黄昏の色に染まり 微睡む世界
幾多の強く煌めく 命の結びたち
儚き宿命の その軌跡 讃えて
歌声よ 響け 風に乗せ
移ろう影 †
3行 †
簡単に分かること †
見れば分かること
- 大きなフードと無骨なガスマスク(屋外)
長い薄緑の髪が溢れている
顔は見えない
- 大きな羽織り
肌は見えない
ただし品は良いものであり、貴族か…それに飼われるもの
話せば分かること
- 少女
声は細く高い
- 世間知らず
態度が大きく常識がない
- 人間嫌い
態度が悪いのは人間に対してだけ
人間は嫌い †
瞞しの聖女 †
()内は明かされた時期を示す。
調べれば分かること †
予知夢を見る聖女
- 名前はアフィクルルカ
- 予知夢を見る
抽象的な詩のように紡がれるため解釈次第の部分もある
正しく解釈できるのであれば 詩は確実に現実となる
- 上層貴族セリスウェティラの下に庇護されている
聖女と呼ばれながらも実質は飼われている状態に近い
そもそも「聖女」という情報を流したのはセリスウェティラ一族の政治的思惑である
セリスウェティラ一族は聖女を発見し、適切に「護っている」のである
莫大な利益を齎しているため扱いは良い
普段は屋敷の奥で暮らしているが、市街に出ることもある
見張りを付けられるものの、それなりに自由がある
- 半人半妖
羽織りの下には蝶のような羽を持つという
- 実際の出自は不明
上層貴族セリスウェティラのこと
- スリュヘイムにおいて上から数えた方が早い大貴族
- 莫大な富、土地を持つ
その幾許かはアフィクルルカによるものである
- 屋敷は首都上層に構えられている
気軽に入ることは不可能
訪れたければそれなりの地位が必要となる
- 汚染公に謁見したことがあると言われている
- 当主の座に収まっているのは八方美人で狡猾な初老の男性
有翼のメイドのこと
- 純白の翼を持つメイド
天使ではない
- アフィクルルカの事を大事に思っている
- アフィクルルカが気を許している
- セリスウェティラの当主には良く思われていない
アフィクルルカから聞かなければ分からないこと †
予知夢の詳細
- 夢として知ったこと全てをセリスウェティラに流しているわけではない
- 予知できるのは1年ほど先まで
- (黄金暦223年 7月)何を見るかは分からない
- (黄金暦223年 7月)個人に関するものよりも大局的なものの方が多い
アフィクルルカのこと
- アフィクルルカがセリスウェティラに従うのには理由がある
何か、誰かを匿っている
(黄金暦223年 7月)姉を庇っている。
- 汚染から生まれた妖精と人間のハーフ
汚染によって受ける影響が人間に比べて極端に少ない
- 背にある羽は破れている
空を飛べない
- ガスマスクは不必要
セリスウェティラへのあてつけと、姿を隠すために着用している
- よく周囲には七色の蝶が付き従っている
ハノイとの連絡手段
アフィクルルカと有翼のメイドのこと
- 数年前にアフィクルルカがメイドを拾った
以来メイドは献身的にアフィクルルカとハノイにのみ仕えている
アフィクルルカの姉のこと
(黄金暦223年 7月)
- ハノイという名前
- アフィクルルカと双子
基本素体は同じだが腕や肩から寄生するように植物を生やしている
能力も違い、オリハルコンを練成する力を持つ
- 常に周囲には七色の蝶が付き従っている
魔力でできた実体のない蝶
- 両足がない
太腿真中辺りから切断されている
- 盲目
- 口が利けない
代わりにテレパスで意思疎通を行う
- 羽はあるが飛べない
機能しない
アフィクルルカとハノイの能力のこと
- 二人揃うと様々な魔術が使える
揃っていないと出来ないことの方が多い
例えば幻惑、中レベル以上の攻撃・補助・回復魔術は揃わないと出来ない
- 力の源はスリュヘイムの汚染
スリュヘイムから離れれば当然弱まる
少女と有翼のメイド †
黄金暦 223年 1月 †
「はあ…よく依頼を受けてくださいましたね、そのお方」
メイドが苦笑いを浮かべながら、乱れてしまったアフィクルルカの髪を整える。
ここは宛がわれた一室。
広く華美な装飾が施された胸糞悪くなる趣味の悪い部屋。
貴族というのは外聞のためならばでっち上げた聖女にでさえこのような部屋を用意する。
有り余る富を持つ者は本当に意味が分からない。
「お嬢様 差し出がましいかもしれませんが言わせてください。」
豊かな羽毛に覆われた羽を少し揺らしてメイドは続ける。
「依頼をするということはお願いをすると言う事です。 そのマイスターが仰るとおりでもっと誠意を表すべきですよ。」
少女は黙ったまま何も応えない。
ぷくっと膨らませた頬に口を尖らせている様は歳相応で、かわいらしくもあった。
「膨れてもダメです。」
しかしメイドは絆される事はなかった。
せっせと髪を直し、服を直し、装飾のずれを直し…どこに出しても大丈夫な聖女へと仕立て上げた。
「次はご同行させていただけませんか? お嬢様はもっと人との接し方を学ばれる必要があると思います。」
一介のメイドにしては少々出過ぎたことを言っているのは彼女自身、有翼のメイドもわかっていたが、少女が世間を学ぶにはいい機会だ。
この先計画を実行しようと思うのであれば尚更に。
