされたまま沈黙していた。) (送り出される伝令の早馬はみな消息を絶っていた。またかの都市より送られる者も皆無であった。) --
- (草原一面に、血色の旗が翻り、万に達する軍勢の鎧や槍がキラキラと輝いている)
(赤死隊──轟爛が所有する私兵の大軍隊である) (全てが選りすぐりの精鋭で、帝国最強の部隊とその名を轟かせている) (小高い丘の上、魔獣「牙王」に跨った轟爛は、沈黙を続けている城門をじっと見下ろしていた) こちらの軍勢は見えているだろう。さあどう出る。(そう呟くと、傍らの飛爛へと視線を落とす) これまでの経緯を話してもらおうか。部下から話は聞いたが、この地へ先陣したお前の口から聴いてみたいのだ。飛よ。 -- 轟爛
- はい
(呼ばれて進み出たのは兜の代わりに、ゴーグルのついた皮のフードを被った黒髪の少女。) (白いワンピースとズボン、毛皮のブーツ。その上から複雑な幾何学模様に編まれたカラフルな) (毛織物の肩掛けをかけた姿は武装した軍勢の中で浮いていた。およそ武器らしいものは) (腰に下げた弓矢一つだけだろうか。) (大柄な轟爛と比べると大人と子供程に体格に差があり。騎獣にまたがった轟爛を見上げて) (いる。その瞳は晴れ渡った頭上の空と同じ色をしていた。)
すでにお聞き及びの通り、煙台市は南部の守護を任されながら、2ヶ月に渡り 篭城を続けております。粛清の勅命の折、習いに従って私ども、華桌は煙台軍の指揮下に 入る予定だったのですが…。彼らからは何の便りもなく、またこちらの呼びかけにも応じません。 (まともに言葉を交わしたことのない腹違いの兄へ言葉を述べる飛爛の顔は初陣の緊張からか) (強張っていた。) そこで、先日、直接真意を問いただそうと、軍を伴い行ったところ…。 (視線を遠く丘の上へ向ける、平原のなだらかなくぼ地をはさんで、向こう側。) (そこには城壁の前に柵を築き、布陣する軍勢の姿があった。) (その数およそ20,000、騎馬も騎獣も多くその戦列の中に観られる。) -- 飛爛
- ふん。腑に落ちんな。(部下のそれと変わらない報告を聞いて鼻を鳴らす)
(主人の苛立ちを感じ取ったのか、猪とも、狼ともつかない巨大な魔獣は低く、唸り声を上げた) 人は利で動く。此度の篭城にはいくばくの利も無い。 軍も出さず、ただ篭り続けているだけで何が出来る?不可解な事ばかりだ。 お前はどう見る、飛。(射抜くような視線を、ぎろりと落とした) -- 轟爛
- (飛爛の背に電流の痺れに似た悪寒が走った。まるで目の前の魔獣の口の中に居るようだと思った。)
それは… (思わず言いよどむ。ほんの一瞬の間に、すさまじく重たい空気が沈殿した。) -- 飛爛
- っと、失礼、はい失礼。兵隊さんちょっくら通していただけますかな?