やはり少女は何も応えなかったが、変事がないと言う事は拒絶ではない。
来月は何とか二人でこの屋敷を抜け出して…ゴーレムマイスターというお方の元に訪れようと決める。
「さあ出来ましたよお嬢様。 お役目までもう時間はありません。」
考えはここまでだ。 このあと少女には大切な役目がある。
今日も無事送り出し、そして出迎えることが出来るように祈った。
黄金暦 223年 2月 †
「信じられない。」
「どういうこと。」
「ありえない。」
少女は屋敷についてからずっとこんな調子だった。
不満を口にしなければ爆発してしまう、とまさに態度で示している。
「お嬢様…… 依頼にはある程度の決まりが必要なのです。 仕様だけでは足りません。」
彼女がどうしてここまで不機嫌なのかを唯一知る有翼のメイドは必死に宥めた。
「何故必要なのか いつまでに必要なのか どの程度支払えるのか 色々な条件を明かして初めて契約となりうるのです。」
セリスウェティラの人間以外は自分の都合で回っていると本当に思っていそうな少女にどうしたら常識を教えることができるのか。
頭の痛い問題だったが、今回の件……
ゴーレムマイスターの不在はいい薬になった。
黄金暦 223年 4月 †
未曽有の大飢饉だというのにこの屋敷にはそんな気配は微塵もない。
潤沢な湯、豊富な食物、今までよりも豪華絢爛にさえなったように見える。
それもすべて少女の予知夢のおかげ。
1年前に地震、そして飢饉を予知した時からセリスウェティラは巧妙に食料を集め始めた。
大々的にしてしまっては周囲に漏れてしまうのであくまでもひっそりとしかし確実に。
ほとんどの食糧や水は輸入したものであるのに、買値の10倍近い値段を吹っ掛けてもなお売れると当主は自慢げに話していた。
物によっては30倍でも売れる。
今回の件もセリスウェティラは力を増しただけだった。
少女は1年前この先戦になると予言した。
これもきっと現実となるのだろう。
飢饉も戦もセリスウェティラの地位を向上させる道具でしかないのか。
黄金暦 223年 6月 †
少女は御忍びから上機嫌で戻った。
依頼が上々というだけでなくもう一つ嬉しい知らせがある。
喜んでくれるだろうか。
感激するだろうか。
笑ってくれるだろうか。
思いを馳せている間が一番幸せなのかもしれない。
珍しく上機嫌な少女を見てメイドはいたく喜んだ。
一年に数度あるかないかの程度。
腕によりをかけてアップルパイを焼いた。
食料難のこの国において最大限の贅沢、趣向品。
黄金暦 223年 9月 †
少女の傍に蝶がいない。
少女はもう二週間は膨れている。
「お嬢様、ハノイ様と喧嘩でもなされたのですか?」
返事は無い。
取り付くしまもないとはこのことだ。
黄金暦 223年 10月 †
黄金暦 223年 11月 †
「お手紙は無事出すことができましたか?」
「ハノイ様とは仲直りできたようで安心しました。」
返事はないがメイドはしゃべり続ける。 返事がないのが日常で通常だ。
少女がゴーレムマイスターへあてた手紙の内容を知ったらメイドは眩暈で倒れたかもしれないが幸い見る前に出してしまったので見ていない。
挨拶もない風情の欠片もない、宛名すらない手紙。
意味は通じるだろう。 情報的に必要なものは書かれている。
叩きを片手に忙しなく作業は進められていく。
「もうすぐ滅ぶ。 来月…。」
「東ローディアが消える。」
突然少女は誰に向けるでもなく呟いた。
予知は必ず現実になる。
であれば何らかの毒(彼女はそれが水銀であると知り得ない)によって多くの兵士が、民が、虐殺される。
だからといって特に何もしない。
少女は淡々と語るだけ。
そこには何の感情もなかった。
動くのはセリスウェティラであり、自らの利益に向けてのみ。
正義とは利益。
既に当家と癒着の強い家には情報を秘密裏に流してある。
今頃はどこぞの国に亡命していることであろう。
そしてそこでまた私益を増やして私欲を満たす。 セリスウェティラの名の下で。
正義とは利益。
黄金暦224年 1月 †
少女の姉が体調を崩した。
姉妹は体が強くない。
生死に関しては人間よりもよっぽどしぶとく生き残るが病にはよく罹る。
厄介なことに人間の薬は使えないことが多く、悪影響を及ぼす。
ただ治るのを待つしかない。
それは少女にも、メイドにも、辛いことだった。
黄金暦224年 4月 †
会話にいよいよ「計画」がよくのぼるようになった。
もう誰に聞かれても簡単に覆りはしやしない。 口に出すのを憚る必要もない。
聞かれればいい。
警戒すればいい。
敢えて漏らすのも欺くための布石にすぎない。
想像を超えて動くための準備は進められている。
黄金暦224年 8月 †
通常よりもさらに気だるげにベッドに倒れ込む少女。
4月頃から悪化をはじめ、悪くなるばかりだ。
メイドは心配したが止めることはなかった。
止めても無駄だとわかっていたし、「計画」のために必要だと分かっていた。
それでも心はずきずきと痛みを訴えた。
貴方の灯火の 温もり想い出す
み空を仰げば 瞬く星に 紡ぐ願い
折り重なる歴史 流れる時の中
再び巡り逢える その日迄 この歌奏でて
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