(居並ぶ兵隊の隙間をひょいひょいとくぐりながら、ふらりと割って入った男がいる。) 帝都生まれとはいえ、幼くして華桌へと参られた姫様は巨大な牙を持つ獣が怖くて 泣きそうであられる。なにせ華桌の地では軍獣が少ないので。ほら、姫様スマーイル (突然割って入った男は、飛爛の頬を指で持ち上げた。あにふんのよー!?と怒る飛ちゃん。) え、私、姫様の家臣を務めております、クラトと申します。 姫様は戦は未経験にございまして。本件に関する諸事細々、私めに一任成されておられたのですが。 責任感の強い姫様に置かれましては。「帝都より大の兄君がお越しなさるというならば。 私が代表として出なければ失礼に当たる!」と意気込まれまして。 参上仕ったしだいでございますが…。(むーにむーにと顔をこねくられてすげぇ面白い顔になる飛ちゃん) あとの説明は私が現場責任者といたしまして、横から口を差し挟む非礼をお許しいただけないでしょうか? --
- ちょっこねすぎよ!離しなさい!? -- 飛爛
- おや、これは失礼、姫様は今日もよき柔らか具合でございますね。 --
- どう見ると、聞いている (刃物のように鋭い視線が、飛爛の沈黙により、その冷たさを増していく)
(そんな折に現れた闖入者に、片眉を跳ねて視線を移した) ほう、貴様が代弁するというのか?だが、些か礼儀に事欠いているようだな (にやりと笑ったかと思うと、腰の長剣を素早く抜き放ち、真向から振り下ろした。銀色の刃は、クラトの眉間に触れる寸前で止まった) 俺の言葉を遮った非礼は、貴様の首では足りんぞ。俺に忠誠を見せた妹に免じて止めはしたが次は無い (刃を引いて腰に納めた) 話せ -- 轟爛
(刃が振り落とされる一瞬、クラトは眉一つ動かさずぎらつく切っ先を見つめていた。) (むしろ驚いたのは飛爛の方であった。) ははっ、閣下と姫様のご恩情深く愚心に刻みます。 (ひざまずき、深い礼を取るクラト。地面に向けられた額から数滴血が落ちた。) え、では僭越ながら申し上げます。この南方の地は元来水銀の少ない土地です。 加えて先日の大地震の影響もさほどはうけませんでした。全国的な凶作とはいえ。 もとより豊かな煙台の倉庫にはまだ大量の備蓄がございましょう。 それらの資源は有事の際、南部諸族のみならず飢餓に苦しむ諸国へと送られるはずですが… 彼らはその義務すらも怠っております。つまり、ただ座して待つだけで、他の都市は弱り 彼らは強くなるというわけです…。 臆病な持てる者が故の反逆の戦法…と私どもはにらんでおります。
(その時、煙台の城の方から、平原を駆けてくる馬が一騎。その背に使者の旗をさしている。) ほら、いまさら何かいいわけでもしに来たのでしょう。 叛意がなければ、閣下の軍が到着なされた時点で、早々に陣を払い城門を開くものだと思われますが・・・。 -- クラト
- 滅ぼされるとわかっていてか?(一つの都市国家が反旗を翻したところで、すぐさま粛清されるのは眼に見えている)
だとしたら、随分と悠長な反逆だな。(くっくっく、と唇から漏らすように笑うと、遠方よりこちらへと駆けてくる使者を見た) 言い分は聞いてやらねばなるまい。どのような答えであれ、罪は免れえぬがな。もうよい、下がれ (クラトを視線で下がるように命じると、飛爛をじっと見下ろした) 華桌には…帝国でも類を見ない航空戦力があったな、飛よ。シャツァルといったか。あれは素晴しいな。 帝国全土へ配備できれば、戦の歴史は変わるだろう…。地形に邪魔立てされず、馬よりも早い。 隠密裏にことを運ぶにはまさにうってつけではないか、なあ、飛。(いつの間にか、轟爛は身を乗り出し、飛爛の顔を覗き込むように凶悪な笑みを見せている) -- 轟爛
- (恭しく礼をしたクラトが下がると、飛欄は再び一人その場に残される。)
彼らは…我ら南方の諸族を蛮族と蔑み、帝都から離れているのをいいことに自ら王のように 振舞うことも少なからずありましたので。 (獲物を狙う獰猛な巨大トカゲのような兄の視線に、今度はひるむことはなかった。) 兄上様、恐れながら申し上げますが、シャツァルは本来戦のための道具ではありません。 赤子と雛とを対の兄弟として育つ巨鳥は華桌の民にとって家族であり、身体の一部であり、
心の在り処そのものです。 (しかと、蒼色の瞳に力をこめて見つめ返す。) それを危険な戦場に持ち込むことは、身も心も差し出して忠誠を誓う事とお思いください。 -- 飛爛
- (青色の瞳…帝国においてそれは珍しい。カクタァの血筋を引くその眼には、確かに覚悟の輝きを見て取れた)
(しかし、気に食わんな) (その輝きを、轟爛は今までに幾度となく目にしてきたように思う) (生き残ったものが見せる、復讐誓った眼に、それはよく似ていた) ふん、そういったものか。(覗き込むように乗り出していた背を戻し、騎獣を起こす) 使者が着けば俺に通せ。(そういって、自軍の陣へと戻り始めた) -- 轟爛
- はい
(一礼し、戻っていく大きな後姿を見送る。その姿が見えなくなったところで、飛欄は)
(意識して開いたままにしていた手をぎゅっと握る。いまさらになって心臓が激しく鼓動していた。)-- 飛爛
- 大丈夫ですよ姫様、今はこちらが選ばれたようですから。私どもの首がちゃんとつながってるのが
何よりの証拠でございます。しかし剣圧だけで切れるとは、いやはやなんとも恐ろしい。
(傍に居た兵士から手ぬぐいを受け取ると、額にまきつけるクラト。)
(轟爛が自陣へと引いたあと、飛爛とクラトの周りに残ったのはカタクァの歩兵達だけだ。)
(シャツァルの部隊はもっと後方の丘の上で離陸の準備に入っている。)-- クラト
- あ…クラトさっきはありがとう…傷、大丈夫?
(自分が打ち合わせどおりにやれなかったせいで、傷を負わせてしまったことが気になるのか)
(飛爛が心配そうな顔をする。)-- 飛爛
- いやぁ、あまりに鋭い切れ味すぎてもう皮がくっついてしまいましたよハッハッハ!
それよりも、今回の戦、姫様は後方の編隊に居てもらいます。なるべく高度を取って決して敵の上に
降りませんようお願いします。
(でも、と反論しようとする飛爛を抑える。)
大規模な実戦は我々もシャツァル達もはじめてです、姫様を失うわけには行きませんので。
それに、あの兄君様は私達を信用してはおられないようです、気が変わって下からバックリ・・・
なんてことになられても困りますからね。-- クラト
- (その後、斬り捨てられた煙台の使者の首が草原に転がり戦端は切って落された。)
(黄金暦223年冬、帝国南方の鎮守都市煙台は反逆の罪により粛清された。)
(シャツァルの飛行部隊が大規模な軍事作戦に投入された最初の戦いではあったが、)
(赤死隊の猛烈な突進の前に煙台軍はほとんど反撃する間も無くわずか半刻ほどで潰滅。)
(城門の上から煙台総督の斬首体が投げ落とさるも時すでに遅く。)
(結局その街の中で何が起こっていたのか、知る者は誰一人残らなかった。)
- ふん、飛め。(煙台の塔の上から、手中に落ちた街を見下ろしながら笑う)
何を企んでいるかは知らんが、まあいい。今は策に乗ってやろう。この地を得られたことは俺にとっても利を齎す訳だからな。 だが。(上空を飛ぶ一際美しいシャツァルを睨み上げる。飛爛とその愛鳥だ) 最期に全てを得るのはこの俺だ。せいぜいそのときまで、籠の中を飛び回っているといい。 羽を撒き散らし、落ちるまでな!ふふふ・・・はははははは!!!(屍が折り重なる煙台の街に、悪鬼の笑いが木霊した・・・) -- 轟爛
- (姉も、兄も、大人たちも皆そうだ 面と向って口出しできる者など誰一人としていなかったのだ)
(疲れきった頭をめぐらし、回想ついでにふと考えた この兄は孤独を愛して、望んで一人になったのだろうかと) (非道が人の皮を被って生まれ落ちた様な、一回り半くらい年上の兄は…今も変わらずにそこにいた)兄者…ここにおられたか -- 喬爛
- (引き絞った弓が的の中央に突き刺さる。久しぶりに顔を見せた末妹へと、一瞥を放る)
ほほう、虎が山より降りてきたか。久しいな喬。隠居まがいの生活には飽いたか? (もう一度放った矢が、的の中央に刺さった矢の尻を穿つ。そこで体ごと喬爛に向いて、冷たい視線を這わせた) 顔を合わせずとも育つものだ。女になったな。 -- 轟爛
- まさか、兄者の顔が恋しくなったのだ(別に嘘ではない しれっと言ってのけて)兄者こそすっかり偉丈夫になられたものだな
それから…実はもう一つある 他でもない、頼みがあって参ったのだ 人払いはせずともよい(半身を向け、風切音に耳を傾けて) こたびの震災、私の庭でも鉱毒が沸いてな 水源が潰れただけではない 山が崩れて川を塞いだ 人死にも出ている 今でも山道の復旧すらままならぬ有様だ…そこでだな兄者よ(と、言ったところで一呼吸おいた)馬が欲しいのだ 駿馬はいらぬ 力があれば駄馬でもよい 市に出ているものは皆買い占めたいのだが…構わぬだろうか -- 喬爛
- 言ってみろ(楽しげに口の端を上げて、妹の願いを聞く)
震災か。我が栄樂も水銀の害に遇った。しかし、わざわざ俺のところへ出向くということはよほどの事態なのだろうな そこで馬か(再び弓を放ち、的を射抜く) お前も知っているだろうが、俺の元へはそういった嘆願が多く届くのだ。此度の件でさらにな 無論、栄樂の馬は常に頭数をそろえているが、市の全てを売れとなると話は別だ 非常時に馬は欠かせぬ。この機に乗じ、謀反を企てる輩もいるだろう。予備は万全にしておかねばならない …が、他ならぬお前の頼みだ。無碍にはできぬというのも、また偽らざる兄心よ。そこでだ (爬虫類のように体温を感じさせない瞳が、喬爛をとらえた) 一つ、頼まれてくれるか? -- 轟爛
- ならば全部とは言わぬ 半分でもあればよい 正直この災いは人の手に余るのだ この時勢、悠長に復興を待ってなどおれぬ
ふ、相変わらずお優しいことだな(真紅に染まった獣の眼が正面から受け止めて)賭けは好きだ 乗らぬわけがなかろう! 元より無理難題など覚悟の上で参ったのだ 私は何をすればいい…兄者は何を望んでおられるのだ? -- 喬爛
- 決まりだな。いい覚悟だ。(冷酷な唇から、肉食獣を思わせる歯が覗いた)
なに、簡単な事だ。お前の弓の腕を見せてくれればいい。ただし、こちらが用意した的でな (パン!と手を鳴らすと、矢の的が置かれている場所に、兵士がなにやら引き連れてくる) (固定された棒に後ろ手に縛られたのは、まだ若い女と、その子供と思しき、まだ10にも満たない子供だった) あれだ。(ぎゅうっと凶暴なゆがみが唇を走り、固定された的を顎で示した) あの的のうち、どちらか一つを選んで射抜け -- 轟爛
- (兄の方を一瞥もせぬまま瞳が揺れ、小さく唇を噛んだ)近頃の的は人の様な形をしてるのだな…たしかに造作もない
あの的のどちらかに当てればよいのだな(弓を手にとり具合をたしかめ、空いている藁束めがけ二矢、三矢と撃ち込んで) …私は民が好きだ 当たり前の暮らしというものに憧れる この身には到底手の届かぬ尊いものだからな あの二人は連れて行く! かわいいかわいい妹のわがままだ 良かろうな、兄者!(膂力の限り引き絞られた弓はまっすぐ天を指し)
(水を打ったような静けさが降りたのも束の間――女の手首の縛めに、遥かなる高みからの一撃が降りそそいだ!) -- 喬爛
- (喬爛の矢は、女の手首の縛めを突き破り、棒から解放させた)
(それをみて、轟爛の喉の奥から、獣の唸りに似た笑いが、低く流れ出してきた) 喬よ。それは叶わぬ願いだ。あの親子は罪人なのだ(唇が、弧を描いた) 飢えを凌ぐため、数十回と盗みを繰り返した。盗みを三度繰り返さば死罪というのは知っているだろう? ところが二人を捕らえてみると、母が子を、子が母を庇い、どちらが盗みを犯していたのか皆目わからない。 だが俺は両方とも死罪とするには、あまりに不憫と思ってな…。そこで、お前の矢を天の意思代わりとしようと思い至ったのだ。 そして天啓は下された (すい、と手を上げると、柱の影より射手が姿を現し、一斉に矢を放った) (まだ縛られていた子供の体に、吸い込まれるように矢が突き刺さっていく。目の前で我が子が射殺される光景に、母親は狂乱の悲鳴を上げた) ふふふはははははははは!はぁーーーーっはっはっはっは!! -- 轟爛
- (一里も先の針の穴を過たず射抜いたのだ 安堵の笑みはそのまま凍り付き、崩れ落ちてしまいそうな絶望に襲われて)
……兄者ぁッ!!! なぜだ! この喬爛の一矢が天意ならば!! なぜ読み違えられたのだ…兄者の目はそれほどまでに曇っておいでか! (狂おしい激情に身を焦がし、弓を捨てて食って掛かった 憤怒に熔けた真紅の眼に涙をためて、哄笑する覇王の頬に平手を振るう) (そうだ、この兄は同じだ 人の皮を被って人界に迷い出た獣なのだ 口の端が吊り上がり、喜悦にも似た感情が胸を貫いた) 下らぬ座興につき合わされたのだ! 相応の礼はあるのだろうな -- 喬爛
- (乾いた音が響き弓場が水をさしたように静まり返る)
(張り手によって逸れた顔が、ゆっくりと正面を向く。その顔は変わらない嘲笑を浮かべていた) なぜ泣く?お前は弓を手に取った。その地点で、あの親子をおのれの民と天秤にかけていたのだろう? そしてお前は民を取った。愛する民の為に、あの童を犠牲にしたのだ。ええ?そうだろう喬爛!!(豪腕が細首を掴み、万力のような力がこめられていく) いいか、これが世のことわりだ。得る為に奪う。それが世の真だ!誰もがその逃れえぬ檻の中でもがき、足掻き、這いずり回っているのだ!! お前はどちらだ!!奪うのか!奪われるのか!!どちらなんだ!!!ふふふははははは!!!!! (既に喬爛の足は浮かんでいる。手はみしみしとその力を強め…あっさりと手放した) 覚えておけ。貴様の血は奪い続けて流れているのだ。爛の血だ。 (喬爛がこの地を訪れることを読んでいたのか、市場の馬を全て喬爛に売却する旨をしたためた書状を喬爛の前に落とすと、つかつかと歩いていった) -- 轟爛
- ままならぬものだな 兄者のような理不尽がこの天下には満ち満ちている その理不尽に抗えぬ弱さに泣いたのだ!
私は呑まれぬ! 流された先に何があるというのだ 兄者はそこで吼えておられるがよい 似合いの檻ではないか!! ぁ――がっ!!(細首に食い込む五指 鋼鉄のごとく揺るぎない力が気道を断ち、頚骨のあげる不吉な悲鳴が鼓膜まで伝わった) (脳髄を直に殴りつける様な哄笑が止めば再び重力に引かれ、その場にへたり込み激しく咳き込んで) …………私……は…(書状を掴み、こみ上げる吐き気を呪いながら一人その場を後にするのだった) -- 喬爛
- 噴出した水銀の毒に汚染された地域の住民が、納税の延期を求めて、轟爛の、禍々しさすら感じる王宮へと、直訴に来ていた
枯れ枝のような老人。赤子を抱いた母親。歯を食いしばっている若者。 泥にまみれた体を白砂の上へ投げ出し、必死に頭を垂れて、税の延期をと、喉から血を絞り出すように訴えかける 轟欄はそれらを豪奢な椅子に深く腰を下ろし、獲物を嬲る蛇のような視線を落としていた -- 轟爛
- …何という忠民よ
(嘆願の嵐がやんだ頃、重々しい口調で唇を開いた) 確かに、うぬらの言うとおりだ。水銀毒で汚された土地に変わらぬ税を課していては、その地の民は必滅 国を支えるのは民、民をないがしろにすること、それはすなわち、この大爛を滅びの道へといざなう事だ、とこの者らは言ったのだぞ これが忠の心から来るもので無くてなんだ?(周りを囲むように並んでいる兵士や官僚らに、感動した素振りと声で語りかける) それに比べて俺はどうだ!水銀の害が出たことを知りもせず、惰を貪っていたとは…! (拳を握り締め、無念そうに首を振る 官僚の間で、ざわめきが上がり始めた) 許せ、うぬらの言うとおりだ。税の延期を認めよう!うぬらの覚悟、しかと俺の心に響いたぞ! -- 轟爛
- 轟爛の言葉に、地に伏していた農民たちが歓喜の声を上げた
泣きながら頭を垂れ、轟爛を神と讃える女。感激の抱擁を交わす親子… 轟爛はそのようすを、穏やかな笑みを讃えて、頷きながら眺めていた…そして 唇が、ぎゅうっとつり上がった --
- しかし───
(その言葉に歓喜は止み、みな一同に轟爛を見上げた。官僚や兵士は、いまから何が起こるのか、そして、なぜ轟爛がこれほど慈悲深かったのかを、瞬時に理解した) 税の延期は認めるが、お前たちが俺に直訴にきた罪は消えん。法によると、施政者への直訴は棍棒による背打ち30回と決められているのだ。 心苦しい事だが、俺はこの永樂の政を司る身…これを曲げては帝に顔が立たないのだ。 だが俺は知っているぞ!栄樂のため、そしてこの大爛の為に、罰を省みず直訴にきたお前たちは皆喜んで刑に甘んじる覚悟であるという事を! ああ、なんという忠義の心よ!執行官を呼べ!!!! -- 轟爛
- 農民たちの顔に、絶望が広がった
黒骨製の禍々しい棍棒による背打ちは、屈強な男でさえ、数発と耐えられぬ拷問である それを30回ということは、すなわち、死刑を意味する 張り裂けるような悲鳴と共に、慈悲を求める声が壇上に投げかけられる だがそれらを、まるで至高の音楽を聴くように微笑んでいる轟爛を見たとき 農民たちは、全てを悟った 黒衣装に身を包んだ執行官が、農民たちを取り囲んだ いつの間にか兵士が脇を固め、既にこの場が刑場と貸した事をしらしめている 痩せた老人が最初に引き釣り出された --
- 執行!!
(轟爛の号令で、振り上げられた棍棒が、老人の背を叩いた。奇妙な音が響き、老人の背中がくりゃりとひん曲がる) (その一撃で、74になる老人は死亡したのだが、刑は30発と決められている。残り29発、老人が原型をとどめなくなるまで棍棒は打ち下ろされた) (死が、狂気が、城に響き渡っていく) 待て (尿を漏らした妊婦が引き釣り出された時、轟爛が口を開いた 妊婦の顔には、お見逃しという奇跡が起こるかもしれないという、淡い希望が表れている) (膨らんだ腹を、轟爛は指差した) その女は60回だ -- 轟爛
- やがて、悲鳴が城に響かなくなった頃、白砂が敷き詰められた中庭には、夥しい数の死体が積み重なっていた
赤子から老人まで、全てが棍棒で打ちのめされ、肉塊と化して死んでいた 官僚が吐き気を堪えながら、轟爛へと刑の終了を報せにいったとき、戦慄が走った 轟爛は、頬杖をついたまま、すやすやと寝息を立てていた まるで、子守唄を聴いて眠る、赤子のように… 農民45名、不埒なる直訴により、背打ちに処す──記録にはたったその一文しか記されなかった 黄金歴223年、三月のことであった --
- (帝都の離宮。その回廊にて……見たくないものを見たような顔で、正面から歩いてくる遙か位階が上の兄に会釈をする)
(目が合った以上、無視はできない) ……轟爛様、本日もご健勝なようで何よりです (深く、足をとめて頭を下げる) -- 宗爛
- ほお、誰かと思えば (眦をぴくりと吊り上げて、末弟を見下ろした)
宗ではないか。六稜よりよくぞ参ったな 辺境を納めていると親父殿の呼び出しに応えるのも一苦労だろう? (快活とも取れる口ぶりでそう言った 近しい間柄だと言わんばかりに、名を宗と呼んですらいる) そうかしこまるな。兄弟ではないか。兄上と呼べ (頭を下げた宗爛の肩に手を置いて、ぎゅっと力を込める) -- 轟爛
- いえ……これが勤めですので。皇帝陛下のお呼び出しとあらば、何を投げ打っても疾かく馳せ参じ……
っ……!(強く肩を抉るように握られて唇を噛み締める。まるで、蠍の鋏に挟まれたような力) ……わかりました、兄上 (搾り出すように、そう呟く) (昔からこの兄の考えていることは良く分からなかった。今でもそれなりによくしてもらってはいるが……その狙いが分からない) (邪悪さの深淵。その先。底の見えぬ邪悪であるからこそ、天壌帝からの寵愛を一身に受ける意味もわかるというもの) (……この男は、野望が肉を受けて形になったものだ) -- 宗爛
- それでいい(満足そうに唇を吊り上げた 蛇のような眼は、何を考えているか全く読ませない)
少し歩くか。つまらん庭だが語らう分には問題ない (豪華絢爛。世の縮図をディテールとして取り入れた手入れの行き届いた庭を歩く) 前の野賊狩りでは、小隊で倍の敵を鎮圧したそうだな。この眼で見てみたかったぞ ところで、お前がここにいるという事は、あの大山羊も連れてきているのだろう? 何といったか…そう、黒咲だ (背を向けたまま、思い出すような仕草で) -- 轟爛
- (さながら、帝国の、東の贅を全て集めたような庭園をみて、この兄はつまらないと吐き捨てる)
(おそらく、真実だろう。この兄にとっては本当につまらないのだ) (この兄からすればこんな庭は……きっと今すぐ焼き払いたいに違いない。この恐ろしい男は、その美が燃え上がる過程をみて楽しむに決まっているのだ) は……兄上譲りの武の賜物でありましょう。兄上も、先日は不穏分子の潜伏する都市を4,5個鎮圧したとか…… (実際は殲滅という言葉も生ぬるいほどの焦土にしたらしいが……それも恐らく真実だろう。以前にこの兄が攻め滅ぼした町を一つ、新都として復興した事があるが……酷い有様だった) (今回もあんな光景が同じ国で、同じ大地の上に広がっていると思うと……軽く眩暈すら覚える) (そのとき、ふと、自分の相棒についてたずねられ、) は? え、あ……はい、今はここの獣舎で休ませていますが……(ついつい、頓狂な声が出てしまう) -- 宗爛
- ふん、いい大山羊だ。毛並みも角も申し分ない。流石の俺もあのような山羊は持たぬ
まさに帝国一だろうな… (いつの間に振り向いたのか、轟爛が宗を見下ろしていた。瞳は冷たく輝き、唇は嘲るように弧を描いている) どうだ宗。あの山羊を俺に贈ってはくれないか?あの背に跨りいくさばを駆けてみたいのだ 「兄上」の頼みを聞いてくれるな? (獣の腕を肩に置き、覗き込むように顔を寄せる) (宗爛が、黒咲を兄弟のように愛しているのをこの男は知っているのだ) (知っていて、こうしているのだ) (イエスと応えれば黒咲は次の日には肉になっているだろう) (NOと応えれば、肩に置かれている手が、首に置かれるだろう) (残酷な笑みから、くっくっくと声が漏れた) -- 轟爛
- (そういわれたとき、そう目で語られたとき。心臓が畏縮した)
(目が如実に語っている。お前を嬲っていると。その顔が見たかったと。嗜虐に歪んでいる) (悪魔め……!) (それでも、その言葉は顔にも出さず、毅然と言い放つ) (動揺を、恐れをこれ以上みせてはいけない。見えれば見せたぶんだけこの男はそれを引き出してくる) (勇気を出して……死ぬ覚悟でいう) 申し訳ありませんが兄上。黒咲は元々は皇帝陛下より直接下賜されたものです 私の一存では決めかねます (これは本当のことである。だが、この言葉でこの兄が引き下がってくれるかどうかはわからない) (だが、俺も引き下がるわけにはいかない) (黒咲を……親友を、みすみす悪魔に引き渡すわけにはいかないのだ) -- 宗爛
- (しん…と庭に静寂が広がる)
(宗爛の赤い瞳と、轟爛の黒い瞳がその静寂の中、視線をぶつけ合っている) (薄い瞼が下りて、鋭い目を更に引き絞り…) …ふ ふはは… ふははははははぁーーーーっはっはっはっは! (仰け反って天に向かって咆えるように笑い声を上げた。狂気と歓喜が混ざった獣の声だった) そうだったな!今思い出したが、黒咲はお前の大切な友ではないか 俺としたことが、迂闊な言を吐いたものだ。忘れろ(ポン、と肩を叩くと、そのまま庭を出る道へと踵を返した) しかし羨ましいぞ宗よ。親父殿から賜ったものを大切にしているのだから (くるりと振り返り、歯を見せて笑った) 俺は死なせてしまったのでな (ふはははは!と笑いながら、宗爛の前から去って行った…) -- 轟爛
- (その狂笑が完全に天へと消え、その悪魔の姿が彼方へと去った事をしっかりと確認してから)
……っ……はぁっ! ……はぁっ!(ようやく、脱力したように息を吐き、地に膝をつく) (本当に、殺されるかと思った。それをしても可笑しくない男だった) (何人の兄が、姉が、妹が、弟が、あの男に殺されたか覚えていない) (数えるのもバカらしくなる。そういう男なのだあの男は) ……奴がもし次期皇帝になるようなら…… ……いや、いうまい (こちらもまた、踵を返し、獣舎へと消える) (悪魔から、一歩でも遠ざかる為に) -- 宗爛
- (男が一人、豪奢な椅子に座り、頬杖をして転寝をしている)
(野獣のような形相が、みしりと哂った きっと戦の夢をみているのだろう) (鼻孔がひくひくと動く 獣のように きっと夢の中の血風を嗅いでいるのだろう) (やがてそして、男は目を開けた) 戦だ、戦の音だ --
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